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経験だってエビデンス。EBMにおけるエビデンスとの向き合い方を考え直そうと思う。

こんにちは!あはき学生トレーナーの大野です!

最近はコロナの影響で様々な医学的情報がテレビやSNS等で日々あふれています。

その中でも、ワクチンやPCR検査等の関係で「エビデンス(科学的根拠)」という言葉を見る回数が増えたような気がします。

今回はそのエビデンスとの付き合い方に関して、「今だから考えなおしたい!」と思い、書かせてもらいました。


それでは!


EBMに関する誤解

最近、エビデンスの必要性を叫ぶ声が多くなり、その言葉を耳にする事も多くなりました。

私もつい2年ほど前にエビデンスに基づいた医学(以下EBM)を、帝京大学の阿部さゆり先生から学び、それ以降は自分でも学んできました。


ですが、最近はEBMについて、東洋医学に触れることで、自分自身がブレている部分があります。

また、エビデンスを少し誤解されている方もいらっしゃるなと感じました。


この件について、詳しくは最近コロナ関係で話題になられた岩田健太郎さんが2014年に書かれた記事がありました。

今日私が伝えたいことは全て、この記事中に掲載されているのですが、記事の中で先生は以下のようなことをおっしゃっています。

未だに「アンチEBM」の人は多いですね。
「アンチEBM」よりも、もっと厄介なのは「エビデンス」という言葉を「武器化」してしまう人たちです。(岩田健太郎さん
「ランダム化試験がないんだから、先生の言ってることにはエビデンス、ないんでしょ」みたいな「すごみ方」をされるのです。(岩田健太郎さん

知識を少しずつつけ始め、エビデンスという概念を学んだ下手に賢くなってしまった方が、RCT等が行われていない内容を「エビデンスがない!」と批判するような内容です。

最近の例でいえば、コロナウイルスに関しても「エビデンス」について叫んでいらっしゃる方々もいらっしゃいました。


また、私が学んでいる鍼灸やマッサージもエビデンス至上主義者の格好のネタです。

鍼灸の良し悪しについては学んでいる最中ですが、鍼灸の効果を定性的かつ定量的に評価するということは非常に困難です。

しかし、だからと言って鍼灸自体に効果がないとは断言できないでしょう。

最近は施術者にも患者にも刺したか刺されたかわからないような、「偽鍼」なるものがあるとのことで、これからちょこちょこ出てくることを期待しています。


エビデンスの知らなすぎ問題

私がもう1つ感じている問題は「エビデンスの知らなすぎ」です。

これらの記事に記載されているのですが、精神論や経験ばかりに偏った内容を行っている方々は非常に多いです。

スポーツ界でよくあるのは「完治しないまま試合に出場し優勝!」みたいな美談。

この美談に関して詳しくは触れませんが、エビデンスを知ることは特に医療やスポーツ等の指導を行う人間にとっては必須です。

学校での救急対応が不適切で最悪なケースになってしまうといったニュースは毎年見ている気がします。

これもまた、EBMの知らなすぎが導いてしまった問題の1つです。


また、『エセ医学』と言われるものもその1つです。

これは知らなすぎなのか、エビデンスの悪用かはわかりませんが、n=ほんの少しの症例報告から、そのエビデンスも推奨度も低い状態の理論を前面に押し出した結果が『エセ医学』の1つなのかなと思っています。

※少ないn数の症例報告が悪いというわけではありません。比較試験が行いにくい場合において、1例報告が30年以上も信頼性の高いガイドラインに織り込まれている例もあります。


エビデンスの欠如は、欠如していることのエビデンスではない。

さて、EBMとさんざん言ってきましたが、岩田さんはEBMについてこのように紹介されています。

EBMのパイオニア、デビッド・サケット医師は、エビデンス・ベイスドな診療を、「良心的かつ実直で、慎重な態度を用い、現段階で最良のエビデンスを用いて個々の患者のケアにおいて意思決定を行うこと。それは個々の臨床的な専門性と、系統だった検索で見つけた最良の入手可能な外的臨床エビデンスの統合を意味している」と定義しています。(岩田健太郎さん

また、研究では以下の3つをEBMの指標として述べています。
①科学的根拠
②臨床家の専門的知見
③患者の価値観

※EBMの間違えた使用例はこちらです↓

メスを持つ角度、糸を結ぶときの指の力、鈎引きの引き具合など、手術にまつわる「エビデンスのない」領域はたくさんあることと存じます。しかしそれは「上手なメスの使い方」「上手な糸結び」が存在しないことを意味しません。上級医が「糸はもっとこういうふうに結ぶんだ」と教えたとき、研修医が「そんなのエビデンスありませんよ」と言ったらどうでしょう。ぶん殴りたくなりませんか?ぼくなら、足くらい蹴っ飛ばします。(岩田健太郎さん


