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戯曲『瓶の底』

瓶の底 1日目

登場人物
ナミ
ヒメ
ルリ
男1・2・3・4・5

 簡素な照明が3人の少女を照らしている。その周りを複数人の男たちが囲むように座っている。我々には見えない壁越しに少女たちをジッと見つめている。ヒメはリクルートスーツ、ナミは学生服、ルリはパジャマ姿で、それぞれ左胸にネームプレートがついている。

 男たちの顔は薄暗くてよく見えない。

男1:ポーン

 3人が同時に目を覚ます。
 しばし沈黙でのやりとり。ナミ以外に男たちは見えていないようだ。
 3人が三者三様のストレスを受けているように見える。
 張り詰めた空気の中、ルリが耐えかねて泣き出してしまう。
 それを見てヒメがイライラし始める。ルリますます泣き出してしまう。
 ヒメますますイライラする。

ヒメ:(深いため息)あんた、泣くのやめて。

 ルリ、さらに泣き始める。

ヒメ:泣くのをやめなさい。いい?深呼吸して。

 ルリ、深呼吸する。少し落ち着く。

ナミ:何でそんなに泣いていたの?
ルリ:あの、その、わからなすぎて。
ナミ:何がわからない?
ルリ:何もわからないんです。(また泣きそうになる)
ヒメ:あー、もう、泣かないの。
ナミ:面白いね。
ヒメ:はぁ?
ナミ:ん?
ヒメ:何が面白いわけ?
ナミ:いや、なんか、わからなさ過ぎて。面白くない?(ネームプレートを見て)ヒメちゃん。
ヒメ:、、、(ネームプレートに気が付く)あんまりこっち見んな。なんか腹たつ。

 ヒメ、自分の服のポケットを確認し始める

ナミ : どうしたの?
ヒメ:、、、スマホが。あんたら持ってない?
ナミ : 持ってないよ。
ルリ: (ポケットを確認しながら)ないです。
ヒメ : (イライラを鎮めてから)今どういう状況かわかるやついる?

 二人、困惑している。

ヒメ:どうしてデケェ瓶の中にいるのか知ってるかって聞いてるんだよ。

 二人とも首を振る。

ヒメ:あっそ。
ナミ : (ヒメに)ねえ、私のことわかる?
ヒメ : 知るわけないでしょ。あんたのことなんか。
ナミ : (ルリに)ルリちゃんは?
ルリ:(首を振る)
ヒメ : 別に深く知る必要もないでしょ。どうせここを出たら会うこともないんだし。
ナミ:ここを出るの?
ヒメ:当たり前でしょ。いつまでもこんなところに居られない。
ルリ : 出られるんですか?
ヒメ : 出来る出来ないじゃなくて出るの。
ルリ : ごめんなさい。
ヒメ : 思ってもねーのに謝んな。
ルリ : ごめんなさい。
ナミ : まあまあ、で、どうやってでるの?

 ヒメ、周りを見渡す。周りは完全に壁に囲まれていて窓一つない。
 天井は高いが光が差している。

ヒメ : (上を指差して)あそこから。

 二人、指さされた方向を見る。

ルリ:、、、
ナミ:おー。
ルリ:(泣き始める)
ナミ:ほらぁ。
ヒメ : 泣くな!あんたらはここから出たくないわけ?
ナミ:うーん。
ヒメ : (ルリに)あんたは?出たくないの?
ルリ:私は。わからないです。
ヒメ:もういい。私一人で出るから。

 ヒメ、壁と対時する。壁はツルツルしていてのぼれそうにない。
 希望がどんどん遠のいていく。ヒメ、この場所の息苦しさにどんどん気付いてしまう。
 それらを振り払ってガラスの壁を登ろうとするが落ちてしまう。

