マガジンのカバー画像

ジョン・メイヤー 千切る ミー

14
飲み込んだ言葉や思想は、どこへ行くのだろう。
運営しているクリエイター

2020年10月の記事一覧

耳に目

日本とミミズがともにはれた日 ホノルルに響く鈴の音を 溶かして包んだパイ生地に 袋の鼠が穴を掘り ばゆんと縮まる鼓膜の振幅 キリキリいたむ鳩尾あたりに えてしてきみは考え過ぎると トリコロールの図体をした 渦巻状の薄いむらさき 湿りがちなニワトリの 眼球ずくめのプランター 怯まぬ数だけ鬼が鳴く

赤い肉の、わるびれぬ口に

ポインセチアを食べたのさ きみが銀座で遊んでいたから 一枚貝のしだれた得体に しがらみみたいな顔したきみの 乳のしわよせ にぶい橙 ポインセチアを吐いたのさ きみが銀座に、埋もれていたから

半虚

買い出しを終えた鳩の平方根は 湯船に赤銅色の肉体を浮かべ 一刻ほどして 浴槽のエンプティネスに愕然とする 虚構としての自身を呪い 呆然と眺めるワイドショーのなかごろ 雉の2乗による不倫が報じられ 実体の過剰も楽ではないと合点する ただれた意識のまどろみのなか 雉√鳩は緑黄色の夜空を地蔵のように切り裂いた

解雇

だんだんだらりとしていく右脳に 鬼を殺した雀の涙と 盆に返った頸動脈の プレパラート上の結合が 神も仏も粗悪な肉も 一緒くたにして映し出す 風上に置けない風見鶏は 歪んだ風しかその身に浴びず 思念体としての次長の腕毛と 同じ速度でふすふす泳ぐ

空間

がらんどうのラットの胃袋 あした破けてうしおをひと呑み たちまち漏れ出た黄疸のサイレン しわがれた夜に鳴り響く 後ろに向きがちなくるぶしが 天使のふりして屑拾い 遡る先を忘れたトキシラズ 真昼の海で熊が鳴く

五篇

「このタバコ、ラムみたい」って言わなきゃさ、 吸ってなかったよハイ・ライトなんて。 「くちびるが、くっついちゃう」って フィルターに、残ったピンク・コーラル・ルージュ。 長雨に降り籠められて四畳半 きみ、タバコ、ぼく、コンドーム、ビール メール来た開いた読んだ「またいつか」、 五秒で返信「いつかっていつ?」 ガレージの老朽化だけが心配と 困り顔で話してた君がぶら下がっていて 倒れてた椅子を起こして僕は君を 梁から下ろして君はまだ息をしていて 部屋に運んで意識を取り戻す