ひとの人生に"触れる"こと ~解剖実習@タイ に参加して~
ももちゃんのお父さんは今もご健在だけれど
亡くなったあと、ご献体になるそうだ
家族に相談して決めたわけではなく、いきなりお父さんが一人で誓約書を書いてきたらしい
日本に住んでいて、ご献体になるという話を聞いたことがなかったし
なんならご献体という言葉自体、1年前くらいに知った僕にとっては
肉親がご献体になる、という話を聞いて
少し衝撃だった
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思えば、大学へ行く前日
-ご献体を前に圧倒されて、学びきれなかったらどうしよう
-上手に質問できるかな
なんて不安をメンバーに吐露していたら、
メンターの山路さんが声をかけてくれた
「最大限の学びを得て、自身の仕事に還元すること、それがご献体への一番の手向け」
この言葉を受けて、僕は大きな勘違いをしていたことに気づかされた
もしも
“ラボ内で尻込みして、見るだけでも一杯一杯でした”
となってしまったら
--せっかくお金を払ってきたのに勿体ない
--時間と労力に対して得られるものが少なくなってしまう
というなんとも主観的な危惧ばかりしていた
一週間おやすみをいただくために
お客さんを待たせて、代行を依頼して
人に調整をしてもらったおかげで来ることができた実習で
怖くて見られませんでした、なんて言っては失望させてしまうし
なにより
ご献体の生前の思いを何一つ汲んでいない
こんな失礼なことはない
ラボに入るまえに
山路さんが大切なことに気付かせてくれた
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実習の全日程を終え、仲間たち全員が
知見と自信と課題をしっかりと手にして
それぞれの活躍の場に戻っていった
僕もいよいよタイを経つ
その直前に
父がご献体になる
という話をももちゃんがしてくれた
ももちゃんとは、第1回目の解剖実習から
通訳として力を貸してくれているタイ人の女の子である
非常に快活でユーモアの溢れる彼女
そんな彼女が
お父さんからその話をはじめて聞いたとき
すごく複雑な気持ちになったそうだ
お「複雑な気持ちの内訳としては、どの感情が一番強い?」
も「ん-...悲しさが強いかな」
聞いてみると
自分の生みの親である大切な人が
どこの馬の骨か分からない人間に
数人がかりで無理やり動かされて
ほじくられて
引っ張られて
また保存されてビニールシートを被せられて
また次から次にほじくられていく
ことを想像したら
やるせない気持ちでいっぱいになると
ももちゃんは今回含め4回、実習に帯同してくれて
参加者の熱量や
主催者であるミナミさんの思いを間近で体感している方で
何ならこの実習の開催に至るまでミナミさんと共にもがきまくってくれた方で
(BALの過去のメルマガに解剖実習開催までの奇跡の道のりを綴ったものがあるので是非)
僕らがどのような思いをもって解剖実習に臨んでいるか
その熱を知っているももちゃんが、いや
そんなももちゃん"ですら"
悲しさが大半を占めているんだ..
(今回のラボ内でも心の奥に複雑な感情を抱きつつ、怒涛の通訳に勤しんでくれていたそう)
ぼくはどう会話を続けるのが良いのか、、
なんてことを考えていると
ももちゃんが続けた
内心はそう思ってしまったけど
でも
お父さんが決めたことで、
お父さんが幸せになるならそれでいいんだよね
だってそれが
人生最後にできる人生最大の奉仕だから
あまりにも尊すぎる思想に
しばらく言葉が出なかった
人の健康を支えるためにトレーナーを志し、1年半歩んできたけれど
本当の意味で
命を懸けて人の為に行動をしたことがあると
ぼくは胸を張ってそう言えるだろうか
"だれかのために人生を捧げる"
究極のアクションと究極のマインドを
まざまざと見せつけられた僕は
利己的な思考で塗り固められた自分を
ただひたすらに恥じた
美しい思想を持っている人間は輝いて見える
ぼくを最後まで見送ってくれた太陽のような笑顔が
それを体現していた
一年以上前から参加できることを心待ちにしていた
今回の解剖実習
この5日間で得たものは
期待と想像を優に超えていた
初めてご献体に触れたこと
人の身体に活かすために人の身体で学ぶこと
実の父が亡くなった時
”僕は親にも頼られないトレーナーだったのか”と悲憤した
という甲斐田さんの話
ご献体がご献体になる前の人生、
そして思いを考えると
ぼくらは決して生半可な生き方はできない
という山路さんの言葉
チェンマイという地で
あらゆる体験と言葉を浴びて
だれかの為に命を燃やすこと
それが自分の人生が一番輝くこと
それがだれかの人生まで照らす力を持っていること
それを信じて生きてみよう
そう強く思った
・・・笑われてしまいそうなほどクサい言葉の羅列
けれども今の僕の気持ちを言い表すとしたら
この言葉以外ない
そうとしか思えないほど、ただひたすらに熱い経験だった
そして
この言葉を
ただの言葉だけで終わらせず
学びつづけ
人と向き合いつづけていこうと思う
人の健康を支えるトレーナーから
人の人生を彩るトレーナーになるために