ナミ:ヒメちゃん。
ヒメ : (振り返る)
ナミ : 大丈夫?
ヒメ:、、、
男2:ポーン
ナミ:(男2の方角を見る)
ルリ:あの。
ナミ:何?
ルリ:おはなししませんか?
ナミ:おはなし?
ルリ:今わからないことが多すぎて、苦しくて。
ナミ : (ヒメに)それでいい?
ヒメ : そうだね。申し訳ない、頭に血が上りやすくって。
ナミ:いいってことよ。何について話す?
ルリ:どうしましょ。
ヒメ:とりあえず、自己紹介とかかな。私はヒメ。何故かフルネームが思い出せない。でも、その他のことは覚えてる。昨日、終電で最寄りの改札降りたところまでは覚えてるんだけど、それ以降の記憶がない。気付いたらここにいた、って感じかな。

 ヒメ、ルリに視線を送る。

ルリ:私は、私は、ルリです。高校生です。すみません、なんか、記憶が曖昧で、他のこととかあんまり覚えてなくて。すみません、以上です。

 ナミに視線が集まる。

ナミ:私は(ネームプレートを見て)ナミ、多分JK。よろしくね。
ヒメ:え?終わり?
ナミ:うん。
ルリ:あの、多分って言うのは?
ナミ:あー、JKだったかは覚えてないけどまあ、制服着てるし、みたいな。
ヒメ:何も覚えてないってこと?
ナミ:うん。

 沈黙。

ヒメ : きっと、ここに連れてこられたときに頭でも打ったんだよ。
ルリ : 連れて来られた?
ヒメ : 誘拐に決まってるでしょ。こんなの。
ルリ : 誘拐!?
ヒメ : そりゃそうでしょ。そうじゃなきゃどうしてこんなところにいるわけ?
ナミ:あー、確かに?
ルリ:どうして私たちを。
ヒメ:知るわけないでしょ。
ルリ:すみません。
ヒメ:あー、イライラする。

 ヒメ、ウロウロし始める。

ナミ : 何やってるの?
ヒメ : 出入り口がないかどうか探してるの。入れたってことは入り口があるはずでしょ。
ナミ:えー。探すまでもない気がするけど。
ヒメ : うるさい。
ナミ:ヒメちゃんどうしてそんなに出たいの?
ヒメ:はあ?誰だって出たいでしょこんなところ。
ナミ:でも、なんか、妙に焦ってない?
ヒメ:何?喧嘩売ってるの?
ルリ:あの、すみません、ちょっと喧嘩は。
ヒメ:黙ってて。

 ヒメ、ルリを軽く突き飛ばす。ルリ、大きく倒れてしまう。
 しかし、大きな音も衝撃もない。ヒメ、ルリが倒れたことに気がつかない。

ナミ:(それを見て)ヒメちゃん頭に血が上ってるよ。
ヒメ:は?なんの話?
ルリ : あの、ヒメさん、すみません。
ヒメ:なんなのs

 ルリ、ヒメを殴る。ヒメ大きく仰け反りゆっくり倒れる。

ヒメ:何すんの!?
ルリ:感覚がありません。
ヒメ:は?
ルリ:痛いとか、地面の感覚とか、ありません。

 ナミ、自分のほっぺたをつねる。何も感じない。

ナミ:これは夢ってこと?

 沈黙。

ナミ:これは夢ってこと?

 沈黙。

ナミ:これは夢っt
ルリ:いや、聞こえてます。
ナミ:あ、そう?
ルリ:はい。
ヒメ:リアルな、夢?ってこと?
ルリ:いや、わからないです。

 ナミ、ルリを軽々と抱き上げる。

ルリ:なななな、なんですか?
ナミ:うわぁ、すごい。
ルリ:何がですか?
ナミ:人間の重さじゃない。
ルリ:え?
ヒメ:ちょっと貸して。
ルリ:え?
ナミ:いいよ。
ルリ:いや、ちょっと。

 ナミ、ルリをヒメに手渡す。

ヒメ:本当だ。なんで?
ナミ:さっき、ルリちゃん、ヒメちゃんの小突きでめっちゃ吹っ飛んだから。
ヒメ:いや、そう言うなんでじゃないんだけど。ていうか、さっきルリ吹っ飛んだの?
ナミ:うん。
ヒメ:(ルリに)本当にごめん。
ルリ:いえいえ、大丈夫です。本当に全く痛くなかったっていうか、何も感じなかったんで

