見出し画像

下がり眉の宿命

20代のころ、有名週刊情報誌の編集部に、半年だけ身を置いたことがある。

演劇専門誌の編集部からそちらへ移ったので、あまりにも勝手がわからなすぎて、朝から晩まで戸惑っていた。企画を出せば上司に「なんっか違うんだよなー!」と言われ、見出しをつければ「なんっっか違うんだよなー!!」と言われ、私が自分から発するもののすべてが逐一「なんっっっか違うんだよなー!!!」と言われ続ける日々は、それはそれは、悲しかった。

同期の仲間が、何人かいた。とても優しい人たちで、「なんっっっか違う」私の、基本的には味方でいてくれた。そのうちのひとりの女子が、私にこう言ったのだ。

「オガワさんはさあ、眉毛がよくないんだとおもうよ!」

オガワ家に代々伝わる、生粋の下がり眉だ。父方の親戚の集まりに行くと、みんな揃って同じ眉毛をしている。父方の祖父は漫画家だったので、幼い私の似顔絵をいくつか描き残しているのだが、そのすべてが見事に八の字を描いている。

そうか。私がここで「なんっっか違う」のは、眉毛のせいだったんだ。

その先の記憶が、まるで残っていない。その子と連れ立って化粧品を探しに行った記憶もなければ、女性誌を買い込んで眉毛の研究をした記憶もない。つまり、あの編集部に馴染むための努力を、そこまで悲壮に重ねなかったのだ。努力をせずに、ただへこんでいた。そもそも、馴染む気が、なかったのかもしれない。

半年後、上司に呼ばれた。君はうちみたいな情報誌じゃなくて、専門的な仕事をしたほうがいいよと言われた。もう、契約は更新しません。そう言われて私は、心の底からほっとした。眉毛ごときで何かをジャッジするような世界に、もう、身を置かなくていい。

それから20年が経った。決して上手ではないけれど、メイクすることが、嫌いではないおばちゃんになった。でも眉毛の苦手意識だけはどうしても拭い去れない。眉毛の外半分を削り落とし、山型に描きなおし、さらに前髪で隠している。眉毛は、描きなおし、隠すもの。そう思っていた。思っていたけど、

なんだ、この写真の可愛さはーーー!!!←私の赤子の頃の写真

自画自賛もはなはだしいけど、私が私のまま、何も直さなくても、ちゃんと可愛かった時代が私にもあった。そのことが、なんだろう、しみじみとうれしい。

だからって、すっぴんで出歩く勇気はないのだけれど。でも、いつもより顔を上げて歩きたくなる。人目にふれることにちぢこまっているあなた、子供の頃の写真、おすすめです。(2020/02/11)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?