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連載17 第三集 10~12月編 『キューちゃんのおかお わんわんみたい』あきとまさきのおはなしのアルバム '89


十・十一・十二月

あき 四才十一か月~五才一か月

まさき 三才一か月~三か月



【写真・あき君の絵】
〔写真説明 ページ全体に大きな絵が描かれています。波のような迷路があり、平行にたくさんの小さな絵が描いてあります。それは全部らせんで波の方から出ていて、人やロケット等12個書いてあります〕

#208 半月


あき 「おかあさん、でて きて よかったね。はんぶんの みかづきさんだよ」
私 「今頃の季節は、お月様も特別きれいでしょうねえ」
あき 「うん」
うなずいただけで、柱にもたれて黙っている。
あき 「おかあさん、ひとさしゆび だしてごらん。こっちだよ。ここ、ずーっと ずーっと ずーっと まあすーぐ いったとこ、おつきさま いるんだ」

#209 友達できた!


まさき 「おい ダイちゃん、マーキの ともだちか?」
ダイちゃん 「うん」
まさき 「おかあさんと キューちゃんとこ、まもって くれるか?」
ダイちゃん 「うん」
まさき 「おかあさん おかあさーん、ダイちゃん マーキの ともだちだってー。おかあさんと キューちゃんとこ、まもって くれるってさー」

#210 歯医者さん


夫 「まさき、口もあけなかったんだって?だめだろう。にいちゃんは、立派にやってもらったそうじゃないか」
まさき 「だってさ… マーキ、はーく おにいちゃんに なりたいなあ。ガンバルようにさ、なりたいなあ」

#211 犬の女の子


私 「おかあさんね、男の子をふたありくださいって、神様にお願いしたの」
あき 「イヌの おんなのこで いいから、ひとーり くださいも、おねがいしたでしょ?」

#212 絵本「かにむかし」を読んで


あきとまさき 「はやく めえ だせ かきの たね」
ふたりは、どこからか道具を持ち出して、土を耕して遊んでいる。
通りかかったおじいちゃん 「こういうタネも、こうやってまいとくといいだ」
おじいちゃんは、子供達といっしょにタネをまいてくれた。
私 「何のタネですか?」
あき 「アスターだよ。ねえ、おじいちゃん」

#213 はっぱの川


あき 「あっ、はっぱの かわだ」
私 「落ち葉?いつのまにこんなに落ちたのかしら」
まさき、真剣なようすで 「だれだ、やったのは!」
あきと私、思わず吹きだしてしまう。
まさき 「わらうなー!」
あき、そうとう笑ってから 「まさき、やったのはね、ちらばしマンだよ。そうだ、まさき、おそうじマン しようぜ。おっそうじ おっそうじ…」
まさき 「おっそうじ おっそうじ…」
ふたり、大きな枯れ枝をひきずって、落ち葉の道を賑やかに駆け回った。

#214 ホッカホカ


女の子たち、冷たい手をキュリーのお腹の下に入れて 「キューちゃんて、あったかいネ」「キューちゃん、ホッカホカ」
あき 「キューちゃんの できたての ウンチはさ、あのさ、もっと あったかいんだヨ。ビギールで とる とき、あき さわってみたら、ホッカホカだった」
女の子たち 「キャー、いやー!」
逃げてしまった。
私 「あきの言うこと、おかあさん、よーくわかるよ。ふたりの秘密にしとこうね」
あき、伸びあがって私の耳もとに 「そうだよネ、キューちゃんの ウンチ、ホッカホカだよネ。やきいもみたいだよネ。ねえ、おかあさん」

#215 キューちゃん、会いにきたんだよ


チャボたちがキュリーを怖がるので、キュリーに「ステイ(じっとしていなさい」の指示をしてから、子どもたちと鶏小屋へ来ていた。
あき 「あっ、キューちゃん、おはなの むこうっかわから かお だして、あきたちんとこ みてるヨ。アハハ… キューちゃーん!」
まさき 「キューちゃんだあ、キューちゃんだあ!アハハ…」
私、一応しつけなので 「ノー!どうしてなの、キュリー。いつもいい子で待っていられるでしょ。ノーよ」
キュリーは、尾をたれて小さくなっている様子。
まさき、キュリーに抱きついて 「キューちゃんねー、まさきとー おかあさんとー おにいちゃんとー、あいに きたんだよ。かわいそうなんだったんじゃないか!キューちゃん、ごめんね。おかあさんも いって。キューちゃん、ごめんねって いって」

