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IRは企業価値向上に直結するのだからもっと評価されていい

株式会社リンクスリサーチの小野です。

機関投資家として8年ほど運用に携わり、2017年10月にリンクスリサーチを設立。現在は機関投資家向けリサーチと企業価値向上コンサルティングサービスを提供しています。

”企業価値向上コンサルティング”としてIRのお手伝いもさせて頂いております。

IR担当者のスキルアップワークショップも実施しております。
(現在申込み受付中)

企業価値が適正に評価されるためにはIRがとても重要なのは説明するまでもないことです。欧米ではIRは非常に重要視されており、IR担当者は重要なポストとして位置付けられています。しかし、日本ではまだまだ評価は低い。IR担当者の頑張りが評価されるために何かできないかとずっと考えていました。
今回IR活動にスポットライトを当てる方法の一つとして、IRの新しい取り組みであるIR noteマガジンを様々な視点で見てみようと、個人投資家・覆面座談会を企画しました。主催は株式会社Figuroutでリンクスリサーチが個人投資家のアイルさん、億の近道と共催している4大個人投資家勉強会の一つである東京勉強会に参加していただいている個人投資家の方に参加していただきました。
主催の株式会社Figuroutの池松さんに覆面座談会全体のまとめnoteを作成していただいておりますので、そちらのnoteもぜひ参照してください。

このnoteは、主に「IR noteマガジン参加企業の方々」と「これからIR noteマガジンを始めようとしている企業の方」に向けて書いたものですが、「企業の経営陣」にも届いてほしいと考えています。

〇激変するIR

 私が機関投資家で運用に携わっていた当時と比べるとIRを取り巻く環境はだいぶ変わりました。きっかけは感染症拡大による行動制限、ESG開示の義務化などのいくつかの要因が重なったものと思われます。オンラインでIR情報発信が可能になり、動画による説明会が開催され、SNSを使った情報発信が盛んになりました。IR関連のオンラインメディアも増えました。その結果、投資家へ提供される情報は格段に増えました。加えて、IR担当者が自分の名前でSNSを使うことも多くなり、個人投資家にとっては企業のIR活動が身近に感じられるようにもなったのも特徴的な変化の一つと言えるでしょう。

〇IRnoteマガジンにフォーカス

今回は新たなIR情報発信のツールであるIRnoteマガジンにフォーカスしました。IRnoteマガジンはすでに70社以上が登録しており、あらたなIRツールとしての活用が拡大しています。
既存のIR活動に加えて、IRnoteマガジンに参画されることだけでも、投資家に向けて自社を理解してもらうための情報発信に積極的であるといえるでしょう。
”企業の理解につながる定性的な情報発信”ができるのがnoteによる情報発信の特徴です。情報開示の”すき間”を埋めるだけでなく、オープンに投資家とコミュニケーションをとるためのきっかけとしてのnoteから情報発信ができれば”ファン株主”予備軍の投資家へアプローチするためのツールとして活かすことができます。

評価ポイントは2つ

・受け手を意識しているか
・顔が見えるか

”情報開示”よりも”情報発信”を意識している特徴のあると感じた企業を取り上げさせていただきます。
”情報開示”と”情報発信”の目的を考えたとき、
情報開示:情報を伝えることが目的
情報発信:投資家との対話のきっかけを作るのが目的

であり、
対話のきっかけとするために大事なのは
”情報の受け手(読者)を意識すること”
”顔が見えること”
です。
覆面座談会の中でも、そんな特徴が見える企業の名前があげられました。

以下、そんな中から4社を評価ポイントと共に取り上げます。

〇7606 ユナイテッドアローズ:IRチーム?

これは多くのnote記事が意識されていると思いますが、説明会の書き起こしや質疑に留まらず、普段読まれないような資料、伝えきれない情報を伝える努力をしていることに注目しました。
なかでもとても特徴的で感動したのがユナイテッドアローズ

統合報告書を多くの方に読んでもらうために、項目ごとに分けて解説する記事を書きました。
統合報告書作成には外部業者を利用するだけでなく多くの社員が関わります。作成には数千万円のコストがかかります。しかし、作成されている企業様には大変恐縮ですが、読む投資家は非常に限定的です。統合報告書=ページ数の多さに圧倒され、どこに何が書かれているかわかりにくく読まれにくい資料という印象。
それでも企業にとっては読んでほしいからこそ作成しています。統合報告書を読んでもらうための工夫として項目ごとにnoteの記事にしました。


誰も考えなかったことに取り組んだことに拍手を送りたいと思います。

情報開示と情報発信の目的としてもう一つの切り口は
情報開示:定量的な情報を提供し、正確性とスピード重視
情報発信:情報開示の合間を埋める定性的な情報により理解の深さを重視

分かりにくいことを分かりやすく読者の視点で発信する良い事例だと思いました。

〇タスキ:IR担当の高柴なつみさん

2987 タスキ:IR担当の高柴なつみさん

顔が見えると言う点ではとてもユニークに感じました。
最初の挨拶では必ず名前を名乗る
ところから始まり、
随所に”!”が入っていたり、”☞” を使ったり、個性が感じられます。

最近の記事では読者に問いかけるような記述もありました。

【タスキ】2024.9 1Q決算補足
話が少しそれるのですが、なぜ低層プランと高層プランの2パターンを作るのか?気になった方はいませんか?
建物はできるだけ高く作ったほうがいいのでは?と思い、社内の建築士にきいてみました。
「前提として建物は階は低い方が良く、高層を選択する理由は低層比較して容積率を大きく取れるからになります。」
(階数が多い⇒建築工期が長い⇒建築費が高い)とのことでした!

