人間みたいだね

「人間みたいだね」
君は本当に嘘つきだ。僕は君のことなんて、何一つ知らないし知りたくもない。
けれど今だけは君の言葉を信じようと思う。
だからさっさと終わらせてよ。
早く僕の前から消えてくれないかな。
そうすれば僕も諦めがつくから。
「それじゃあ行くね」
君は寂しそうに立ち上がる。そしてそのまま振り返らずに歩き出した。
扉の前まで行って立ち止まると、ゆっくりとこちらを向く。
それから少しだけ笑って口を開いた。
「また来るね」
それはきっと二度と来ない別れの言葉だった。
でも僕は何も言わずにそれを見送る。
「              」
空白の言葉を吐き出す。
それは酷く透明で、無味無臭のそれでは君を振り返らせることはできなかった。
君は小さく手を振ると、今度こそ部屋を出て行った。
足音が遠ざかっていく。
やがて聞こえなくなった。
これで終わりだ。
僕はもうこの部屋に一人きりになった。
それでも心は静かで穏やかだ。
どうしてだろう? 不思議に思って窓の外をみる。
暗闇が続いていたはずの外は、美しい街並みのグラフィックに戻っていた。
君という小さなバグが消えたからだろう。
きっと、今の僕はちっとも人間みたいじゃない。
君もそう思うだろ?

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