 沈黙。

ルリ:下ろしてもらってもいいですか?
ヒメ:あ、ごめん。

 下ろす。沈黙。

ヒメ:ちょっと起こしてみて。
ナミ:え?
ヒメ:いいから、ちょっと、ほら。
ナミ:え?え?どうやって?
ヒメ:なんかほら抓るとか。
ナミ:でも、ヒメちゃんさっき殴り飛ばされてるんだよ。
ヒメ:いいから。
ナミ:わかった。

 ナミ、ヒメを思いっきり抓る。

ヒメ:痛くない。
ナミ:うん。
ヒメ:でも、起きないな。
ナミ:うん。そうだね。
ルリ:そもそも、夢って感じでもないですよね。
ナミ:どうして?
ルリ:あまりにもリアルすぎるというか。それに夢だったらここからも簡単に出れてる気がします。
ナミ : ところでさ。
ルリ:なんですか?
ナミ:二人ってあの人たち見えてる?
ルリ:あの人たち?
ナミ:外にいる男の人たち。
ヒメ:何言ってんのあんた。
ナミ:あ、じゃあ、まあいいか。
ルリ:イヤイヤ、ちょっと待ってください。それ多分よくないです。ナミさんにはこの瓶の外が見えてるんですか?
ナミ:うん、まあ。
ルリ:そこに男の人たちがいるんですね?
ナミ:うん。5人。
ルリ:何かコンタクトは取れそうですか?
ナミ:え。ああ、どうなんだろ。(男たちに)あのー。
男3:ポーン
ナミ:ポーンって言われた。
ルリ:ポーン?
ナミ:あ、でも、ポーンとはさっきから言ってたよ。
ルリ:さっきから言ってたんですか?
ナミ:やっぱり聞こえてなかったんだ。
ヒメ:まあまあ、二人とも落ち着けって。

 二人、ヒメに視線を向ける。

ヒメ : (独り言みたいに)これが単なる誘拐じゃないことはわかった。
ナミ:うん。
ヒメ : どれだけ異常事態なのかも。
ナミ:うん。
ヒメ:多分、常識で考えてもここから出られない。

 ヒメ、泣き始める。重い沈黙。
 二人、顔を見合わせる。

ナミ : おはなしの続きしない?
ヒメ:え?
ナミ : さっきルリちゃんも言ってたけどわからないことが多すぎると苦しくなるもんなんでしょ?だったら、お互いのこと少しでも知ってた方がここの居心地もよくなるんじゃないかなって。
ルリ:そうですね。雑談でもいいからとにかく何かお話ししましょうか。
ナミ : じゃあ、なんの話しよっか。
ルリ:ヒメさんはここ出たら何したいですか?
ヒメ:ここ出たら。笑うなよ。
ルリ:笑いません。
ナミ:私は約束できないな。
ルリ:ナミさん。
ナミ:善処しよう。
ヒメ:ここ出たら。彼氏にめっちゃ甘えたい。