といったように、読者(投資家)目線を意識した工夫や個性が表れており親近感を感じられます。

記事の最後の
”頂戴したご意見・ご質問は社長・部長とともに拝見しております。”
には一方的な配信ではなく、対話につなげたいという思いが感じられます。

*勝手なアドバイス:目次機能を使った方が記事にどんなことが書かれているか知ることができるので読みやすいかも

〇4174 アピリッツ:永山CFO

特に参加した個人投資家の方から評価が高かったのがアピリッツ永山さんのnote。
永山さんの個人アカウントですが、内容はアピリッツのIR情報発信です。
文章量はコンパクトで、投資家が知りたいこと、投資家に伝えたいことがわかりやすく書かれています。毎回、最後に”所感”を書かれており、決算発表後に思いがけず株価が下落したときには率直な感想も書かれていて、熱量が感じられます。個人投資家向け説明会には頻繁に登壇されていて、投資家とのコミュニケーションを大事にしています。noteでもその視点は変わりません。

〇9560 プログリット:谷内CFO

 CFOの谷内さんの個人アカウントですが、内容はプログリットのIR情報発信です。
”CFO谷内によるIR note”マガジンもありました。

 本数は少ないですが、非常に丁寧に投資家が知りたいこと、投資家に伝えたいことを書いています。株主は安心感をもたれるでしょう。”情報開示”としては優れており、株主、投資家に向き合っていることを感じますが、内容が業績の話に限定しており、”情報発信”という観点では定性的な情報も発信してほしいとも感じました。

〇最後に

参加していただいた個人投資家の皆さんの意見をまとめて4社をご紹介しました。noteについてフィードバックを得ることは少ないと思いますので、4社以外のIRnoteマガジン参画企業の担当の方、またこれから参画しようとされている方にとって、個人投資家の見方として少しでも参考になれば幸いです。

・個人投資家の皆様へ

企業のnote記事を読んで、参考になった、面白かったと感じたらぜひ”いいね”やコメントをしてください。noteを読んでくれていることを感じられると、執筆担当者は喜びます。
(私もそうです ”いいね”を押すのは”無料”です。無料で誰かの”気持ちをあげられる”なんて素敵じゃないですか!

・継続性を考えるならば

読者を意識した、顔が見える情報発信はもっと増えてほしいと考える一方で、
”その方が辞めたらどうするのだろう?”
と継続性には一抹の不安が頭をよぎります。
アピリッツさんの場合、永山さんの個人アカウントで情報発信しています。辞めたらアピリッツのアカウントはなくなります。(永山さんは”まだまだ辞めないので大丈夫です”とおっしゃるでしょうけど)
タスキの高柴さんの場合は会社のアカウントで書いていますが、やはり高柴さんが辞められたらどうするのだろう?という不安もあります。

担当者が辞め、情報発信が途絶えたり、発信する情報が劣化することがあれば、つまらない憶測を呼ぶ事にもなりかねません。

大事な情報発信の手段としてチームで取り組み、計画的、継続的に行うことが情報の受け手に安心感を与えることでしょう。多くの企業が今後も楽しく積極的に取り組んでいただくことを投資家の一人として期待して、応援したいと思います。

・情報発信は全社で取り組むことを期待(特に広報とIR)

IR活動は特定の部署だけでなく、会社全体で取り組むべきです。特に広報とIRは”企業の本質的価値を理解してもらう”という目的においては共通する部分があり、手を取り合って進めるのが自然でしょう。ただ情報を公開するだけではなく、企業への理解を深める情報発信を目指す場合、これら二つの部門が協力することで、その効果をより大きくできると思います。
広報はIRに比べて投資としてとらえてもらえています。広報とIRが協力することで、IR活動をより投資的な取り組みとして前進させ、それがIR部門の評価の向上や担当者の地位向上にも繋がることを期待しています。

〇補足

今回の座談会はIR活動の重要性が高まる中で、常日頃からIR担当者の活躍にフォーカスを当てたいと考えていたところ、同じように考えている株式会社Figuroutの池松さんと意見が一致し、開催に至りました。
参加していただいた個人投資家の皆様からいただいた意見が自分とは全く違う評価であったり、非常に参考になりました。
今後、違った形での開催も予定されているとのこと。そちらも楽しみです。

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