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みかんの香りをかぐたびにデミオを

実家に帰り、デミオに乗る。2003年くらいのモデルだから、20年近く前の車だ。オレンジ色で、純正のエアロパーツがついていて、チョロQみたいなフォルムでかわいい。父が所有していたが、あまり乗らないのでここ10年ほど借りていたのだ。だが今は、父は今年の1月に亡くなり、権利上でもぼくのものになってしまった。

久々に乗ったデミオは相変わらずハンドルの動きに敏感で、ぼくの意思が確かに伝わっていると実感できる。唯一こちらの意図と違う動きがあるとすれば、スムーズにブレーキを踏めたとき、そのスムーズさに呼応するかのように、みかんの香りが車体から立ち昇ることくらいだ。

逆に、雑なギュギュっとした踏み方をしてしまうと、どんぐりの匂いがブレーキのあたりから感じられる。森の柔らかい土のような、コクのある芳香でイヤではないけれど、やっぱりフレッシュで甘いみかんのほうが達成感があるし、デミオの個性という気がする。10年乗り続けた結果、みかんの香りをかぐたびに、この車のことを思い出すようになってしまった。

父はデミオを含め自動車を4台所有しており、ぼくはそのうち3台を相続することになった。父の遺言だからしかたない。ひとまず実家の庭に停めさせてもらっているが、東横線沿いに暮らす身としては、日常生活で車を使うシーンなどほとんどなく、ましてや複数台となると完全に持て余している。手放すことを考えなければいけないが、もう数か月で、あの香りの似合う季節が来てしまう。

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