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「大丈夫です。当日は安心してお任せください」 女医がそう答えると、男は目に涙を浮かべながら首を縦に振った。 夏の匂いを残した、秋の手前。 手術は失敗に終わり、女はこの世を去った。 赤、黄、緑、それぞれに色づく楓。 旅行先にて、恋人は小さな箱を開けながらプロポーズをした。 何万秒よりも長く感じる一秒。 女医は目に涙を浮かべながら首を縦に振った。
安眠に注いだ雨はひどく尖った形をしていて、蠍の尾のようにけれどもいやに誘惑的なのでもある 痺れた脳髄はだからおそらく毒によるもので、鼠くらいなら一瞬で死に至らしめるはずなのだが、鼠は死んで私は死なずに痺れている、これこそがエコノミーというやつで、しかし蠍の寵愛のために私が死なずに済んでいるのだとすれば、これはもっぱらポリティクスなのである 蠍の毒に愛が込められていたかは私のあずかり知らないところであるから、けれども私は蠍の愛について考えはじめてしまっているのであって、要す
ながいながい冬があけ そのあと冬がやってきて 先の冬よりすこしさむい そうしてめぐった幾星霜 氷河期に凍えてわたしは死んだ ながいながい夏がすぎ そのあと夏がやってきて 先の夏よりすこしあつい 寄せては返す幾年月 太陽になってわたしは死んだ いつも待たれた春秋が 面倒だからとひとつになって みんなはいやだと言うのだけれど わたしはほほえむとこしえの昼
一切の夢を見ることなく夜を明かした僕に硝子の剣みたいな陽射しが容赦なくふりかかる/コーヒー色に黄ばんだ脳は36.2℃にあっためられたって一向にめざめる気配がない/あの古池の蓮の根っこみたいなまどろみの中でぬかるんだ僕の細胞は今にも溶けて落ちてしまいそう/けだるさと昨晩の残りの酒気とに手を曳かれていまだ漂う君の紙巻のにおいを探り当てる/その手触りをなつかしみながら僕は疾うに羽化した君の殻に包まれる/ぺなぺなする布団の上で低い天井に向けて丸めた背を破って出るみどりごの飴細工みたい
おまえの 眼と耳と鼻と口と腕と手と脚と足と指と爪と皮と毛と血と肉と骨と息と そしてmanasから 生まれた、 僕だよ。
片足立ちの神さまが 今日も今日とて安酒に酔い いつかの川路で拾った夢を ひっくり返して遊んでる まえとうしろがさかさの服を 暑がり脱いだが肉体はなく どうしてそれを着ていたのかも いまとなっては知りようがない