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シラフで会うには、眩しすぎる。

13時の下北沢。

マッチングアプリで会った彼とカレーを食べに行くために、ここに来た。
もともと都内出身じゃない私は、先輩だったり、少ない友人、たまにいい雰囲気になる彼なんかに連れ出してもらうことで、東京を歩くことが多い。
下北沢は初めてだ。

出不精の私を連れ出してくれた彼は、今日で会うのは2回目になる。
はじめましては仕事終わりに居酒屋で。適度に証明が暗くて適度に喧騒が気取ってなくて心地よかった。

待ち合わせ場所で合流した彼に連れられて行ったのは、路地裏の雑居ビルの地下みたいな場所に、ひっそりとあるカレー屋さんだった。
すごく私好みのお店だった。

着席してからも彼は話題を振ってくれた。
ちょっと変わったカレーの注文の仕方、最近スマホを落とした話。
ひとしきり話が終わった頃、沈黙が訪れる。
...私から振る話題が思いつかない。
カレーを食べていたから話しづらかったのか、出不精が久しぶりに浴びた日光に疲れを感じていたからか、それとも別の理由か...
「どうか、沈黙も心地良いと思っていてくれ」
都合のいい期待を勝手に彼に背負わせて、店をあとにした。

その後もひとしきり下北沢を散策したが、状況は変わらなかった。
彼は聞き上手だし、褒め上手だし、エスコートも上手だ。
でも私はあまりにも彼に興味が持てなかった。

前回はまだマシだった気がする。お酒を飲んでいた前回は。
自分の薄情さをアルコールのせいにすることに成功した私は、結局クラフトビールに力を貸してもらって、その後の散策をつないだ。

***

シラフは漢字で書くと「素面」らしい。

・酒気を帯びていない、お酒を飲んでいない
・いつもと同じ、通常通り
・剣道や能楽などで面をつけていない
・化粧していない、すっぴん、素顔

という意味。
人の意見を伺ってばっかの夜型人間には、昼下がりのシラフは眩しすぎたらしい。
いつか青空の下で、面を取れる日が来ることを願う。

***

帰り際、彼からのLINEで今日は楽しかったことと、次は吉祥寺に行かないかという連絡が来ていた。
対して、少し飲みすぎたビールに気持ち悪さを感じつつ、見慣れた夜に包まれる感覚に、徐々に心地よさを取り戻していた。

「カレー、丁度いい辛さだったな。」

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