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冒険ブギウギ(歌と物語)

小倉欽一郎11歳。小学六年生だった。初めて自転車乗れるようになったあの日から、どれくらいの日々が過ぎたのだろう。自転車は間違くなく、僕の世界を変えたアイテムだ。

富津市二間塚の山九社宅A-301号室が僕の家だった。自転車は一階入り口の階段下に置かれていた。

その自転車は、はちんばぁ(僕が良く預けられていた親戚のおばさん)と一緒に平野輪店に買いに行ったんだ。あの光景がうっすらと僕の脳内に揺らぐ・・・多分、予算がオーバーしていたんだ。かっこいい自転車が欲しかったんだ。はちんばぁは僕に優しかった。そんな優しさに付け込んで、僕はそんな高価な自転車を買ってもらった。

その後は平野輪店に通い、いろんなパーツを買いあさった。スポークベル、電飾、バイク用のぶっとい泥よけを付けて、ハンドルを上にあげた、最高にイカした自転車だった。

あれは日曜日だった気がする。遊びに行こうと鉄の重たいドアを開けて、3階から降りたら、僕の自転車がない・・・その後の記憶はあいまいだが、父親にものすごく怒られた記憶は残っている。鍵をかけたのか?という問いに、自転車を改造している内に、鍵のねじがバカになっていた事は、言えなかった気がする・・・

恐怖と失意のどん底で、しばらく学校に行ったりしていたんだろうな・・・今、考えても、泪が出そうになる。

ただ、そこから奇跡が起きる!犯人が捕まったと警察から知らせが来た。犯人はそれぞれの被害者に2万円ずつ払うから勘弁してほしいという事だった。2万円じゃ足らない事はわかっていたが、両親がそれでいいと了承したようだ・・・だけど、おかしいな・・・自転車の値段だって調べればすぐわかる。本当はもっと金額をもらったけど、僕には2万円って言ったんじゃないか?両親がネコババした可能性があるが、答えはあの世か・・・畜生。

そんな2万円を握りしめて、また平野輪店へ行った。自転車屋は儲かっていいなぁ・・・なんてまだ純粋な僕は思わなかった。僕は新しい自転車を探す事に夢中だったはずだ。多分後永君に言われたんだと思うんだ。僕と同じような自転車を買えと・・・。彼は、僕らの仲間内ではリーダー格で、威張ったり意地悪だったけど、企画力や行動力はあった。将棋をしたり、囲碁をしたり、釣りに行ったり、喧嘩もしたけど、口喧嘩はめっぽう強く、彼から学んだことは多かったと思う。

そして選んだ、5段変速スポーツタイプの自転車だった。僕も自転車もピカピカに光っていたはずさ!

それから数日が経って、後永君が言い出した。
「小倉の自転車の納車記念をやろう!」
大工の息子の猫海君は言った。
「そうだな!じゃあ、どこに行こうか?」
後永君リーダーらしく
「鹿野山に行ってみようぜ!」
お金持ちの谷田君は
「鹿野山?それってすごく遠くないか?」
と、ちょっと心配そうに言った

そう、それは往復34キロの、僕たち4人にとっての大冒険だった。

夏休みも終わった2学期の日曜日。計画は実行に移された。

朝露の香りが消えた頃、いつもの場所に集まった。僅かな小遣いをポッケに入れて、4人の自転車が並んだ。今考えれば、それはスタンド・バイ・ミーのようだった。胸は高鳴る冒険ブギウギ。

僕たちは稲刈りの終わった田圃道を走り、君津の町並みを抜けた。視界は良好!結構!俺たちゃ最高!冒険ブギウギ。

休憩を取りながら、道端に咲く秋の花を見て、今頃あの娘は何してるかな?思春期の僕はそんな事を思ったはずさ!でも、そんなこと今はどうでもいい!冒険ブギウギ。

やがて道は上り坂になった。まるで人生のようさと思ったりした。でも、あんときゃそんなことどうでもいい!冒険ブギウギ。

風が悪りぃ小僧たちが藪の中から出てきた。僕らの縄張りだと言って喧嘩を売ってきた。怖かったけど、逃げるわけにもいかなかった。後永君が交渉をした。口はやっぱりうまかった。僕らは目的地目指す!冒険ブギウギ。

ナビなんてない。けど、後永君は知っていた。もうじきだ!最後にかなり急な坂が立ちはだかった。自転車を降りて、押して、やっとこさ、上がった。その向こう、目指したゴールの神野寺が見えた。冒険ブギウギ。

やっと着いたのに、神屋寺で何をしたのか、全く記憶がない。多分、結構な時間で、すぐに帰ろうとなったんだろう。

僕たちは後永君を先頭に僕、猫海君、谷田君の順に、急な坂を下った。下って下って下った。ノンブレーキで手放し運転もした。風に髪を靡かせて、それは最高に気持ちが良かった。恐怖もその快感に消えた・・・大人たちの言葉を思い出す。流した汗は必ず報われる。冒険ブギウギ。

今考えれば奇跡だ。無事にみんな下った。本当に上っただけの距離を下ったんだろうか・・それはあっという間だった。そして帰路を急いだ。冒険ブギウギ。

と、後ろで猫海君が叫んでいる。振り向くと二人が、遠くにいる。谷田君の自転車のチェーンがブチ切れ、走行不能になっていた。冒険ブギウギ。

こいつはやばいと思った。チェーンは繋がらない。僕らは谷田君に肩を貸して、交代で引っ張った。闇が迫る夕焼け小焼け!冒険ブギウギ。

誰からともなく「スウェイ!!」という掛け声をかけながら、勢いをつけて谷田君の自転車を送り出し、前方の仲間にリレーしながら、帰った。すばらしいチームプレーだった。冒険ブギウギ。

僕の家が一番遠かった。確か、7時を過ぎていた。僕の家は電話が無かった。まして携帯電話なんてSFの時代。母は心配だったと怒られたと記憶している。冒険ブギウギ。

そんな日曜日の僕たちの冒険が終わった。僕の自転車納車記念の冒険が終わった。

月曜日の小学校。休み時間だったか?先生に呼ばれた。校長室に僕らは4人は並んでいた。学区を出て、鹿野山へ行った事がばれていた。そしてもらった・・・ビンタ!ビンタ!ビンタ!ビンタ!これが僕たちの冒険の終わりだった。冒険ブギウギ!!

この物語を歌にしました。是非お聞きください!

この度もご購読ありがとうございました。
おしまい

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