 二人、目が点になっている。

ヒメ:なんだよ。笑うなら笑えよ。

 ナミ、爆笑。

ヒメ:笑うな。
ルリ:ヒメさんかわいい。
ヒメ:かわいいとか言うな。
ルリ:じゃあ、今も彼氏さんが心配してるわけですね。
ナミ : あー、それであんなに焦って出ようとしてたんだ。
ヒメ:そう言うわけじゃなくて。
ナミ:照れんなって。
ヒメ:いや、本当にそう言うわけじゃなくて。
ナミ :?じゃあ、どうして?
ヒメ : なんか。どうしてもアイツよりも先に帰らなきゃいけなくって。
ルリ:どうしてですか?
ヒメ:なんか思い出せないんだけど。見られたくないもの?があって。
ルリ : 見られたくない?
ヒメ : うん。何か絶対見られたくないものが部屋にある、ような気がして。
ナミ:エロ本?
ヒメ:んな訳ねーだろ。
ナミ:ヒメちゃん持ってそう。
ヒメ : 殺すぞ。
ナミ : 持ってないの?
ヒメ:持ってる。けど、それじゃないよ。
ルリ:BL本ですか?
ヒメ:そういう違うじゃなくてだな。
ナミ:えー。
ヒメ:えー、じゃない。そんなんじゃない、はず。て言うか、私はもういいだろ。ルリは?ルリはなんかそういうのないの。
ルリ:そう言うの、ですか?
ヒメ:わかんないけど。好きな人とか。
ナミ:お、JKの恋バナ。
ヒメ:お前もJKなんだろ?
ナミ:あ、そっか。私もJKだ。
ヒメ:まあ、うん。
ルリ:私は。ぶっちゃけてしまうと。学校に行けていないのでそう言う話はありません。
ヒメ:、、、
ナミ:、、、
ルリ:人と話したのもお父さん以外とは久しぶりです。すみません。つまらない人間で。
ナミ:それでパジャマだったんだ。
ヒメ:そう。それ思った。
ルリ:え?
ヒメ:いや、こいつなんでパジャマなんだってずっと思ってて。
ナミ:そう、視界にルリちゃん入るとちょっと面白かったよね。
ヒメ:いや、ずっとパジャマの癖に真剣な顔して話してるから面白くて仕方なかったわ。
ルリ:すみません。
ヒメ:うん。だから、全然つまらない人間じゃないよ。ルリは面白いし、学校でのこととか家族のこととか社会に出たらあんま関係ないから気にすんな。高校の友達とかもう全く接点ないし。(ナミに)な?
ナミ:いや、私はわからんけど。記憶ないし、JKだし。
ヒメ:ああ、そうだったわ。
ルリ:なんか、ありがとうございます。
ヒメ:なに礼なんか言ってんだ。
ルリ:思ったから言っただけです。
ヒメ:なんだ?やんのか?
ルリ:やりませんよ。
ナミ:なんか、空気が柔らかくなったね。
ヒメ:まあ、今も、見られてる訳だけどな。

 少し、空気が硬くなる。

ヒメ:そいつらは今どんな感じなの?
ナミ:さっきから変わらないよ。ずっと座ってこっちを見てる。表情はよく見えない。
ヒメ:趣味の悪い奴ら。
ルリ:、、、あの、すみません。ちょっと暗い話になってしまうんですけど。私達の体って本当に大丈夫なんでしょうか。感覚がないってかなりおかしいと言うか、何か手術みたいなことでもされたんでしょうか。
ナミ:どこかに手術後でもあるのかな?