#216 おかあさんと寝たら


あき、ひとつ伸びをして 「ああ、いい ゆめだった。ああ、いい ゆめだった」
私 「よかったね。どんな夢だったの?」
あき 「ん?わすれちゃった。エヘヘ…」

#217 こんな時間


いつもは、点字の厚い児童書をかかえて来るあきが、今日は、絵本をどっさりかかえて来た。
あき 「おかあさん、だっこ」
私 「ん?」
あき 「だって、まさき いないんだもん」
私 「そう言えば、ひさしぶりねえ。あきをだっこして絵本を読むのは」
あき 「あき、こんな じかんが ほしかったんだ。ぜんぶ よんでネ」

#218 次男坊


私 「あれ?まさき、何か食べてなあい?もうすぐ御飯よ」
まさき 「たべて ないヨ」
そばへ行ってみると、しっかりキャラメルの箱をかかえている。
私 「嘘はダメ。怒りますよ」
まさき 「おかあさん おこったら、まさき わらっちゃう。エヘヘ エヘヘ エヘヘ…」

#219 だっこ


まさき 「だっこ」
私 「いいよ」
私は、草の束をあきに預けて、右腕でまさきを抱きあげた。左手では、キュリーのハーネスを握っている。
あき 「まさき、げんきに なったら いうんだゾ」
まさき 「うん、ウフフ…」
しばらくして、私 「ああ、ひと休み」
まさき 「マーキ、おんぶして くれるヨ。よーいしょ よーいしょ… どう?げんきに なった?じゃあ、だっこ」

#220 熱


夫 「どれ、熱下がったな。よかったなあ、まさき」
まさき 「こないだ、ばくだんの オニ でたヨ。カジダゾー カジダゾーって。とうさん、エイヤーって やっつけて くれた。しょうぼうしさんと いっしょにさ」

#221 怖い放し飼い


耳鼻科医院を出た所で、一匹の犬が、猛然と吠えながら、キュリーにおどりかかった。無抵抗なキュリー。私は、必死になってまさきを抱き上げ、キュリーを引っ張ってタクシーに逃げ込んだ。キュリーは、怪我をしなかったが、まさきはタクシーに乗ってからも、ずっと泣きじゃくっていた。
まさき 「まさきさー まさき、キューちゃんとこ まもれないんだよ。まさき、ちいさいんだよ。まさきさー まさき…」
家に着いてから、
あき 「まさき、バカだよ。あきが いたら、そんなの ぼう もって きて やっつけたのにな」
まさき 「ぼう?あっ、そうか!」
以来、まさきは、棒を持ち歩いた。

#222 バス停


その一


おばあさん 「おりこうな犬だねえ。こういう犬は、やたら甘いもんなんか、くれちゃいけないんだろうね」
まさき 「そうだよ。いぬもね」
あき 「こどももね」
婦人(歯医者さんへ行って来たばかり) 「おとなもね。ウフフ…」
おばあさん 「なるほどなあ。アハハ…」
キュリーを囲んで、行きずりの人々の間に、笑いが広がった。

その二


すぐ前のベンチで、おばあさんたちの話し声がした。
私 「あの、おそれいります。私、目が不自由なのですが、後三分程で、バスが来る予定なので、来ましたら教えて頂けますでしょうか?」
前のベンチ 「…」
もう一度、頼んでみたが、やはり返事はない。
後ろにいた婦人 「私がお教えしますから。坊や、おばちゃんと手を繋いで行こうか」
ところが、バスのドアまで行くと、すぐ後ろで、先ほどのおばあさんたちの声がする。
おばあさんたち 「おー、おっかねえおっかねえ、おー、やだやだ」「ほかへ行ってくれねえかいやあ、こんなでっかい犬」
婦人 「盲導犬ですから、大丈夫ですよ。さあ、坊や、上がって。さようなら」
キュリーは、いつものように、バスの一番後ろの座席の下のすき間に、小さくうずくまった。
まさきは、元気いっぱい 「おばちゃーん おばちゃーん、ありがとー!バイバーイ!」

