わたしのお父さん

 わたしのお父さんは、とてもやさしいです。わたしは今まで、お父さんに怒られた記憶がありません。
 お父さんについて作文を書く宿題が出たので、どうしてお父さんは、わたしを怒らないのか、お父さんに聞いてみました。お父さんは笑いながら言いました。
「おまえは、お父さんが怒らなければならないような、大変なことはしないからね。」
 でも、お母さんは毎日わたしを怒ります。お部屋が片付いていない、とか、宿題をほっぽりだして遊びに行った、とか。なので、お母さんには毎日怒られる、と、お父さんに言ってみました。すると、お父さんは、こう言いました。
「それはお母さんが、おまえには普通に、ちゃんとしたひとになってもらいたいからだよ。」
 お父さんの答えを聞いて、わたしはお父さんに言いました。
「お父さんは、わたしに、普通にちゃんとしたひとになってもらいたいと思わないの?」
 お父さんは、大きな目玉をぎょろりと動かしてから言いました。
「いいんだよ、おまえは、そのままで。」
 わたしにはよく解りませんでした。
 お父さんは、わたしには怒らないですが、たまに怒るときもあります。このまえ、晩ごはんのあとに家族でニュースを見ていたら、そうりだいじんの会見が始まりました。そうりだいじんの話は難しくてよく解りませんでしたが、そうりだいじんは言いました。
「任命した責任を痛感しています。」
 そうりだいじんがそう言ったとき、お父さんの目が真っ赤になりました。牙の間から火を吹きながら、お父さんは言いました。
「責任を痛感しているだって? だったらすぐに、そうりだいじんなんて辞めてしまえ。」
 お父さんが吐き出した火のせいで、カーテンが焦げてしまいました。お母さんが怒りました。お父さんはしゅんとしていました。
 それから、わたしのお父さんは、お酒を飲むのが大好きです。だけど、酔っぱらうとふわふわとお空に飛んで行ってしまうので、お酒を飲むときには必ず、お庭に刺してある大きな杭につないだ鎖を、お父さんの足首にくくりつけます。お酒を飲んだ次の日の朝は、お父さんは必ずお庭で寝ているので、すぐに解ります。お庭で寝るのは寒そうですが、お父さんの体には、とっても固い「オリハルコン」という金属でできた刃物以外では、傷をつけることができないので、大丈夫なのだそうです。
 お父さんのお仕事は、世界に雨を降らせるかどうかを決めるお仕事です。今、そのお仕事をしているのが、世界中でお父さんだけなので、とても大変だと言っていました。
 わたしは、お父さんに言いました。
「わたしも、そのお仕事をやってみたい。」
 お父さんは、大きな目玉をぎょろりとさせて、言いました。
「おまえは、お母さんに似ているから、お父さんと同じ仕事はできないよ。」
 お父さんの返事を聞いて、わたしはがっかりしました。
 お父さんの話をすると、みんなびっくりします。普通じゃないよねと言われることも多いです。でも、わたしには、みんなが、普通じゃない、と言うことの、意味が解りません。
 わたしが小さいころからずっと、お父さんは雨を降らせるかどうか決めるお仕事をしていますし、お酒を飲むときにはお庭の鎖を足にくくりつけます。目を真っ赤にして怒るときには、だいたい、口から火を吹きます。
 もしかすると、わたしのお父さんは、普通のお父さんではないのかもしれません。でも、わたしは、やさしいお父さんが大好きです。
 わたしもいつか、お父さんみたいに、怒ったときには火を吹けるようになりたいです。

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