 各々、自分の体を探ってみる。

ナミ:特になさそうだね。
ヒメ:ますます不気味だな。
ナミ:まあ、でも、便利でもあるかもね。
ルリ:なにがですか?
ナミ:だって、何時間経ったかわからないけど喉も乾かないしお腹も空かないし。
ルリ:、、、
ヒメ:あほ。感じないだけで腹減ってる可能性あるでしょ。
ナミ:あ、そっか。
ヒメ:こんなトイレもなにも無いところで食事したらどうなるか考えたくも無いけどね。
ルリ:あの、ちょっといいですか?
ナミ:どうしたの?
ルリ:その。お、お尻の穴なんですけど。
ナミ : BL本の話?
ルリ : ち、違います。私達のお尻の穴です。
ヒメ : (警戒して)何?どういうこと?
ナミ : ルリちゃん、それはどういう性癖?
ルリ : 違います!ないんです!
ナミ・ヒメ : ない!?
ルリ : ないんです。
ヒメ:うわ。本当だ。ツルツルしてる。
ナミ:ルリちゃん、どうして気づいたの?
ルリ:あんまりにも生理現象がないから、その、気になって。
ヒメ:いや、そんなことより無いってどういうこと?なんで?
ナミ : まあ、でも、使わないんだったらいらないよね。
ヒメ:そういう問題じゃ無いだろ。意味わかんねーだろ。使うし。
ルリ:もよおしてるんですか?
ヒメ : ちげーよ!
ナミ : 私、思ったんだけどさ。
ヒメ:、、、
ルリ:、、、
ナミ:私たち内臓ないんじゃ無いかな。
ヒメ:ちょっと何言ってるのか分かってんの?
ナミ : でも、なんか無い感じしない?空洞な感じ。
ルリ : ナミさん。内臓がないわけないじゃないですか。内臓なかったら私たち死んじゃってますよ。
ナミ :でも、ルリちゃん。
ルリ :私が始めといて申し訳ないです。でも、ちょっと、身体の話から離れたいです。
ナミ:いや、でも、お尻の穴が
ルリ:ナミさん。
ナミ:えー。
ヒメ:ルリ。私はこのことはちゃんと話すべきだと思う。
ルリ:え?
ヒメ:本当にここから出るためにはここでずっと雑談しているわけにはいかない。もし、ここから出るチャンスが訪れた時のために色んな可能性を考えておくべきだと思う。だからこそ私たちが今どういう状況にあるのか、ここが何処なのか。身体がどうなってしまっていようが、もしかしたら、もう死んでしまっているのだとしても、私たちは今ここにいるのだから。
ルリ :、、、わかりました。でも、一回身体の話題から離れたいです。
ナミ:?どうして?わからないと不安なんじゃないの?
ヒメ:(制しながら)ナミ。(ルリに)そうだな。じゃあ、他のことから考えよ。ここが何処なのか、私たちはどうして連れてこられたのか。
ルリ:何処かは検討もつかないですね。
ヒメ:じゃあ、どうして私たちが連れてこられたか、ですね。
ナミ:面白そうだけど、犯人がいるならその人に聞けばいいんじゃない?
ヒメ:答えてくれるんだったらな。
ナミ:うーん。(男たちを見て)無理そうかな。
ルリ:犯人の目的、ってことですよね。
ヒメ:うん。
ナミ:なんか謎解きみたいだねー。
ヒメ:楽しむな。
ナミ:はーい。
ルリ:ヒメさんってお金持ちだったりします?
ヒメ:いや、全然。
ルリ:ですよね。
ヒメ:ですよね?
ナミ:そっか、お金目的だったら普通お金持ちを誘拐するもんね。
ルリ:お金目的じゃなさそうですね。
ナミ:私たちに共通点とかあるのかな。
ルリ:、、、
ヒメ:、、、女。

 3人良くない想像をしてしまう。

男4:ポーン
ナミ:あ。
ルリ:どうしたんですか?
ナミ:今、ポーンって

 ルリ、泣き始める。

ヒメ:まだ決まったわけじゃないよ。
ルリ:外のおじさんたちが入ってきて、私たちを
ヒメ:まだ決まってないからな。
ナミ:細かい情報から辿ってく?年齢とか。
ヒメ:私は27歳。
ナミ:え、見た目若いね。
ヒメ:ありがと。二人は?
ルリ:あの、私も高校2年生、だった気がします。
ナミ:じゃあ、私も多分それぐらいかな?
ヒメ:いや、何となくナミのが年上な気がする。
ナミ:え、じゃあ、18とか?
ヒメ:うん、、、。というか、ごめん、本当に言いづらいんだけど、ナミって本当にJKか?
ナミ:ん?どういうこと?
ヒメ:いや、ルリはわかるんだけど、ナミがそんなに私と歳が離れてるように思えなくて。
ナミ:えー、私そんなに老けてるかな。
ヒメ:いや、そういうわけじゃないんだけど。
ナミ:JKじゃないのに制服着てるってこと??
ヒメ:いや、確かに、そうなっちゃうんだよね。
ルリ:ま、まあ、制服着てるし学生なんじゃないですか。
ナミ:ヒメちゃん、一人だけ年上だからって変な言いがかりつけないでよね。
ヒメ:そんなんじゃねーよ。
ルリ:まあまあ、他のこと考えましょ。
ナミ:他は。出身地とか、家族構成とか。ま、そういう私はどっちも全然覚えてないんだけどねー、ヒメちゃんは?
ヒメ:私は東京出身、父親と母親と私と弟の普通の四人家族。
ナミ:お兄さんじゃないんだ。
ヒメ:うん。何で?
ナミ:たまに言葉が男っぽいからお兄さんがいっぱいいるパターンかと思った。
ヒメ:いや、それは、親戚に男が多くって。
ナミ:ふーん。ルリちゃんは?
ヒメ:興味ねーじゃん。
ルリ:私は、お父さんと二人っきりです。
ナミ:離婚?
ヒメ:おい。
ルリ:大丈夫です。お母さんは私が幼い時に亡くなってしまったらしくて、だから物心ついた時からお父さんと二人です。
男5:ポーン
ナミ:(ボソっと)あ、全員言った。
ヒメ:ルリ、どうした?

