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モンハンNOWをプレイしながらリアルファンゴから逃げた話

先日、期待の位置ゲー『モンハンNOW』がリリースされた。

リリース当日の私は、妻の実家である山奥に引っ込んでいたのだが、事前登録していたこともあってプレイを開始した。

少なくとも序盤のチュートリアル(HR11程度)までは場所の影響を殆ど受けなかったし、その後も大きなハンデを感じることはなかった。

家の中に居ても大型を狩れなくはなかったし、殆ど電車の来ない無人駅とは言え、目の前に駅があったので採取ポイントにもアクセスできた。しかし過疎化の進む村の中ではマルチプレイだけが絶望的であり、どんな大型に遭遇しようともソロプレイを余儀なくされた。そうは言っても序盤には厄介な大型も殆どおらず、特に困ることはなかったと言える。

それでも位置ゲーであるわけだから、歩き回ってナンボということになるので、喫煙がてらちょくちょく近所を散歩していた。三年前に暫く滞在させてもらった時にも毎日のように散歩をしていたので、慣れた道であった。そしてその先々には、意外にも多くの採取ポイントや大型が待ち受けていた。マルチプレイをできないことにさえ目を瞑れば快適なプレイ環境だった。

舗装された道でも大体こんな感じ

奴に出会うまでは…。

プレイ開始から三日目、ハンターランクがどれくらいだったかは覚えていないがパオウルムーの討伐が出てきたあたりだった。まだまだ採取ポイントからの素材が枯渇しがちな頃である。私はいつも通り、夜中に散歩を開始した。街頭は点在しているものの、場所によってはかなり暗い。それでもかつて月や夜空の撮影スポットを探し回った経験がある。地理や地面の様子はきちんと把握できている。

日中はとんでもなく暑かったが夜は幾らか涼しく、直前まで呑んでいたビールの余韻も心地良く、散歩と採取そして時々狩猟を楽しんでいた。

そんな私がゆっくりと田んぼの横を過ぎ去ろうとしたその時、田んぼの方からガサガサと物音が聞こえた。反射的にそちらへ目を向けるも、特に動きはない。人の影も見当たらない。私が言えた立場ではないが、こんな時間(と言っても24時過ぎ)に真っ暗な田んぼに人が居たらかなり怖い。きっと話の通じる相手ではない。

が、実際に居たのは恐らくもっと話の通じない相手であった。暫しの静寂の後、ドタドタと動物が駆けるような音がし、直後に何かが田んぼを囲むネットに衝突するような音がした。猪的な何かが田んぼを荒らしているのだ。

危険を察知した私は、極力息をひそめながら可能な限り早足で逃げた。私が歩いている道は田んぼよりも50cm程度高い筈なので、猪が容易に突破できる壁ではないだろう。そうは思いながらも大急ぎで立ち去った。しかし走るのも却って危険そうだと判断し、なるべく静かにである。

家からは遠ざかってしまったが、少し先にあるトンネルをくぐれば少し大きな通りに出られる。そこまで出れば多少は車が走っているし、イノシシが登れないような塀などの建造物には事欠かない筈だ。とにかく私はトンネルへ急いだ。

そのトンネルは非常に短いトンネルであるものの、明かりは全く無い。普段殆ど人が歩くような場所ではないし、車が出入りすることも稀だ。日中でも比較的怖めなトンネルである。が、今はとにかく目の前の脅威から逃げることが先決だ。一瞬の躊躇の末に私はトンネルを駆け抜けた。何も見えないからこそ、昼間より怖くなかった気がする。

問題のトンネル

トンネルを抜けた私は車のヘッドライトを見て胸を撫で下ろした。人類の築き上げた文明に、ここまで安心したことはない。

そこから少し歩けば冒頭に書いた採取ポイントの無人駅であり、その無人駅を抜ければすぐに家へと戻れる。危機を脱した私は余裕の表情で歩き出し、少し寄り道をしながら駅へと向かった。途中で民家から大きな物音がしたのには少し驚いたが、猪の足音に比べれば人間のたてる音なんて恐怖でも何でもない。人間がたてた音とは限らないが…。

ほどなくして駅へ到着すると、センサーが反応してあたりを煌々と照らした。何たる安心感だろう。歩道橋を渡って線路を越え、そこからまた数段の階段を降りた先にある小川…というよりも溝に架けられた細く短い橋を渡ればすぐ家に着く。

怖くはあったが面白い経験だったなと呑気な気分で階段を降りようとした刹那、再び聞き慣れない物音が私を襲った。どんな音だったか、記憶を頼りに文字に起こすとすれば以下のようなものになる。

「フゴゴォォ!!」

「ブルルッ」

完全に獰猛な動物がたてる音…というか声である。ナンなら威嚇である。

私は慌てて歩道橋を駆け上がった。ヤツは果たして階段を登れるのか、だとしたらそれはどれくらいのスピードか。歩道橋の上にある手摺や柵には登れるのか…等と色々な考えが頭を駆け巡ったが、今回はもう走る意外の選択肢を私の本能が許さなかった。

階段を駆け上がり息を整え、歩道橋の上から様子を伺う。歩道橋の上は明るいものの、下の様子は全くわからない。駆け寄ってくるものも走り去るものも見当たらない。気配すら察知できない。感じるのは自身の高鳴る鼓動のみだ。

家は目の前に見えているというのに、そこまでの距離は途方もなく遠いものに感じる。

できることが何もないと感じた私は、ひとまず妻にメールを送ってみることにした。家を出る時には起きていたが、もう寝ているだろう。そうは思いながら、他にすることが思い浮かばなかった。

幸いにも妻は起きており、すぐに返事が届いた。自業自得だと嘲ることも責めることもなく、ただ私の身を案じてくれる妻の優しさが有り難い。他愛のない冗談のようなメールを何度か送りあったが、特に状況を打開する策は浮かばない。そりゃそうだ。

それでも玄関の明かりを点けてくれたので、よりゴールが明確なものとなり、気分的にはかなり楽になった。二階の窓から顔を出した妻を見て、東西分裂時代はこういうものだった(多分違う)のかなどと思いつつ、私は意を決して動くことにした。石を投げて気を逸らした隙に逃げるなり何なりしてみるという旨のメールだけ送り、私は再び猪という名のベルリンの壁へ向けて歩き出した。

問題のポイントへ差し掛かるも、物音はしない。何の気配も無い。壁はいつの間にか消え去っていた。

こうして私のリアルクエストは終わった。


翌朝、夜中に歩いた道をなぞるようにして歩いてみた。すると田んぼのあちこちに荒らされた形跡があり、ネットには補強の跡も見られた。

写真ではわかりにくいが、ミステリーサークルのようになっていた

やはりヤツは確かにすぐそこに存在したのだ。イマジナリーファンゴではなく、現実の猪だったのだ。

その晩、義父が私に「これでも無いよりはマシだろう」と懐中電灯を手渡してくれた。私が修行中のパダワンであれば、光の刃が出る可能性に賭けたかも知れない。しかし生憎単なるサラリーマンである。マスターの厚意だけは受け取り、深夜の散歩は控えた。

そんな私のハンターランクは40になった。

いつの間にか実年齢を上回った

レウス討伐に向け、レイギエナとトビカガチを探して深夜徘徊する日々である。何しろ都内の夜は明るいのだ。


今回のことで改めて歩きスマホの危険性と、立ち入るべき場所かどうかの判断を正しく行うことの重要性を実感した。いちハンターとして、危険な状態に陥る前に冷静な判断を下す必要があるのだ。

と、最後に少しだけ教訓めいたことを書いて終わりにしたい。

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