くるりの20曲解説~前編~

ありふれた言説だが、日本人は「自己アピール」が苦手であるという。

例にもれず私は典型的な日本人だ。というか24年日本で日本人らしい日本人に囲まれて生きてきたのだからいったいどこでアメリカナイズされるんだという話だ。

ただそれを衒うように、それができない人間を下に見るような、そういう思考を促すような気食の悪い上昇志向も嫌いである。

やや私怨が過ぎた。

今回の記事のタイトルにある「くるりの20曲」は、くるりのボーカルである岸田さんが発起人の企画であり、テーマも自由、各々が各々の好きな括りでくるりの楽曲から「20曲」をチョイスするものである。

くるりはその長いキャリアの中で、アルバムごとに異なる趣向の作品を発表し続けてきたバンドである。それゆえファンの間では、名作ぞろいの作品群の中から「厳選する」と意見が完全に一致することはまず無く、その難易度の高さとそれゆえの面白さから、あらゆる場で意見交換が行われている(現在進行形で)。

ファンからすればそれを傍から眺めているだけで”血沸き肉躍る”のであり、そこに参加した場合は尚更で、「自分なりのくるり」を表明する敷居がものすごく低いので盛り上がる。それは、上記の通りどう足掻いても意見が交わることがない(でもみんなくるりが好き)という前提に立っているからである。

くるりは、こんな日本人にも優しいバンドなのである。

 

岸田さんが優秀作品には賞を与えると言ったので、恥も外聞も捨てて自分のリストをツイッターに上げ、更に自分のツイートをリツイートしたりもした。

岸田さんがいいねしたプレイリストがタイムライン上に流れてくるためにいろんなのを見たが、本当に人それぞれで驚く。参加人数が増えるにつれ、選曲に一言コメントを残している人も多く見かけるようになった。

せっかくnoteがあるのだし、意外と知り合いと語る機会も少ないので、ファンの拡大という意味も込めて、チョイスした20曲について軽く言葉を添えてみたいと思う。皆さんそういうわけなんで、くるり好きになってください。そして好きな曲の話しましょう。

 

1 スラヴ Slav
 7thアルバム 『ワルツを踊れ Tanz Walzer』収録。のっけからこんな話で恐縮なのだが、正直めちゃくちゃ思い入れのある曲というわけではない。入れようと思ったきっかけは、今回20曲を考える上でただの羅列ではなくプレイリストとしての流れやまとまりも意識していたことと、最新のライブ映像である「列島ライブ 2019」のスラヴがめちゃめちゃ良かったことにある。
 やはり曲はその始まりが非常に重要であるけれども、そういう意味でこの曲のフィルインから弦楽器含め一気に入るところのリフ、で歌始まりのヨーデルは素晴らしい。聴いてるだけでヨーロッパ旅行に出られる。そういう要素の取入れ方が、良い意味でつまみ食い感があって、そこが好きなんですね。
 

2 loveless
 11thアルバム『THE PIER』収録。言わずと知れた隠れマイブラ曲のひとつ。「愛がない」なのか「つれない」なのか、はたまた「愛されない」なのか。ともかく愛について歌った曲。愛について歌うことを、難なくやってのけるのは本当にすごい。歌詞が非常に好きで、特に「(愛は)見えないことも見ようとする強い気持ちのこと」と最後の「悩みはつきないな でもそれくらいのほうが 君の気持が全部 わかるんだ」。その通り。

3 その線は水平線
 12thアルバム『ソングライン』収録。既にライブでは披露されていながら、作品としては発表されていなかった曲で、ライブで披露された当時から「名曲」だと関係各所で話題になっていたとか。その前評判を今も堂々と背負い続けていられる曲。作品として発表されるやいなや同業のミュージシャンからこぞってギターの音を絶賛されていて、改めて作品に並々ならぬ熱意を注ぐバンドであることを再認識した。私としてもこれはどうしても入れたかった。なぜなら将来のことで悩んでいた時期にこれを聴いて、普通に泣いたから。飛び込もうと思ったから。

4 魔法のじゅうたん
 9thアルバム『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』収録。とにかく好き。くるりの中で3本の指に入るとかつて呟いたことがあるが、今もゆるぎなくそこにある曲。「分からない」という言葉の持つ力たるや。恐るべし。

5 男の子と女の子
 4thアルバム『THE WORLD IS MINE』収録。これも痺れる名曲。この辺はファンの総意かもしれない。初めて聴いたときに男としてこの歌詞に感情移入をして、そこからずっとこの曲の虜なのだが、女性はどういう気持ちでこの曲を聴いているのか、好きな人はどこが好きなのか、すごく気になる。「僕のやさしさもだんだん齢をとる」のところは、やさしさの核の部分が、齢をとるにつれて・・・という何とも言えない切なさだが、今改めて考えるとそこまで悪いものでもないんじゃないかなとか思ったりした。

6 東京
 1stアルバム『さよならストレンジャー』収録。本人たちからすると違うかもしれないが、私目線ではくるりの始まりの曲、といっても差し支えない。タナソーの書いた『くるりの一回転』(相当な読み応え)を読むと、より楽しめる曲である。またメジャーデビュー曲ならでは、くるりというバンドの変遷を東京の演奏アレンジの変遷から感じることもできる。ちなみに今の一押しは有名な百鬼夜行ver.ではなくこのFACTORYのやつ。ぜひ大音量で。

 

7 赤い電車
 6thアルバム『NIKKI』収録。実は私にとってくるりとの出会いはこの曲で、かつ初めてコピーしたくるりの曲でもある。やはり電車は、くるりとは切っても切れない仲である。私は特段電車が好きなわけではないが、もっと大きなくくりである「移動」は非常に好きであり、基本的に音楽も移動中聴くことを好んでいる。それこそ『くるりの一回転』でNIKKIはセルアウト色があるというような言及があったけど、寧ろその感じが好きですね。

8 オールドタイマー
 1stアルバム『さよならストレンジャー』収録。電車曲を連続させた。この曲も歌入り「釣掛~」のところ、ビビっとくるよね。アンテナのライブツアーのDVD「くるくる節」でこの曲が流れながら移動中の映像とライブ映像が一緒になってる箇所があるのだが、そのカッコよさが強烈に印象に残っている。テンポの速い曲で好きなのも結構珍しいかもしれない。

9 ブルー・ラヴァ―・ブルー Blue Lover Blue
 7thアルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』収録。扱いとしては、初回限定版のCDにのみ収録されている曲である。今音楽ストリーミングサービスはSpotifyを使っているのだが、実は2年前Apple musicから乗り換えた。その時Apple musicではこの曲が聴けなかったので、勝手におあずけを食らっていた反動で、初聴で「これはいい」となってからはずっとお気に入りの一曲。去年の音博で演奏を生で聴くことができて感無量だった。

10 さよならアメリカ
 9thアルバム『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』収録。かなり直接的な歌詞。このアルバムのコンセプトであろう「飾らなさ」に合致している名曲。飾らないことって不可能で、飾ることを否定はしないけれど、というかそもそも絶対に駄目なことなどこの世にはないのだけれど、どこを飾って、どこを飾らないのか、そこははっきりさせておきたいところ。じわじわ好きになった曲。

後編はこちら

あざます