 気づくと、ルリが泣いている。

ルリ:ごめんなさい。なんか、これ、止まらない。

 ルリの様子がおかしい。

ヒメ·男1:ルリ、どうした?

 男1、瓶の中に入ってくる。
 ヒメに男1の声は聞こえていない。

ルリ:お父さん?
ヒメ : お父さん?
ナミ:ヒメちゃん見えてないの?
ヒメ:え?なに?
男1:学校で何かあったのか?どうして部屋から出てこない?
ルリ : 言いたくない。
男1:お父さんに話してくれないか?
ルリ:話したくない。
男1:頼むよ。話してくれなきゃ助けられない。
ルリ : お父さんに私は救えない。
男1:そうか。お父さん、仕事行って来るから、下にご飯用意してあるから、食べるんだぞ。

 男1、元の位置に戻る。

ルリ : お父さん?(どんどん涙が出てくる)あ、そうだ。私、あの日お父さんと喧嘩して、それから、私、お父さんと仲直りした?

 ルリ、父を追って外に出る。

ルリ:ああ、そうだ。お父さんと喧嘩して、私は死ぬことにしたんでした。

 男たち雑踏になる。

ルリ:家では死にたくなかったので樹海に行くことにしました。久しぶりに、外に出て途中何回も立ちくらみが起きましたがなんとかして辿り着きました。

 辺りはしんとしている。

ルリ:部屋で死にたくなかったのは、自分が引きこもりとして死ぬのが嫌だったからです。最後ぐらい外に出たくって。でも、確実に死にたくて、ここにやってきました。
男2:ねえ。
ルリ:いつの間にか、私の後ろに立つ人影がいました。
男3:私もついていっていい?
ルリ:、、、だめです。 

 ルリ、走り始める。

ルリ:必死に逃げます。それでもその人は着いてきました。
男4:ねえ、どうして、死のうと思ったの?
ルリ:どうして死のうと思ったか?学校に行きたくないからです。
男5:どうして学校に行きたくないと死ぬの?
ルリ:学校に行きたくないだけで死にたくなることだってあるんです。

 沈黙。

男1:フーン。そうなんだ。
男2:でも、じゃあ、ちょうどいいね。
ルリ:え?
男3:私は生きたい。
男4:私はあなたより普通だから。
男5:私はあなたより並みだから。
男1:あなたを殺して生きることにするね。