「RCTが行われていない」ということはエビデンスがないということではありません。

タイトルにもありますが、このような言葉があります。

Absence of evidence is not evidence of absence
根拠の欠如は、欠如していることの根拠ではない

皆さんも、先ほどの研修医のように、優れた研究結果がないからと言って、それらが推奨されるべきでないと口を滑らすのは慎重になりましょうね。

蹴っ飛ばされますよ←


Reverse Translation Research

Reverse Translation Research(リバーストランスレーショナル研究)について、『国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所』のHPでは以下のように示されています。

臨床的視点、つまり、実際に患者がどのような症状を呈しているのか、どのように困っているか、などと言った、臨床上目標とすべき達成点について徹底してこだわり、その視点から基礎、臨床研究を行うことで、実臨床に応用のできる結果を導き出す、実用的な研究手法です。

要は、患者ドリブンの医療です。

基礎研究や臨床研究が行われ、それに基づいて臨床に活用するのではなく、患者をスタートとして研究を考えましょうよ!という概念です。


研究の特性上、個体差やその複雑性、倫理的問題から、医学における研究というのは非常に難しいものです。

そのため、医学的な研究はその主張がコロコロ変わるということは珍しくありません。


今までのエビデンスを最大限用いて、自身の知見と患者の価値観から医療を行う。

それに加えて、今患者が悩んでいること等について研究を行う。

今のEBMには、この考えが非常に大切だなと感じています。


最後に

今回このような記事を書こうと思ったきっかけはエビデンスと医療に関する付き合い方について考え直そうと思ったためです。

具体的にいうと、鍼灸あん摩マッサージの学校に入学したことが起因です。


東洋医学では経絡や気血、邪気、臓腑…科学的には理解しがたい現象が多くみられます。

正直、大学まで科学的な根拠を基にスポーツ医学を考える生活をしていたため、馴染みは全くしないです。

そこで今回の内容を考えるきっかけとなりました。


未だに信じられない現象がしばしば起こる東洋医学ですが、私は批判をするつもりはありません。

◎西洋医学よりもはるか前に誕生した東洋医学が、これだけ科学が発展した今でも残っていること。
◎科学的な内容が重要視されている欧米でも、鍼灸が行われていること。
◎数多くの改善症例

これらはEBMの指標の1つである『臨床家の専門的知見』という点からも無視することは出来ません。


東洋医学以外にも、徒手療法や物理療法等でも同じかと思います。

微生物学や薬理学、臨床的な経験や学知、あれやこれやの手持ちのリソースを最大限活かし、「The best available evidence 」を臨床的な専門性と組み合わせて、「今ある中での最良の解」を模索しているのです。「エビデンスがない」のではなく、「ここまでのエビデンスはある」なのです。(岩田健太郎さん
エビデンスとはRCTのことではなく、「ある」「ない」とまっ二つに分断するような概念でもありません。ぼくらにとって大事なのは自分のもつ専門性と最新の医療情報を駆使して、「患者にベストを尽くすこと」に他なりません。そして、サケットの精神を尊重するのであれば、EBMにおけるエビデンスは「常にある」のです。(岩田健太郎さん


優れた臨床家になるべく、患者をスタート地点として、科学的な根拠を知り、専門家としての知見を積んでいきたいと思います。


参考

Spring, Bonnie (5 June 2007). “Evidence-based practice in clinical psychology: What it is, why it matters; what you need to know”. Journal of Clinical Psychology (Wiley Periodicals, Inc.) 63 (7): 611–32. doi:10.1002/jclp.20373

Altman, D. G., & Bland, J. M. (1995). Statistics notes: Absence of evidence is not evidence of absence. BMJ, 311(7003), 485. https://doi.org/10.1136/bmj.311.7003.485

Shakhnovich, V. (2018, March 1). It’s Time to Reverse our Thinking: The Reverse Translation Research Paradigm. Clinical and Translational Science, Vol. 11, pp. 98–99. https://doi.org/10.1111/cts.12538

岩田健太郎、シリーズ 外科医のための感染症 コラム 「エビデンスないんでしょ」「いや、エビデンスは常にある」、2014/06/14 楽園はこちら側


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