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マルチ人。の絶叫伝記 〜小学生編 ③ モンスターハウスからの脱出〜

1991年夏。東京、練馬区。

梅雨も明け、蒸し暑さを感じる頃には、山川(やまかわ)家(仮名)と金田(かなだ)家(仮名)との、いびつな同居生活にも少し慣れてきた。

遠くから見ると、手長猿を思わせる金田側の小学5年生のひろや(仮名)は、周りの人とは壁を作らず、人を笑わせる人懐っこさと愛嬌を兼ね備えていた。

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山川側の2つ上の兄のりょう(仮名)私(マルチ人。)と、金田側のひろやとの間でちょっとした、子ども同士の喧嘩や言い争い、対照的にくだらないギャグを言い合うような関係になるのは、さほど時間がかからなかった。

両家の子どもたちが打ち解けるのに、最初は弊害がなかったのだ。

同居生活の時間の経過は、私たちにとって、徐々に"素の自分"を出していける環境へと変化していった。

一方では、この時間の経過が、"本性"を出しやすい環境にしてしまった、と言い直した方が適切だろうか。

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ひろやは、持ち前の明るさと、陽気さ、その人たらしな性格で学校では人気者の部類であっただろう。

間違いなく”陽キャ(ラ)”だ。

わたしたち山川側の子どもたちとすぐに仲良くなれたのは納得できる。

しかし、そんなひろやにも苦手な分野はあった。

・・・それは勉強だ。

私が小学生の時のテスト点数の平均は、どの教科も75点~80点くらいだったと思う。

ひろやの点数は、ほとんどが50点以下の点数だったと記憶している。

ひろやという少年は学校では、”ドラえもん”くらいの人気者だが、学力だけは”のび太くん”なのだ。

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「ひろやくん、点数低っ。なんでこんなにテストの点数悪いの?」

と、採点されたひろやのテストを見るたび、口癖のように私は彼に問いかけていた。

学校からのテストの戻しがある度に、ひろやの赤点テストが蓄積されていった。

逆に兄のりょうや私の80点前後のテストが積もっていった。

テストの点数だけ見ても、山川家の子どもと、金田家の子どもの教養の違いを比較せずにはいられなかった。

嫌でも親の目に留まってしまうのは避けられない。

ある日、いつものようにひろやはテストの答案用紙を、ひろやの実父でもある”はる(仮名)”と私たち山川家の母に渡した。

直後、突然怒声が、部屋に響く。

はっ、と自然に意識と目線が、その怒声が聞こえた方向に向く。

私は自分の目を疑った。

実の息子のひろやの片腕を曲がらない方向に、曲げようと関節技を極めている、はるの姿がそこにあった。

あ

私はその光景を理解するのに、数秒かかった。

(プロレスごっこか?)と一瞬、思いもした。

「っつ、いたっ、いたたたっ」

と、声にもならない声を出し、歪んだ顔をしたひろやを確認した。

小学5年生のその細い腕が、ミシッ、ミシッと今にも音が聞こえてきそうなほどに、痛々しい光景を目の当たりにしたのだ。

その現実に、自分の血の気が引いていくのが当時幼いながらも感じた。

声もでなかった。

ひろやが泣き叫ぶ。

「もう、やめてあげてぇぇ!」

母が泣き出しそうな声で訴える。

その光景が衝撃的過ぎてその時、はるの怒声は、私にはもう聞こえなかった。

関節技を極めたまま”はる”は、リビングへひろやを引きずる。

リビングの窓から、ひろやの上半身を外に突き出して、3階のマンションから突き落とそうとする。

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これまでに味わったことがないその異様な事態に、まるで深い金縛りから解けたかのように咄嗟に体が動く。

「はる、やめて、もうやめてっ!!」

私も含めた山川側の子どもが止めに入り、泣いて訴える。

”はる”の”ひろや”を脅すその怒声は、私たちの訴える声をかき消す。

最悪のケースが脳裏にちらつく。人の”死”が一瞬、頭をよぎる。

「はる、やめて、本当にもうやめてっ!!」

絶叫レベルで無我夢中で訴え続けた。

この一部始終は、サスペンスドラマでもなく、漫画でもなく、ニュース番組でもなく、目の前で起こったリアル(現実)だった。

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・・・ほどなくして、はるはひろやの腕を離し、上半身を窓から離した。

とりあえずの怒りが収まった様子だ。

その場に居合わせたすべての人間が、衝撃な光景の終わりとともに

はぁ~、と心の声が漏れ、肩を落とした。

何でもテストの点数が悪いというだけで、怒りに任せた”はる”は実の息子である小学5年生のひろやの片腕をへし折ること、マンションの3階から突き落とすことの未遂を犯したのだ。

はるの笑みと一緒に浮き出る両頬のえくぼが、人良さそうな印象だったが、これまで隠していたはるの本性がむき出しとなったのだ。

そう、はるはド典型的なドメスティック・バイオレンス(DV)だったのだ。

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私(マルチ人。)は、離婚前の平穏な生活では、全く味わったことがない異様で異質しか感じられない環境へと一変したことを理解した。

私たち山川家も、同居を機に引き取られたひろやも、突然このモンスターハウスに迷い込んでしまっていたのだ。

(理解の範疇を超えるはるの行動は、この一件だけでも十分だったぞ!このクレイジー・・・ケンバンド!!)
と、啖呵を切りたいところだが、怖いのでネットだけで吠えることにする。

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このはるという、母の新しい恋人に対して、私の心の中に”恐怖”と”憎しみ”という感情が長い時間をかけて、根強く入り混じってゆくことになる。

その年の10月。
山川家は逃げるようにして、金田家のはるとひろやから距離を置くようにその家を出ていき、約6か月間の同居生活が終了することとなる…。

まさに、モンスターハウスからの脱出をしたのだ。

To Be Continue…









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