15.パーティーの始まり(2)

登場人物
・篠崎 真二 物語の主人公。あだ名は”しんしん”。軽音部のキーボード。
・赤城 マミヤ 篠崎の親友。軽音部のギターでクラスの人気者
・山口 里香 軽音部のボーカル。健康的かわいい系女子で性格は天然
・島田 美穂 軽音部のベース。ムードメーカー
・神道 伸也 不良グループのリーダー。あだ名は”シンシン”
・白尾 哲 不良グループのメンバー。頭脳派
・祇園 茜 スケ番。神道から気に入られている


「聞いてください!根津と宮内が美術室で殺されました! 」
 教壇にいた鬼頭勇治と隅田川尊を押しのけ、血相を変えた白尾哲が3年A組の生徒たちに向かって大声で叫んだ。白尾はハアハアと肩で息をしていた。クラスメイト達は気付かなかったが、白尾の手は恐怖で小刻みに震えていた。

 -人殺しだって?
 -さっきの鬼頭君の怪談話と関係あるの?
 -根津と宮内って言った?

 教室は一瞬静まり返り、ひそひそと話し声がした。普段のキザでクールな白尾からは想像もできない大声だったのでクラスメイト達も若干引いているようだった。

 しかしそれを見た神道伸也はひとりでにやりと笑った。
 白尾、さすがうちのグループの頭脳派や。それにお前がここまで演技ができるとは知らんかったわ。根津と宮内が殺されたとか、こいつは肝試しに向けて最高の盛り上がりやないか。神道は白井に向かって諭すように話をした。
「よしよし、ここは俺にまかせろ”哲っちゃん”。これから俺と茜とでひとつ美術室に様子を見に行こうやないか。なあ、茜?肝試しのトップバッターは俺らやしちょうどええわ」
 神道はそう言いながら祇園茜に迫った。ここまでまさに神道の作戦通りの展開だ。
 しかし白尾は神道の言葉を遮った。
「違う違う!これは肝試しの演出じゃない!本当に、本当に根津と宮内は殺されたんです!」
 それを聞いて神道は今度は内心で残念がった。おいおい、白尾。それはちょっと過剰演出やないか?ほんましつこいで。

「白井、あんた今、根津と宮内が殺されたって言ったわよね。どういうことか順を追ってちゃんと話しなさいよ」
 教室の中央あたりで座っていたグリ子とグラ子が冷静に白尾と神道の会話に割り込んだ。殺人という言葉に強く反応したようだ。何しろこの二人は昨年の京都の修学旅行で偶然居合わせた殺人事件を見事に解決したとかいう噂もある。グリ子とグラ子は仲が良くいつも二人でいるし顔も似ているものの本当は双子ではないのだが、一部のミステリーファンからは”天才双子女子高生探偵”などと呼ばれているらしい。

 白尾はグリ子とグラ子の質問に真面目に答えた。
「根津と宮内と私の3人で美術室にいたら突然襲われたのです。襲ってきたやつはカボチャの仮面、緑色のマントをしていて、そう・・・まさにハロウィンのカボチャ男のような風貌でした。身長は2メートルくらいでしょうか。一言も言葉を発しなかったので男が女かもわかりませんが、あれはきっと男でしょう。なぜなら右手に持った大きな鎌を小枝のように振り回していたからです。そして、その鎌で・・・根津と宮内の首を切り落としたのです!私はなんとか逃げることができました」

 白尾の必死の説明に反して教室からはくすくすと笑い声が聞こえ始めた。

 -うふふ、カボチャ男ってハロウィンのコスプレかしら
 -白尾君ってあんなこと言うキャラだったっけ
 -あいつらのおふざけもたいがいにして欲しいよなあ

 ちっ。クラスメイトの奴ら、私の話を信じていないな。白尾はそう感じた。白尾は本当は美術室の絵画の中からカボチャ男が現れたことも話したかっがのだが、これ以上言ってもバカにされるだけで無駄かもしれないと考えそのことは言わなかった。

「つまり、白尾。あんたはその犯人がどんな奴なのか、結局のところ全くわからないってことね」
 グリ子とグラ子は白尾の話を否定も肯定もせず冷静にそう言った。

 神道はその会話をはやく切り上げたそうだった。
「わかった、わかった。とにかく美術室に様子を見に行かんとな。ほな茜、行くぞ」
 笑いながら神道はそう言ったが、もちろん白尾は笑っていなかった。
「だめです!様子を見に行く必要はない!今、赤城君が美術室の前で犯人を見張っています!」
 白尾は恐怖の中にだんだんと苛立ちも交じり始めていた。
「いいですが皆さん、このまま学校にいるのは危険です。そ、そうだ、誰かスマホで警察に電話できる人はいませんか?私のスマホはさっきから圏外で電話できないのです」
 白尾は3年A組のクラスメイトを見渡した。警察?その言葉が出たせいで教室の笑いが若干減った。

 -ちょっと警察なんか呼んで大丈夫なの?
 -そういえばさっきからスマホ圏外だよね
 -これも肝試しの演出なのか?

