見出し画像

パリのセルジュ・ゲンズブール

「パリのセルジュ・ゲンズブール」というのは「浅草のビートたけし」みたいであまり意味を成していないんだけど、去年目黒シネマで『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ 4K完全無修正版』(たしか2Kでの上映だったが)と『スローガン』を観てからすっかりゲンズブールに興味が出てしまい、この間はじめてパリに行ったらゲンズブールに関する展覧会をやっていたのもあって、偶然色々見ることができた。

Serge Gainsbourg: Le mot exact @Centre Pompidou

展覧会はポンピドゥー・センターでやっていた以下のもの、「Serge Gainsbourg: Le mot exact」と題した展示で、図書館3階の一角の展示スペースで開催されていた比較的小さな展示。https://www.centrepompidou.fr/fr/programme/agenda/evenement/sERpg1R

これに関連した記事も出ていた、フランス語が読めないので詳しくはわからないが、展示をフォローする内容のよう、展示自体には概ね英語のキャプションがついていて、フランス語がわからなくても大体楽しめた。https://www.centrepompidou.fr/fr/magazine/article/signe-gainsbourg

3階図書館の一角に作られたギャラリースペースでの展示(入場無料)

入り口はポンピドゥー・センターに入っている図書館内にあり、入場無料だが図書館に入場するための入り口でチケットを発券する必要がある(おそらく夕方以降はチケットなしで入館できる)。自分が入ったときはまだチケットが必要な時間だったが、入り口ゲートの発券機が故障していて発券ができず、何度か突っぱねられたが受付に文句言い続けてたら入れた。

ゲンズブールの蔵書、この部分は文学作品が並んでいた

展示の目玉はゲンズブールの所蔵していた本のコレクションのようで、キャプションにはゲンズブールがこうした書籍を作詞や制作の参考にしていたということが書かれていた。

こちらはポップカルチャーが中心、と思いきやヴィアン『墓に唾をかけろ』や『テル・ケル』なども並んでいる

自分は文学にあまり詳しくないのであれだけど、モンテスキューの全集とかジャン・コクトー『阿片』とかがあった。キャプションを読むと、やはりこうした書籍のコレクションがゲンズブール作品の間テクスト性の源泉となっているとのこと。そういう意味では、ゲンズブールはやはりポップカルチャーの人だということがよくわかる。

また、書籍だけじゃなくてタイプライターなどの私物や詞の直筆原稿などの展示もあり、こちらも面白かった。

IBM社製タイプライター
トレードマークの革靴や手袋など、ファッションについても少し触れられていた

ファッションについての展示部分に前後して、ゲンズブールの文字の上での二重性(Double Littéraire:出生名であるGinsburgからGainsbarreといった変名のことか?)からメディアにおける二重性(Double Médiatique)への変化、あるいはメディアにおけるダンディなイメージの形成をジキルとハイドを引き合いに出して説明したりしていた。
自分は(フランス語で書かれた詩の直筆原稿が読めないので)この辺りが一番面白く、やはりこうしたメディア上での二重性においても間テクスト性がポイントになっている、という意図のキュレーションだったのだと思う。

ただ他に回った美術展に比べ、今ゲンズブールを展示するということの意義みたいなことがあまり感じられなかったのも事実。自分はゲンズブールが好きで、フランスでゲンズブールについてこういう展示がまだ出来るということにもある種の希望を感じているので、過去の数々のスキャンダルに焦点を当てた方がいいだとか、バーキンやシャルロットの視点を中心に描きなおした方がいいとかは必ずしも思わないけど。
ただ例えば、無精髭でざっくりしたいわゆるノンシャランなイメージのファッションは、ちょうどメディア露出が増えた頃に出会ったバーキンの影響が大きい、とかそういう話は触れると面白いかなと思う。

詩作のプロセスを解明するような展示もあったがフランス語が読めず断念、、、

というかそもそも、ゲンズブールはプライベートでのモラハラもあったり、メディアの上でもあり得ないセクハラが有名な人なので、たとえばMeToo的に言えばゲンズブール自体が完璧にキャンセル対象といった感じもある。ただ自分にとって面白いのは、『ジュ・テーム~』とかで典型的だが、本人のイメージはダンディズムなんだけど作品ではクィア的な問題を扱っていること(だけど、と書いたがこれらは矛盾していない気もする)と、それをマスメディアを通してやっていたことだと思うし、それでもキャンセルしてしまうのはいかがなものかなという気がやはりする。

ゲンズブール自邸

パリのゲンズブール聖地巡礼といえば多分墓地なんだけど、ゲンズブールが長く住んでいた家も残っていて、サンジェルマン・デ・プレにほど近いヴェルヌイユ通りにある。没後30年以上が経つがまだ手付かずだったようで、ここ数年は記念館に改修しているとのニュースもある。散策していたらたまたま近くにあることがわかったので見に行った。

ファンが描いたと思しき落書きやら張り紙などでよく目立つ、笑
ゲンズブールのスプレーアート
こちらはタイルアート、ギリギリ分かる上手さ

おそらく、ポンピドゥー・センターでの展覧会は、記念館への改修を機に自宅に遺されていたコレクションなどを展示する、といった経緯もあったのだと思う。

オルセー美術館とサンジェルマン・デ・プレ教会の間にあるので、観光ついでに散歩しているとたまたま通りがかるような場所。月並みだが、こんなパリの中心での生活はどんなだったのだろうかと想像してしまう。

近くで偶然見つけたマルグリット・デュラス旧居、パリ大学を挟んで反対側にある

ポンピドゥー・センターでの展示は5月上旬までやっているし、入場無料なうえあまり大きな展示ではないので気軽に楽しめると思う。
記念館も2023年頭にオープンするとアナウンスされており、現在工事の様子が記念館の公式サイトにアップされていて見ることができる。公式サイトによるともうすぐ開館とのこと、開館したらまた訪ねてみたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?