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朗読脚本05_ぼくの先生

題:ぼくの先生

今でこそ名探偵の小間使い? 使用人? なんて周りに言われていますが。 
少し前の僕は、ちょっとした有名人でした。
多分、今でも名前を言えばすぐに思い出してもらえるんじゃないかな。

レザー・エプロンなんて呼ばれ方もしてましたね。
ホワイトチャペルで起きた、女性ばかりが犠牲となった連続殺人。

あの犯人が、僕です。
でも、それはもう過去の話。
今の僕を語る上で重要なことじゃないんです。
僕は今では先生の、名探偵トゥルースの助手なんですから。
先生のためなら何だってやる。
僕はあの日、そう決めたんです。

だって。
先生だけが、僕を見つけてくれたから。

普通、連続殺人というのはそれほどの件数行われないんだそうです。
だって、途中で犯人が捕まってしまうから。
事件を重ねれば重ねるほど、証拠を残す。手がかりが増える。
だから犯人が捕まってしまう。
でも、僕はそうならなかった。
それはきっと。母の教えが良かったのでしょう。
僕、後片付けはしっかりとやるんです。
だから警察は、僕が犯人という証拠を何一つ見つけることができなかった。
捕まったら捕まったで、べつにいいや。
そんな気持ちで、何人もの女性を手に掛けていました。

そしてある日。
何の前触れもなく。

「ボロが出る前に、手を引いた方がいい」

僕の部屋を突然尋ねてきた男は、名乗りもせずにそう言い放った。
一瞬、失礼なやつだなって思いました。
でもすぐに理解しました。
あぁ、この人は見抜いているって。
だから僕は、

「じゃあ。もうやめます」

そう答えました。
てっきり、警察に突き出されるものと思っていました。
でも男はそれっきり何も言わず。僕の家から去って行きました。

正直、呆気にとられました。
それが先生との出会い。先生が、僕を見つけてくれた日。

それから数日して。
今度は、僕が先生を見つけて、先生の家を訪ねました。
今でもよく覚えています。
鍵のかかっていない先生の家の、あの散らかりっぷりは凄かった。
家の中に台風が発生したのかと思うような状態でしたから。
我慢できなくて、僕は勝手に部屋を片付けたんです。

部屋が片付いた頃に。

「これからも、片付けを手伝ってもらえないかな」

いつの間にか部屋に先生がいて。そう提案してくれたんです。
僕は迷わずそれを快諾してーー今に至ります。

今では僕は、住み込みで先生の助手をしています。
先生のためなら何だってやります。
家を片付けるのも。食事を作るのも。もちろん、先生の仕事も手伝います。
先生の邪魔をする者。先生を狙う者を片付けるのも・・・・・・全部なんでも、僕の仕事。
片付けが得意なのは、誰よりも先生が知っていますから。
先生は、僕に「やめろ」とは一度も言わないんです。
先生の推理に傷を付ける者が、突然都合良くこの世から消えても、先生は困りませんから。
気付いてないわけない。
誰がやったのかを、あの名探偵トゥルースが気付いてないわけがない。
でも先生は、僕に片付けを「やめろ」と言ったこと、一度も無いんです。

だから僕は、今日もこれからも。
先生のお手伝いをします。後片付けを引き受けます。
世間からは正義の味方と呼ばれる名探偵の、お手伝いをする日々はとても楽しいんです。
でも、先生は最近、ちょっとやり口が強引になってきたから心配です。
世間の声に後押しされて、増長しているみたいで、ボロが出そうで心配です。

「ボロが出る前に、手を引いた方がいい」

ずっと前から、そう思っていますが口に出したりはしません。
先生ならきっと、わざわざ僕に言われなくても分かっているはずですから。

それに、安心してください。

もしも。もしも、もしも。
名探偵トゥルースの名に傷がつくようなボロを出したら。

ちゃんと僕が、片付けてあげますから。
そのために……僕を呼んだんでしょ。先生?
 

   終わり。

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