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セロトニン

バスを待つのに椅子に座っている。いつだったか雨の日に同じ椅子に座っていたのだが同じ場所が今も雨漏りしていてそこだけ人が座らずに空いている。半年以上前だったかも知れないし一年以上前だったかも知れない。と考えていると雨漏りしてたのはもう少し横だったような気もして来た。もう春の雨だなと思っていると大して待たずにバスが来た。電車もバスもあいにくの天候のせいかコロナウィルスのせいかは知らないが空いている。イタリアではついに移動制限を始めたというニュースもやっていた。今日は一日何も予定を入れずガッツリと曲作りをするつもりだったが詞もメロディも全く出て来ない。そもそもギターを弾いてみても鳴る音に愉悦のかけらも感じない。実を言うと昨日からそんな状態で昨日はまだ何かとっかかりはないものかと色々やってみたが今日もこの調子で一日を潰すわけにはいかないと思い外出することにした。コロナ対策と称し日に日にキナ臭い方向に向かってるこの日本でそのうち自由に移動すら出来なくなる前に。読みたいなと思っていて忘れていたミシェル・ウェルベックの最新作のセロトニンを買った。普段なら買わなそうなマルクス・ガブリエルの新実存主義もこんな時はいいかもしれないと迷ったが気分がセロトニンの方を求めていたのでそっちにした。読み始めると自分の勘が間違えではなかったことがすぐわかった。今の心境によく馴染む文体で心が安らいで行くのが分かった。鬱々とした気分の時には爽やかで気持ちの良いものを求める人もいるだろうが自分の場合はその時の心境と同じようなトーンの作品に触れたくなる傾向がある。

「ぼくは今や自分の都合優先で建てた自らの地獄の中にいるのだ」

物語の割とはじめの方に書かれたこの文章を部屋に戻って読んでいる頃には一度も陽の射すことのなかった雨の一日が青く暗くなりはじめていた。


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