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美容院は命を救う

毎日毎日異常に暑い。暑くて暑くて何もしたくない。暑くなくても何もしたくないのに、暑かったらもうおしまいだ。何でこんなに暑いのか。

髪が伸びたからかもしれない。

というわけで髪を切ることにした。しかし今日は火曜日。通例によって多くの美容院が店休日とする曜日である。以前そのあたりの話を美容師に尋ね、かなり詳しく歴史を教えてもらったのに、全部忘れた。美容院での会話というのはそういうものなのだ。

しかし、いくら火曜日だからといって、全ての美容院が休みなわけではない。街なかには多くの美容院が軒を構えており、場所によっては歯医者と同じくらい目にする世の中だ。歩いて行ける範囲内で探しても、営業中の店はあるだろう。

そう思って検索すると、想像以上に多くの店がヒットした。その中で、まだ行ったことがなくて安い店を探してみれば、午前中に予約の取れる店が見つかった。私はすぐさま予約をした。

……のが昨日の晩。


今朝は子供達を送り届けた後、喫茶店でモーニングを食べながら、優雅にメール対応をしてから美容院に向かうという、デキるオトナの朝を演出しようかと考えていたのだが、暑かったのでやめた。家を出た瞬間に諦めた。

大人の足ならば5分程度もかからない、保育園までの往復だけで汗が滲む。何でこんなに暑いのか。政治が悪いのか。髪が伸びているからなのか。それとも上下黒を着ているからか。

普段以上にどうでもいいことばかりを考えながら、涼しい自宅でメール対応を済ませ、予約した11時に間に合うよう家を出る。そしてまた汗を滲ませながら、美容院のドアに手をかけた。

初めて訪れた美容院は、実に安心感のある店だった。小綺麗でありながらも雑然とした雰囲気が漂い、若すぎず年寄りすぎない女性が明るく迎えてくれて、ヨレヨレそうなのに意外とかけ心地の良いソファがあり、ヘンに強すぎる香りはせず、陽当たりは良く、そして常に「Paul van Dyk」みたいな曲が程好い音量で流れていた。

担当してくれた女性の顔は、マスクをしていたのでよくわからない。ただ物腰や首元の雰囲気からして40台そこそこだろう。つまり私の歳と大差ない。

「特にこだわりは無いから、とにかく短く、そしてセットの必要がないラクな髪型にしてくれ」という旨の雑なオーダーにも笑顔で対応してくれて、それでも切り過ぎないよう丁寧且つ慎重に事を運んでくれた。眉カットも小型のハサミで、少しずつ微調整を加えながら丹念に揃えてくれたし、シャンプーだってジックリと隅々まで洗い尽くし隙を見せない。

トークの具合も程々で、賑やか過ぎず静か過ぎない。余計なことは訊かないし、訊いてもいないことは喋らない。私の冗談には素直に笑ってくれる(と私が感じたから本当かどうかは考えない)し、適当に聞き流すようなことはせずにきちんと会話をしてくれる。

ともすれば余計に据わりが悪くなる、私の苦手な「最後にマッサージしてもよろしいでしょうか」は、最初から無かった。これは実に好感が持てる。あのマッサージについては、断れば何だか気まずくなるし、応じても労力に見合った成果が得られないものだと思っている。今すぐに法律で禁止されたとしても、私は一向に構わない。

そんな心地良い店の中には先客がいた。置物かと思うくらいに動かなかった女性であり、その姿は確認していないものの、雰囲気や話し声からして、かなりのベテランだ。ベテランの客である。そんなマダムを担当していたのは、店の奥からノソリと出て来たベテランの男性だった。派手な髪色と髪型に加え、鮮烈なアロハシャツがその存在感を際立たせている。

2人のやりとり(声だけ)から、1年や2年の付き合いではなさそうだ。やはり長いことこの店に通い続ける大ベテランなのだろう。ベテランの客を担当するのはベテランの美容師(派手)というわけだ。


様々な情報で私を楽しませてくれた美容院。請求された金額は3,500円。また行こう。

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