日本人MLB分析 〜澤村拓一〜
以前2020年にMLBデビューした以下の3選手について分析してみた。
・山口俊編:https://note.com/yofs/n/nc53240dd5769
・筒香嘉智編:https://note.com/yofs/n/n1ead717de92f
・秋山翔吾編:https://note.com/yofs/n/n3fe3be368a5a
今回は澤村拓一を分析してみる。
分析のきっかけ
巨人時代から力のあるストレートとスプリットを武器に戦っているイメージであったが、怪我などもあり、2軍暮らしが続いていた。
しかし、そんな中、澤村投手は2020年途中、香月一也とのトレードで巨人から千葉ロッテ移籍した。
最近の巨人は「飼い潰されるくらいなら他の球団で…」という思考になっており、澤村もそれに伴った移籍だと思われる。
しかし、ロッテに移籍後の防御率は1.71であり、非常に改善された。
常に見ていたわけではないため、しっかり言及できないが、コントロールが改善されたからなのではないかと考えている。
そもそもストレート、スライダー、スプリットが武器であり、それぞれの精度は十分に高いため、コントロールが良ければ確かになかなか打つことは難しいのは容易に理解できる。
そんな中メジャー挑戦となった訳だが、個人的には期待していた。
平野投手や田中将大投手、大谷投手など回転数を抑えた上でジャイロ回転させる類のスプリットはMLBでも珍しいため、それを得意球とするピッチャーはMLBでもそれなりに成績が残せているイメージがある。
澤村投手もその類のピッチャーであり、ストレートも力強いため、MLBでの活躍はある程度可能性あると思っており、どのようなデータが出てくるかも興味深かった。
そこで今回は澤村投手のデータを見て、分析してみることとした。
総合的な指標
まずは澤村投手の各種指標を総合的に見て、MLBでどのような投手なのかを見てみる。
下の左図は各主要変化球の球速帯域、右図はMLB全体において澤村投手が各指標でどれくらいの場所に位置しているかを示した図である。
まず、各主要変化球の球速帯域を見てみる。
これは図を見てもわかるとおり、全変化球とも点線で示されているMLB平均より速い球を投げていることがわかる。
そしてその中で特に着目したいのはやはりスプリットである。
左図ではチェンジアップと示されているが、「スプリットチェンジ」と言う言葉もあるとおり、例えばスプリットを投げていても、他の人のチェンジアップだったりすることも多いため、比較的混同されて表示されることがある。
話を元に戻すが、ストレートの平均球速は96mph(約154.5km/h)、スプリットの平均球速は92mph(約148km/h)である。
これを他の投手と比較すると、大谷のスプリットは88mph(約141.5km/h)、サイ・ヤング賞候補常連で、最速102mph(164km/h)を投じるデグローム投手のチェンジアップは91mph(146.5km/h)であり、それらの投手と比較しても非常に速いスプリットを投じていることがわかる。
さらにストレートとの球速差は6~7km/h程度と小さいため、バッターは途中までストレートとの見分けが付きにくいのではないかと推測される。
次に右図を見てみる。
これは各指標のpercentileを示したもので、数値が大きければ大きいほど(赤ければ赤いほど)その指標についてMLBでは上位に、数値が小さければ小さいほど(青ければ青いほど)その指標についてMLBでは下位に位置しているということである。
これをみる限り、全体的に各指標はMLBでは下位に位置していることがわかり、その中でも特にAvg Exit Velocity(平均打球初速度) とBarrel%は特に低い指標になっている。
これが意味することとしては、バッターのバットに当たると、速い速度の打球が飛んでいき、結果長打になりやすい打球が飛んでいっていることを示している。
さらにBB%(与四球率)も良い値ではなく、多く四球を出しているため、これらの指標を用いて算出されるxSLG(HRや三振、四死球などから算出される、期待される被長打率)xERA(期待される防御率)など他の値も低くなっていると思われる。
また、個人的に少し予想外で着目したい点としてはストレートのスピン量が低い値であったことであるが、こちらに関しては後述することとする。
全体的に低い値である一方で、いくつかMLB平均より突出して良い値を示しているものがある。
それが、K%(奪三振率)、Whiff%(スイングあたりの空振り率)、Fastball velocity(速球の球速)、Chase Rate(ボール球を振らせた割合)である。
これらが意味することとしては、対戦打者はボール球を初め多く空振りを奪っており、結果三振が多く奪えているということである。
このような結果を残せている理由は、スプリットが有効であるからと考えるのが自然であろう。
スプリットは、空振りを取るのに有効であり、特に真ん中付近から低めのボール球を振らせるような使い方が有効である。
さらにストレートとスプリットの球速差も小さいため、結果打者は特に低めのボール球を空振りする傾向があることは容易に想像つく。
各球種の分析
それでは具体的に球種ごとに詳細に分析する。
以下に各球種の成績を示す。
