12.美術室(2)

登場人物
・白尾 哲 不良グループのメンバー。頭脳派
・根津 拓斗 不良グループのメンバー
・宮内 隆 不良グループのメンバー


 A棟(中央棟)の美術室に白尾哲と宮内隆は閉じ込められていた。
 もう一人、一緒にいた根津拓斗は胴体だけが床に転がっている。

 白尾はカボチャ男の消えていった絵画の方をもう一度凝視した。

 どうやら特に何も起こらない。

 ガチャガチャ。何度目だろうか、白尾は美術室入り口のドアノブを回したが、やはり鍵がかかっていてドアは開かない。

「み、宮内!窓が開いてないか確認しなさい!」
 白尾は宮内に命令した。美術室入り口に立っている白尾の位置から窓際に向かうには、中央の根津の死体と絵画の脇を通らなければならない。それは白尾にとって無理な話だった。

「早く!もしかしたら窓が開いているかもしれない」
 宮内はそう言われて恐る恐る美術室の壁をつたって中央を避けながら窓際へ向かっていった。
 その間にも白尾は必死で考える。

 警察、そうだ警察だ!白尾はスマホを取り出した。しかしスマホの電波は無情にも圏外のままだ。それを無視して白尾は警察に電話をかけてみたが、やはり電話は繋がらなかった。

 ちくしょう!こんな時に。

 白尾は考えた。そうだ、火だ。この部屋で火事を起こせば、火災探知機が反応するはず!そうすれば誰かが助けに来るだろう。

 火・・・、ライター!

 白尾と宮内は煙草を吸わないのでライターを持っていないが、根津は持っていたはずだ。根津の服のどこかにきっとライターがあるはず。
 白尾は根津の死体を見た。

 だめだ、恐ろしくて根津のところまで行けない。

 白尾は宮内のほうをみた。

 宮内は美術室の窓際でガチャガチャと窓を開けようとしていたが、どうやら窓は開かないようだった。

「宮内、窓は開かないですか?だったらいいです!窓はあきらめてこっちにきてください!根津のポケットにライターがあるはずです、それを取ってきなさい!」

 勝手な白尾の命令にも関わらず、宮内は素直に窓を開けることをあきらめ、根津の死体のほうへと近づいて行った。

「はやくしなさい!!」
 白尾は口を出すだけだったが必死だった。

 白尾は根津の死体の先に絵画が見えていた。そして、絵画の絵が動いたように見えた。

 絵が動いた?こんなことが現実にあるわけないのに、さっきからその連続だ。白尾は絵画を見つめた。

 絵画の洋館は精密に描かれていて、遠くからよくは見えないが、描かれていた洋館の正面扉が開いたのだ。

 まるで映画かテレビゲームを見ているようだった。

 洋館の扉のなかからさっき根津の首をもって絵の中に消えていったカボチャ男が再び現れた。

 絵の中のカボチャ男はどんどんと大きくなり、いつのまにか現実に姿を現していた。
 緑色のマントを羽織り、右手に鎌を。左手は何も持っていなかった。

 白尾はこんどは悲鳴を上げた。

 何もできない!閉じ込められスマホが使えないと自分はこんなにも非力なのだろうか。

「あ、あなた、何が目的ですか?私はあなたと無関係ですよ」
カボチャ男は何も答えずに白尾のほうに近づいていった。

「た、たすけてください!」
カボチャ男は答えない。

美術室の入り口に立つ白尾には3つの選択肢があった。

 1.左に逃げる
 2.右に逃げる
 3.正面に立ち向かう

ああ、どれも無理だ。腰が引けて戦うことも逃げることもできない。

カボチャ男は白尾の目の前まで迫ってきた。右手の鎌を振り上げる。

 4.何もしないで殺される

4つ目の選択肢が白尾の頭に浮かんだちょうどそのとき、突然、カボチャ男の後ろから白い物体が飛んできた。

正確には宮内がギリシャ人の彫刻を両手で振り上げてカボチャ男の頭に後方から投げつけたのだ。

物凄い音がして彫刻がはじけた。

 5.宮内が助けてくれる

やった!よくやった宮内!白尾は恐怖のなかで一筋の光明が見えた。

肩で息を切らせながら後ろで宮内が立っている。

ざまあみろ!

カボチャ男は後ろから思わぬ反撃を食らって床に膝をつく!・・・はずだったが、なんとカボチャ男は倒れなかった。

カボチャ男は無言のままゆっくりと振り返り、白尾から宮内の方へ向きを変えた。

宮内は後退りしたが直ぐに壁にぶち当たった。

こいつは人間じゃない。

白尾はカボチャ男の後ろ姿を見てそう思った。

いつか映画で見たようなバットで殴っても倒れない怪人やモンスター。目の前にいるカボチャ男はまさにそれだ。

うう。

宮内は抵抗もできず美術室の壁に追い詰められた。カボチャ男はゆっくりとだが確実に宮内との距離をつめている。

白尾は何もしないでただそれを見ていた。

カボチャ男は無言のまま鎌を振り上げると容赦なく振り下ろした。

ゴトッ。

宮内の胴体は壁に立ったまま、綺麗に首だけが下に落ちた。

カボチャ男はそれを拾い上げ、左手に宮内の生首を持ったまま、白尾のほうには目もくれずにそのまま絵画の中に再び消えていった。

白尾は何もできなかった。

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