10.クラスメイトたち(4)

登場人物
・篠崎真二 主人公。あだなは”しんしん”
・愛媛みかん 黒髪の美少女。クラスのマドンナ
・具志堅 璃々 頭脳明晰、性格最悪。通称”グリ子”
・郡司 楽々 頭脳明晰、性格最悪。通称”グラ子”

 篠崎真二はパソコン部の連中と別れて教室の真ん中あたりをうろついていた。

 ちょうど教室の中央、真ん中あたりに女子生徒と男子生徒数名の集団がある。

 さっき篠崎が見かけた教室後方の“喧嘩無双”の瀬戸内海豊や“留年生”の黒田シュウは二人とも近寄りがたいオーラを出しているせいで周囲に空席のクレーターができていたが、それとは対照的にこの女子生徒のまわりは彼女を中心とた引力でもあるかのように人だかりができていた。

 愛媛 みかん(えひめ みかん)。

 クラス、いや学校を代表する美少女だ。

 艶のある黒髪に吸い込まれるような大きな瞳。そしてみずみずしい唇。“水も滴るいい女”とはよく言ったものだと、誰もが愛媛をみて納得する。

 愛媛はいつものように何人かの男子を従えて談笑していた。

「あら篠崎君、今来たの?」
 篠崎はそのまま愛媛らの集団を素通りしようとしたのだが、意外なことに愛媛から声をかけてきた。

「僕?う、うん。今さっき赤城君と来たところ」
 ビックリして篠崎はそう答えたが、赤城の名前を出したことをすぐに後悔した。

 シマッタ。愛媛に対して赤城のことなど余計な一言だった。

 愛媛みかんは半年ほど前に赤城マミヤと付き合っていたのだ。赤城と愛媛、どちらも異性から絶大な人気を誇る二人であったので当時、ビッグカップル誕生!とクラスで相当な話題になったことを覚えている。

 だが、二人の関係は長くは続かなかったようだった。


 ”愛媛と俺?まあ自然消滅かな”
 以前、赤城は篠崎にそう言ったことがある。

 自然消滅。

 女関係にだらしない赤城に自然消滅はよくあることだったが、”自然消滅”と赤城本人がそう認めたのは愛媛みかんだけだったような気がする。そのあと少なくとも表面上は赤城と愛媛の二人は何事もなかったように友達としての距離感を保っているようにみえた。

「でも篠崎君は今は独りぼっちなのね」
 愛媛はくすっと笑ってそう言った。

 だって赤城マミヤは今カノの水谷水穂が連れていっちゃったから・・・。
 そう答えようとして篠崎はギリギリのとことで踏みとどまった。

 アブナイ。元カノに向かって今カノの話をしてどうするよ。

「うん、ちょっと赤城君とは別々になったけど、あとでまた合流するつもり」
 本当にあとで合流できるかはわからないが、とりあえず篠崎は虚勢を張ってそう答えた。

「そう」
 愛媛の表情は少し硬くなったように篠崎は感じたが、すぐに愛媛は笑顔になった。
「じゃあ篠崎君にお願い。マミヤに私から話があるって伝えといて」

 トホホ。そんなこと直接本人に言って欲しいよ。篠崎は何となく巻き込まれたように感じて気が滅入った。

 愛媛みかんはそのあと篠崎とは何もなかったかのように周囲の男子生徒と談笑を再開した。

「え?マミヤと私?何にもないよー。嫌だなあ。そもそも私とマミヤは相性合わないからー」
 恋話大好物の大前田美沙などがここにいたら、今の言葉から愛媛と赤城の関係についてもう少し想像を膨らませているだろうか。篠崎は愛媛がいったい何を考えているのか、赤城に対してどのような感情を持っているのかさっぱりわからなかった。

 とにかく篠崎はこれ以上愛媛から赤城について絡まれたくなかったので、そこから立ち去ろうとした。


「おい、しん公。アンタ、マミヤ様をビッチに連れて行かれてひとりぼっちかい。それで困ってどの席に座るか迷ってるんじゃないかい?ケケケ」
「そうね。なんならあたいらの真ん中にお座りするかい?ククク」
 そう言ってきたのは、近くに座っていた女子生徒たち。この二人はまるで双子のように瓜二つだった。

 具志堅 璃々(ぐしけん りり)。通称”グリ子”。
 郡司 楽々(ぐんじ らら)通称”グラ子”。

 知能最高、性格最悪と言われる二人組だ。長髪にやせ型、顔も性格もよく似ているが別に双子ではなく偶然似ているだけだそうだ。グリ子もグラ子も成績は学年トップでテストの成績は常に学年一位と二位をこの二人が独占し続けている。
 しかしこの二人はいわゆるテストでよい点を取るだけの秀才タイプでもなかった。なにしろ噂では、昨年の京都修学旅行で偶然出くわした殺人事件を解決したらしいという高校生探偵漫画のような武勇伝もあるくらいだ。
 ”グリ子”と”グラ子”は性格の悪さもクラスのツートップで協調性というものは微塵もなく、おまけに周囲の目も気にしないマイペースときたからたちが悪かった。

「あ、どうも。僕、今日はパーティは一人で過ごそうかなあと思ってるんだ。はは」
 篠崎は乾いた声でそう言った。性格の悪いグリ子とグラ子から絡まれたことで非常に警戒をしている。

「あらあら、あたしら美女二人がせっかく誘ってあげたのにつれないじゃないの、しん公。ケケケ」
「ほんと失礼しちゃうわよね。ククク」
 グリ子とグラ子はクスクス笑った。

 コマッタ。どうやってこの場を逃げようか。篠崎は困ったがちょうどそのとき、教室の入り口のほうから篠崎を呼ぶ声がした。

「おーい!しんしーん」
 教室の入り口から入って来たのは、山口里香と島田美穂だった。

 タスカッタ!
 さっき教室に入ったときに山口と島田の姿が見えなかったので半ばあきらめていたが、あの二人と一緒にいればハロウィンパーティーは間違いない!

 篠崎、山口、島田、そして赤城を加えた4人は同じ軽音部で実はけっこう仲が良いのだ。

 篠崎はグリ子とグラ子に目を合わせずにふらふらと山口と島田のほうへ向かっていった。

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