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女装の普通・普通の女装

「最近の女装さんはみんな女の子に負けないくらいかわいい!」
「骨格まで女性みたい!」
近年女装関連の評判をネットなどで眺めていると、そういった声を目にする。特に10代後半から20代前半で女装を始めた“若手女装”に対するそういった評判は顕著だ。なるほど彼ら(彼女ら)は、細身で色白で、優しい顔立ちの子も多い。背の高さや体型も利用し、男っぽい部分を上手くカバーしながら上手におしゃれを楽しんでいる。

そしてなんといっても「普通」なのだ。

普通ってなんだよと言われそうだが、特別な意識はいらないと言おうか。

女性らしくふるまっている・男性らしくふるまっているという感覚もなく、至って年相応の若者である。

よく「女装さんって、女装さんどうしで何話してるの?」という類のことを聞かれる。だが女装だからと言って、特別な会話をしているわけでもない。服の趣味やメイクの話を四六時中しているわけでもないし、辛口人生相談を繰り広げているわけでもない。女装以外のコミュニティに居る時と特段変わらない。年齢相応の会話をしている、それに尽きる。
女装が楽しいから女装しているのであり、だからといって女装に固執しているわけでもない。女装以外のコミュニティに居る時と、なんら変わらない。
恐らく会話の音声だけを聞いたら、声の主が女装していて会話しているなんて思わないはずだ。
女装する側の人間が言うのも変だが、女装だからといって、構えることも色眼鏡で見る必要もない。

私がここで言わなくても、そういう感覚は、近年徐々にスタンダードになってきているのではないかと思う。
女装というと、どこかアングラでちょっとアンタッチャブルなところがあって、キワモノ扱いされがちであった。もちろん今でも、特殊なお店やイベントに足を運べば、そういった愉しみ方を好む人だっているのがわかる。ただ私が10年女装で遊んできて、フラットな感覚を持つ女装が増えて来たと思う。ファッション感覚のほかに、可愛い人と知り合えるから・同じ趣味の友達と繋がりたいというところか。恐らく女装でなくてもいいのかもしれない。数ある趣味の中で、女装という趣味を見つけたにすぎず、それを純粋に楽しむ人が増えていったのだと思う。

特にTwitterをはじめとするSNSは、そんな女装達の存在を大きく広めるツールとして活躍したのは間違いない。アングラで触れにくかった女装というジャンルの敷居を低くしてくれた存在ではなかろうか。

ただし、その一方で近年「独特な女装」を目にする機会は減った気もする。いわゆるザ・女装というようなチグハグな服装で身を包んだ人や、ユニフォームのごとくいつも同じ格好をしてた人、奇抜なメイクや服装の人は、イベントの消滅などに伴い目にする機会が減った気もする。

しかしよくよく考えると、こういった独特すぎる女装感覚が理解されがたかったから、これまで女装の敷居が高く、色眼鏡で見られていたのだろうかと考えてしまう。ただ、ある種の「見てくれ」を重視しがちな女装界隈において、独特な感覚を持つ女装を見て、「かわいい」や「きれい」と思うものは、人それぞれでいいんだなという価値基準を与えてくれていたことは確かだ。他人からすると「えっ?」となる格好も、本人からすると「これがいい」のだ。そういう感覚を身体で学ぶ、ある種実学のような場所だったとも言えるのかもしれない(何をえらそうに)。

そういった面では、昨今ファッション雑誌から飛び出たような、流行のメイクや服装に身を包んだ、女の子に見まごう女装の子が増えてきた。
「クオリティが高い」、「女の子寄り可愛い」、「女装さんってすごい」、「話してみると楽しい!」…そうといった声を聞くと、自分が褒められたわけではないのに嬉しくなる部分もある。

ただ、そういった「身近にいそうな女の子っぽい女装」だけが女装のスタンダードなんだ!これに異なるもの女装に非ず!という感覚を持たれると、それは「ちょっと違うよ」と言いたくなってしまう私だ。

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