 ルリとナミ、目が合う。

ルリ:やだ。やめて。お願い。

 ルリ、何者かに滅多刺しにされる。
 ルリ、こときれる。

ヒメ:ちょっと、ルリ?どうしたの?
ナミ : 死んでるね
ヒメ:え?
ナミ:うん。ちゃんと死んでる。多分刺殺だね。

 ヒメ、ルリの屍をよく見る。確かに死んでいる。
 ヒメ、パニックを起こす。

ナミ:ヒメちゃん落ち着いて。
ヒメ:何でそんなに冷静なの?
ナミ:え?なんでだろ。あんまり、珍しいことに感じないっていうか。うん。
ヒメ:お前、何でそんな嬉しそうなの?
ナミ:え?そんなに嬉しそうだった?
ヒメ:うん。出会ってからずっと。
ナミ:えー。なんだろ、ここに来る前までは耳元でずっと羽音が聞こえているような、そんな感じがするんだけど、今は初めて静かで、それが嬉しい、みたいな。あれ?なんだこれ?
ヒメ:おかしいでしょ。
ナミ:そっか。そうだよね。今だって、ルリちゃん死んで。でもさ、なんか、さっきのルリちゃんちょっと面白くなかった?
ヒメ:、、、は?

 ヒメ、ナミの目をじっと見つめる。

ヒメ:私、あんたのこと知ってる。
ナミ:奇遇だね。私もなんかどこかで見たことある気がしたんだ。
ヒメ:でも、思い出せない。
ナミ:私も思い出せない。
ヒメ:どうして思い出せない。
ナミ:頑張って。ヒメちゃん。
ヒメ:うるさい。(間)私は、私は、そうだ。あの日はサトルの誕生日で
ナミ:サトル?誰だ?

 男2、入ってくる。

ヒメ:サトル。
ナミ:あれ?サトル?
ヒメ:サトル。(男2に抱きつく)怖かった。私ね。誕生日のこと忘れたフリしてサトルより先に帰ってサプライズしようと思っててね。サトルが家出てから部屋の飾り付けもしてね。まだ途中だったんだけど。プレゼントもね。
ナミ:渡せたの?プレゼント。
ヒメ:、、、ううん。渡せなかった。
ナミ:どうして?
ヒメ:どうして?私、駅で話しかけられて。
ナミ:誰に?
ヒメ:思い出せない。女の人、私と同い年ぐらいの。ずっと話しかけてきて。
ナミ:なんの話?
ヒメ:不安の話。

 男たち、ボソボソと不安の話を始める。

ヒメ:私、怖くって逃げたの。だけどその人追いかけてきて。
ナミ:うんうん。
ヒメ:信号だと赤になった時追いつかれたら嫌で歩道橋を使ったの。
ナミ:そしたら?
ヒメ:そしたら。階段から突き落とされた。

 ヒメ、ナミを見る。

ナミ:?どしたの?
ヒメ:あ。

 ヒメ、首が折れ曲がって、倒れる。

ナミ:あらら。
ヒメ:かわいそう。
ナミ:ん?
ヒメ:あんた。かわいそう。
ナミ:どういうこと?
ヒメ:ごめんね。もっと、話聞いてあげればよかった。

 ヒメ、こときれる。
 男が3人ナミを取り囲む。3人は全員違う色のボタンを持っている。

ナミ:うーん。わからないことだらけだなぁ。これってゲームオーバーなのかな?ポーンってあれ時間制限だったってことよね?

 男たち答えない。

ナミ:しゃべれないのー?

 男たち答えない。

ナミ:もやもやするなぁ。私たちはなにをさせられていたのか。ここはどこなのか。二人はなぜ死んだのか。そもそも、この身体は生きているのか。何故、私だけ記憶がないのか。でも、多分、これは私の身体ではないね。それだけは確信できる。よく似せてあるけど違う。

 男たち答えを待っている。

ナミ:ぐらいかな。わかっているのは。残念だけど君たちを満足させられる答えを持っていないと思う。

 男たち、元の場所に戻っていく。

男1:ポーン。

 二人が同時に目を覚ます。3人が三者三様のストレスを受けているように見える。張り詰めた空気の中、ルリが耐えかねて泣き出してしまう。それを見てヒメがイライラし始める。ルリますます泣き出してしまう。ヒメますますイライラする。
 そんな二人を見てナミが笑い始める。

ナミ:なるほど。私は無限地獄にでも落ちたらしいな。

 終演



















瓶の底 99日目

登場人物
ナミ
ヒメ
ルリ

 舞台中央にナミが立っている。

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