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サピエンス全史2


第二部 農業革命

第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇

1万年前、サピエンスは狩猟採集から農耕へと生活スタイルを変えた。農耕と平行して家畜化がはじまったが、それらは要するに自分以外の動植物の生命を操作することだった。サピエンスはそれに夢中になった。今でも。

BC9000小麦の栽培ヤギの家畜化、BC8000エンドウ豆レンズ豆、BC5000オリーブ、BC4000馬、BC3500ブドウなどが栽培ないし家畜化されたが、それらはさまざまな地域で同時多発的に起こった。

農耕は定住を強いた。農耕・定住によってサピエンスは平和と安寧を手に入れた、といったイメージをしやすいが、そうではなくそれはむしろ困難で満足度のかなり低いものだった。

小麦や家畜から見れば、人を家畜化して自己の種の繁栄をはかったとも考えられる。なにしろ現代の世界の小麦の作付面積は日本の6倍もある。農業革命は史上最大の詐欺であった。サピエンスは、個体数の増加という種として最大の目的を達するためにこの詐欺に乗った。
実際、狩猟採集は多くても100人程度の群れであったが、農耕・定住なら1000人の村を作ることも簡単だ。そして、いったん個体数が増加したなら、もう狩猟採集にはもどれない落とし穴の仕組みになっていた。

また農業革命はサピエンスにとって、「贅沢」という名の罠でもあった。実際には必要量と収穫とはならせばせいぜいトントンであったが、「たくさん収穫できれば、楽になり子供も増やして安心して暮らせるだろう」という幻想を抱かせた。サピエンスはこのとき「願望を抱く」という甘美な果実の味をはじめて知ったのかもしれない。
これは「楽を求めて、より大きな苦難にはまる」という、サピエンスのダメパターンで、歴史はこれを繰り返している。
フーコーの「奴隷と主人」の話しを何となく思いだす。

個人的見解。虚構にせよ願望にせよ、ことの真偽よりとにかく集団で何かを信じ、夢見ることがサピエンスの真骨頂だったのだろう。それはもちろん言葉の働きに負っている。

第6章 神話による社会の拡大

狩猟採集の時代の500〜800万人ほどだった人口は、農耕移行後2億5千万にほどに膨れ上がった。広大な大地を家としていた人がほんの小さな小屋に住み、やがてそれを愛するようになった。さまざまな道具も増え、そこに縛り付けられた。
農耕民は暮らす空間が縮小する一方、時間は拡大した。そして「未来」がより重要になり、同時に未来に対する不安も芽生えた。しかしこの不安は手を打てる不安でもあった。その対処が、たとえば社会体制の確立に向かった。

■想像上の秩序
余剰食糧と輸送技術により、村落は町に町は都市に変わった。100万人を超える都市/王国では、人びとは何らかの「合意」を形成する必要がある。そこでは「神話」が「想像上の秩序」として、その役割をになった。

紀元前1776の、ハンムラビ法典は、「バビロニアの社会秩序が神々によって定められた普遍的で永遠の正義の原理に根ざす」と主張する。人は二つの性と三つの階級(上層自由人、一般自由人、奴隷)に分かれ、それぞれの人の価値はみな違う。

紀元後1776の、アメリカ独立宣言は、英植民地であった北アメリカ13州の住民は「もはや英国王の臣民ではない」と宣言した。そして宣言は言う。「我々は以下の事実を自明のものと見なす。すなわち、万人は平等に造られており、奪うことのできない特定の権利を造物主によって与えられており、その権利には、生命、自由、幸福の追求が含まれる。」

しかし、これらはどちらも間違っている。ともに「普遍的で永遠の正義に支配されている」と「想像した」にすぎない。そういった普遍的原理は「神話の中」だけに存在するのであり、客観的正当性はない。

「生物学」という「科学」によれば、人びとは造られたのではく進化した、のであり、「平等に」なるように進化したわけでもない。生物学的には権利などというものはなく、あるのは器官や能力や特徴だけだ。鳥は飛ぶ権利があるから飛ぶのではなく翼があるから飛ぶ。自由も幸福も、人間の想像の中にしかなく、すべては想像上の秩序にすぎない。

こういった秩序/神話は、皆がいっせいに信じなくなった途端に消えてなくなる。
社会秩序が軍隊によって維持されているとするなら、軍隊の秩序は一部の指揮官と兵士が、神、名誉、母国、男らしさ、お金などを心から信じている必要がある。

その他
• 想像上の秩序は物質世界に埋め込まれている。
• 想像上の秩序は私たちの欲望を形作る。
• 想像上の秩序は共同主観的である。

私見。
ハラリは「想像上の秩序を乗り越えるには、それに変わる想像上の秩序を信じなくてはならない」という。
しかし、人には「想像上の秩序」が必要「だった」のかもしれないが、ここまで読み解かれてみるともはや、そういった補助輪を外してもいい頃ではないのか、という気もする。
コンピュータネットワークやAIの進展は、我々のこの秩序が、想像上のものであるという事実を我々につきつけているように思う。

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