まず、上表では示されていないが、各球種の割合は以下である。
・フォーシーム(ストレート):46.4%
・スプリット:33.7%
・スライダー:19.9%
その上で話をすすめるが、やはり上記の表を見てもスプリットのBA(被打率)やxBA(期待される被打率)など各指標が非常に良いことがわかる。
さらにBAとSLGの差も少なく、あたっても長打になりにくいことがわかる。
一方で気になるのがストレートである。
BAやSLG、さらにはEV(Exit Velocity)が3球種の中で最も値が大きく、Whiff%は最も小さい。
すなわち、空振りが最も奪えていない球種で、バットに当たると速い打球になってしまっている。
そこでストレートのSpinを見てみると、2162rpsである。
前述の通り、27percentileとMLB全体でもスピンが少ない。
ダルビッシュ投手のようなMLBでもトップレベルのスピン量を誇る選手では2500rpsを叩き出しているため、あまり良い数字でないことはわかる。
プロレベルになるとダルビッシュ投手もスピン量をあげることは難しいと言っていたりするため、この領域はなかなか難しいレベルではある。
ただ、MLBの平均より低い箇所になるため、今後より活躍するためには可能であれば改善したい箇所であると思う。
各球種の回転と変化
各球種それぞれどのような球を投じているかを分析してみる。
下図は澤村投手の各球種の回転を示している。
この中でも特に論じたいのがストレートである。
前述の通りスピン数は非常に低いということは述べたが、Active Spin(回転効率)の値が97%と非常に高い。
ボールは回転することにより、回転方向に力が加わり、変化しているわけだが、Active Spinとは、回転による力がどれだけ使えているか、いわゆるジャイロ成分の少なさを示している指標であると思ってもらって問題ない。
ストレートの場合、この値が大きければ大きいほど観点している方向に対して浮力を生んでおり、すなわちバッターには浮き上がって見えるということになる。
他のピッチャーと比較すると、大谷投手は81%、ダルビッシュ投手でも87%と桁違いに良いことがわかる。
そのため、回転数が例えMLB平均レベルまででも改善すれば、さらに防御率はさらに改善するだろう。
次に各球種の変化を見てみる。
下図において、赤がストレート、緑がスプリット(チェンジアップ)、黄色がスライダーであり、濃く塗りつぶしている箇所が澤村投手の各球種の変化である。
この図を見てまず分かることとしては、各球種とも縦変化が少ないということである。
原因としては、まず挙げられることとして全球種とも球速が速いことである。
一般に球速が速ければ速いほど変化はしない。
なぜならば、リリースしてからミットにつくまでの時間が短いため、変化する時間が短いためである。
さらにストレートに関しては上述したとおり回転効率が良いため、浮力も働く。
そのため、各変化球はバッターからみて以下のように見えているのではないかと推測する。
・ストレート:浮き上がってくる。
・スプリット:ストレートに近い球速できて、手元で落ちてくる。
・スライダー:変化が少なく、カットボールのように見える。
各球種の投球コース
以下に各球種の投球コースを示す。
まず、全体的に各球種ともらつきが大きいように見える。
一概には言えないが、ストレートに関してはストライクゾーン中心付近まで赤くなっていることも踏まえると、あまりコントロールが良くなく、全体的に少し荒れた球を投じているのかもしれない。
実際、初級ストライク割合はMLB平均60.6%に対して50%、ストライクゾーンに投じられた割合もMLB平均48.4%に対して43.3%である。
当然ボール球のスプリットを振らせて三振取るタイプであることはここまでで論じたとおりなため、低くなる可能性はあるが、初級からそのような配給で攻めることは少し考えづらいため、やはりMLB平均に比べてコントロールに難があるのかもしれない。
また、合わせて言えることとして、どの球種とも右打者のインコース低め付近に投じられていることがわかる。
しかし、澤村投手のストレートはMLB平均より浮き上がっているため、もう少し高めにも投げ分けてもいいのかもしれない。
まとめ
澤村投手を分析した結果、一番の特徴としては球速が全球種とも速く、特にスプリットに関しては突出しており、MLBでも空振りの取れる球である事がわかった。
さらにストレートの回転効率も非常に良く、より有効に使えればさらにアウトを取れるようになるだろう。
一方で課題としては、コントロールやストレートの回転数が低い事が挙げられ、結果バットに当たると痛打される傾向がある。
今回これらの課題に対して以下のような改善点が挙げられるのではないかと考える。
・現在、一番打たれているストレートの割合が最も高いため、一番打たれていないスプリット中心で投球してみる。
・全体的にコントロールを改善し、特に初球のストライクをストレートやスライダーで確実にカウントを取りに行くようにする。
・可能であればストレートのスピン数を上げ、効果的に高めにも投じることで空振りを増やす。
※各種データや画像はbaseball savantより引用
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