#223 絵本 「みたみた、ほんとのクリスマス」


あき 「うれしくて なみだが でるなんて、ふしぎだね」
私 「あきは、まだ出たことなあい?おかあさんは、いっぱいあるよ」
あき 「いつ?」
私 「一番出たのは、あきが産まれた時。嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった」
あき 「すきとおった みずいろの たまに なったか?」

#224 クリスマス・イブ


おばあちゃん 「雪が降ってきたようだよ。いいクリスマスになりそうだねえ」
あき 「わあ、ソリに のれるね」
私 「だめよ。風邪ひいてるのに」
あき 「サンタさんの ソリの ことだヨ」

#225 心のクリスマスプレゼント


あき 「サンタさん、きて くれたんだネ。おかあさん、さわって。ほーら、こんな おおきいんだヨ。イヤリングとか、ネックレスとか、いっぱーい はいってるからネ」
私 「おかあさんの?嬉しい。でも、おかあさんは、おとなになっちゃったから、もらえないと思うなあ」
あき、得意そうに 「だっから あき、おかあさんの プレゼントも、あきんなかへ いれといて くださいって、まいにち かみさまに おねがいしたんだヨ。いい?あけて みるよ。ぜーったい はいってるんだから」

#226 子ども劇場


あき、繋いだ手を大きく振りながら 「きょうの げきは、だれの ため?」
私 「あきとまさきと、おかあさんのため」
あき 「わかった。あきと まさきは みる ためでー、おかあさんは きく ためだネ。そいで あとで、いっぱい おはなしして くれる ためでしょ」
ところが、席につくと、前の席の女の子が、キュリーを怖がって泣きだしてしまった。
女の子のおかあさん 「大丈夫よ。この犬は、盲導犬なのよ。おばちゃんの目の代わりをしている、大事な犬なの。もう泣かないの…」
あき 「ほかの いすに いこうよ… もう かえろうよう」
私 「その方がいいのかな… でもね、この世の中から、おかあさんとキューちゃんが、いなくなってしまうこと、できないのよね。それも、本当のことなの。おねえちゃん、きっとわかってくれると思うんだけど」
それから、私は女の子に声をかけ、おかあさんも、女の子を抱いて、励ましてくださった。席を代わることもできたかも知れないのに、本当にありがたい。幕が上がる頃、女の子は泣きやんでくれた。
女の子のおかあさんは、帰りぎわにキュリーの前に屈んで 「ねっ、ちっとも怖くなかったでしょ。これでわかったね」
女の子 「うん」
女の子のおかあさん 「さようなら、奥さん。さようなら、ワンちゃん。さようなら、ぼくたち」
女の子 「さようならー」

#227 「おはなしのアルバム第二集」


あき 「あきと まさきの ほん、みんなの おかあさんに あげたら?」
私 「そうできるといいんだけど、それには数が足りないのよね」
あき 「おかあさん、としょかんに なって みんなに かして あげたら?」

#228 ご近所のワンワン


まさき 「ワンワン おこんないネ。ワンワン やしゃしくなったネ」
私 「あっ、本当に。そう言えば、この頃、このあたりを歩いていても、ほえるワンちゃんはいなくなったね。キューちゃんやまさきたちと、お友達になってくれたのよ、ねえ、きっと」
まさき 「ねえ、きっと。ねえ、きっと。ウフフ…」

#229 好きな雲


風邪で寝ているあきの横に、まさきもねそべって、ふたりで窓の外を見ている。
まさき 「あっ、ロケットの くもも ある。ビューって」
あき 「あの ちゃいろい とんでるのは、とりだよ」
まさき 「ちがう ちがう。ほら、あそこ」
あき 「あっ、ほんとうだ。ロケットだあ」
まさき、跳ね起きて 「まさき、あきの すきな くも、いっぱい みつけといて やるから」
あき 「うん、たのんだよ」
あきの静かな寝息が聞こえてきた。

(連載18へ続く)


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