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ジョン・メイヤー 千切る ミー

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飲み込んだ言葉や思想は、どこへ行くのだろう。
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#詩

虹色の未来

とおりゃんせ、に似ている節の 隙間にひそんだ万華鏡 あばたをいくつと数える日々に 毬を編む娘が牙をむき あなたと叶えた蒼碧の蚊帳 くすぶるように籠城したね いまでは私は飯炊き女 労働機械のあなたに抱かれ はずむ命は仮定のプリズム 乳飲み子を抱くさかさの鏡像

耳に目

日本とミミズがともにはれた日 ホノルルに響く鈴の音を 溶かして包んだパイ生地に 袋の鼠が穴を掘り ばゆんと縮まる鼓膜の振幅 キリキリいたむ鳩尾あたりに えてしてきみは考え過ぎると トリコロールの図体をした 渦巻状の薄いむらさき 湿りがちなニワトリの 眼球ずくめのプランター 怯まぬ数だけ鬼が鳴く

赤い肉の、わるびれぬ口に

ポインセチアを食べたのさ きみが銀座で遊んでいたから 一枚貝のしだれた得体に しがらみみたいな顔したきみの 乳のしわよせ にぶい橙 ポインセチアを吐いたのさ きみが銀座に、埋もれていたから

半虚

買い出しを終えた鳩の平方根は 湯船に赤銅色の肉体を浮かべ 一刻ほどして 浴槽のエンプティネスに愕然とする 虚構としての自身を呪い 呆然と眺めるワイドショーのなかごろ 雉の2乗による不倫が報じられ 実体の過剰も楽ではないと合点する ただれた意識のまどろみのなか 雉√鳩は緑黄色の夜空を地蔵のように切り裂いた

解雇

だんだんだらりとしていく右脳に 鬼を殺した雀の涙と 盆に返った頸動脈の プレパラート上の結合が 神も仏も粗悪な肉も 一緒くたにして映し出す 風上に置けない風見鶏は 歪んだ風しかその身に浴びず 思念体としての次長の腕毛と 同じ速度でふすふす泳ぐ

空間

がらんどうのラットの胃袋 あした破けてうしおをひと呑み たちまち漏れ出た黄疸のサイレン しわがれた夜に鳴り響く 後ろに向きがちなくるぶしが 天使のふりして屑拾い 遡る先を忘れたトキシラズ 真昼の海で熊が鳴く

片想い

安眠に注いだ雨はひどく尖った形をしていて、蠍の尾のようにけれどもいやに誘惑的なのでもある 痺れた脳髄はだからおそらく毒によるもので、鼠くらいなら一瞬で死に至らしめるはずなのだが、鼠は死んで私は死なずに痺れている、これこそがエコノミーというやつで、しかし蠍の寵愛のために私が死なずに済んでいるのだとすれば、これはもっぱらポリティクスなのである 蠍の毒に愛が込められていたかは私のあずかり知らないところであるから、けれども私は蠍の愛について考えはじめてしまっているのであって、要す

ハルアキへ

ながいながい冬があけ そのあと冬がやってきて 先の冬よりすこしさむい そうしてめぐった幾星霜 氷河期に凍えてわたしは死んだ ながいながい夏がすぎ そのあと夏がやってきて 先の夏よりすこしあつい 寄せては返す幾年月 太陽になってわたしは死んだ いつも待たれた春秋が 面倒だからとひとつになって みんなはいやだと言うのだけれど わたしはほほえむとこしえの昼

未練

片足立ちの神さまが 今日も今日とて安酒に酔い いつかの川路で拾った夢を ひっくり返して遊んでる まえとうしろがさかさの服を 暑がり脱いだが肉体はなく どうしてそれを着ていたのかも いまとなっては知りようがない