 教室はざわざわした。どうやらクラスメイト達のスマホも圏外になっているようで誰も警察に連絡をするそぶりを見せなかった。ただ、やはりほとんどの生徒達は白尾の言っていることを真面目に受け取っていないように見える。

 すると白尾から遅れて水谷水穂も教室に入ってきた。水谷は教室に入ったあと、少し立ち止まってどうしようか迷ったようが、篠崎信二や山口里香、島田美穂ら普段赤城マミヤと仲の良い軽音部のグループを見つけるとそこに向かっていった。

「あ、水穂ちゃん。いま白尾君の話聞いた?美術室でマミヤが犯人を見張っているって言ってるけど、それほんと?」
 山口が先に水谷に話しかけた。
 水谷は少し戸惑いながらも美術室で起こったことを話した。水谷と赤城の二人は直接美術室の現場に入って殺人現場を見たわけではなく、すべて白尾が言った話だということだった。クラスメイトが殺されたなどという白尾の話を現実的に水谷自身は信用していなかったが、確かに白尾は普段と違ってすごく怖がっていたし、めずらしく赤城も真剣にその話を聞いたらしい。

「ねえねえ、どう思う?”しんしん”」
 山口に聞かれて篠崎は考えた。
「どうかなあ。神道君が肝試しをやろうとしているし、なんだかタイミングが良すぎてどうも胡散臭いよね。根津君や宮内君が殺されたっていう白尾君の話も、肝試しを盛り上げるための作り話っぽいなあ」
「そうよね。だって白尾君も神道君も仲良しだものね。あの子たち、普段からよくつるんでふざけあってるし」
 島田は眉をひそめて篠崎に同調した。

 だが、そのあと篠崎は少し真面目な顔をした。
「ただね・・・赤城君の行動は気になるな。彼、普段は超適当だけど、何かあったときは意外にちゃんとしているから。水谷さんだけ先に帰らせたっていうのも普段の赤城君と何か違うし」
 ざわざわとする3年A組の教室だったが篠崎は声のトーンを下げて続けた。
「もしかしたら、本当に何かあったのかもしれない。それにさっきから僕のスマホも圏外で赤城君と連絡とれないのも気にはなる。・・・何かヤバイのかも」
 篠崎は山口、島田、水谷の3人を見つめた。
「もし本当に何か起こっているとしたら・・・、とりあえず教室からは出ないほうが良いと思う。だけど、赤城君とは連絡取りたい。だから僕はひとりで赤城君を探しに行くよ。3人は教室で待ってて」
 最後にやや強い口調で篠崎はそう言った。普段、軽音部で山口や島田から指示されることはあっても、指示をすることはほとんどなかった篠崎から強めに”教室で待ってて”と言われ、島田も山口も何か言いたげだったが素直に従った。水谷も赤城を探しに行きたかったのか少し悩んでいたようだが、結局篠崎の言うことを聞いた。

 席を立ち、赤城を探しに教室を出て行こうとする篠崎真二。ちょうど同じ時、白尾の必死の説得も意に介さず、嫌がる祇園茜を強引に誘って神道伸也も教室から出て行こうとしていた。

 教壇に立っていた白尾はだんだんと冷静になって本来の自分の性格を取り戻しつつあった。
 ”シンシン”のことはもう放っておけ。自分の話をクラスメイト達が真剣に聞いてくれないのも仕方ない。とにかく他のやつらはいいから、自分がここから逃げることが先決だ。冷静になるにつれ、白尾は自分の身を第一に考えるようになっていった。
 そうだ、自分だけいい。今すぐここから逃げよう。こうして白尾も教室から出ていく決心をした。

 グリ子とグラ子はひそひそと話していた。
「ククク。”ハロウィンのカボチャ男”、”首を切る殺害方法”。この状況ってあの本に書いてあったままじゃないさ」
「ケケケ。あの本、『アッテンボローの都市伝説シリーズ第13巻「ハロウィンのカボチャ男」』。だとすると可能性は二つね」
 グリ子とグラ子は探偵のように解説口調になっていた。

「可能性①。あの本を読んだクラスの誰かがそれを真似して、偽の騒ぎを起こして楽しんでいる」
「可能性②。あの本の通り、アメリカであったハロウィンパーティーの虐殺事件が、”本当に”ここでも起こっている」
 グリ子とグラ子は教室を見渡した。
 ふざけているにしろ、本当に事件が起こっているにしろ、このことを知っている生徒がいるはずだ。可能性①なら犯人はおそらく神道だろう。可能性②は現実的にはあり得ないだろうが・・・。グリ子もグラ子の推理も今のところはそこまでだった。

 その時、突然、廊下のほうから大声がした。それは赤城の声だった。
「危ない!逃げろ」

(つづく)

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