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スポーツ指導は「うまい、やすい、はやい」

昨年につづいて

「子どもたちにスキージャンプを体験して欲しい。」そこで、無料のスキージャンプ体験会を開催している。場所は長野県飯山市にあるスキージャンプ台だ。ここには大人から子どもまで広い世代が練習できるオールシーズンジャンプ台があり、特に、雪のない季節でも飛べる人工芝ジャンプ台に多くのジャンプ選手が集まる。昨年はそこで合計11回の体験会を行った。体験会の参加者を募集するのにSNSは欠かせない。いざSNSで発信してみると、私が暮らす長野県やおとなり新潟県の子どもたちだけでなく、意外にも東京都や埼玉県など首都圏の子どもたちも集まってきてくれた。そのほとんどがゲレンデスキーはできるけど、スキージャンプ未経験者であった。恐るおそるの初めてのジャンプ挑戦。でも、徐々におもしろさを覚えてくれたのか、その後、体験会に何度も足を運んでくれた子もいた。そして、そのたびに成長していった。その体験会を今年もやる。コロナがあってこれまで開催できなかったけれど、7月からようやく始めようと思う。

頭が痛い

 なぜ、私がジュニア選手育成を始めたのかについては、以前、noteに書いた。

簡単に言えば、少子化であり、雪のある地域の子どもたちでさえスキーをやらない現状がある。それでも「スキーを始める子をひとりでも増やしたい!」ということ。では、なぜスキーを始める子が少ないのか。今は、親の共働きが多いから子どものスポーツどころではないこともある。また、スキーをやるには金がかかる。金のかかるスポーツだからなかなか親が子どもに勧めない。私はこれが大きな要因だと考えている。具体的には、スキージャンプ用の用具を一式そろえるとなると軽く10万円はいく。子どもは成長して大きくなるから、それを毎年買い替える必要にせまられる。中古でもいいからと安くて良い物がメルカリで買えるということはないし、使わなくなった用具をメルカリに出品したところで、そう売れる物でもない。とにかくスキージャンプ人口の減少には「金がかかる。」問題に対応せねばならない。だから、頭が痛い。

「応援する人は誰もいないだろうね。」

 親が子どもにスキーをさせるのに親の理解は欠かせない。理解を得られるためには親の金銭的負担を軽減させる必要があると考えている。かといって私の身銭ですべてまかなえるワケもないし、具体的な結果も出していない私の取り組みに賛同してくれる人もなく、いわゆるスポンサーが集まるわけでもない。私がジュニア育成に取り組む前、ある人から「応援する人は誰もいないだろうね。」と冷たく言われたことがある。身勝手で無謀な取り組みにでも思えたのだろうか。競技人口をひとりでも増やしたい一心で始めようと決意したのに応援の言葉ももらえなかった。「見返してやる!」というエネルギーが沸き立つための激励の言葉だったのか、なぞだ。でも、実際に「やってみたい!」子どもたちはいるし「やっていこう!」と思わせる何かを提供していくためにも、まずは「やってみたい!」子を集めて「ワーォ!」な体験をしてもらうことから始めたいと思った。このような普及活動は競技団体も年間計画に組み込んでいるが、年に一度きりの開催だったりする。その競技団体も今年は現下の状況でなにも身動きできていない。でも、子どもたちの成長はどんな事情があったとしても止まらないし、ジュニア選手の発掘や育成だって止めてはならないはずだ。だから、ひとりの力は小さいけれど、やってみる。

自分が飛ぶ

 子どもたちとジャンプ台に行く。すると、他チームの子どもたちも練習している。何度か一緒に練習するうちに、みんな打ち解けて仲良くなる。「誰でも仲良くなれる装置」が私にも付いていたはずなのにと落胆しても、子どもたちの弾けるような笑顔に元気づけられる。子どもたちのまっすぐな心には大人の誠実さが求められるから、いつもこちらは身が引き締まる思いだ。生意気なことを言うが、私にはスキージャンプ指導に自信がある。指導にあたり確かな目があるし、実体験もある。もちろん、昔取った杵柄で教えることは絶対にしない。「俺はこうやってきた。」というのは自分にとっては恥だ。でも、ときには悩む時がある。「本当にこの指導で良かったのだろうか。」と。そんな時は、自分が飛ぶ。ジャンプ台の大きさは20メートル級といったところだが、子ども用のジャンプ台を自分で飛んでみると指導に対するヒントが山のように表れる。この年齢になって、これまで何度もなんども飛んできたのに「なるほど!」と思うことがたくさんある。オリンピックを闘っていた頃にも気づいていなかったこともあるくらいだ。そして、それを子どもたちが理解できる言葉に置き換えて、伝えてみる。自分が考えていることを子どもたちに伝わるようにするには、言葉の工夫が必要になる。言葉の工夫とは、単純に難しい言葉を易しい言葉に置き換えるということではない。伝わりやすく、イメージしやすい言葉。それは、広告のコピーのような言葉をつくり出すことだ。広告のコピーのように鮮明にはっきり残らなければ意味がない。「うまい、やすい、はやい」といえば、あの牛丼が頭に浮かんでくるような言葉をスポーツ指導の場で考えている。


子ども用のジャンプ台を荻原健司が飛ぶ様子はこちら↓

指導者はコピーライター

 その昔、私はジャンプが飛べた。飛べたというのは、遠くに飛んだということ。K点ジャンプを連発していた。あの時、なぜ自分は遠くに飛べたのか良くわかっていなかった。ただ、ジャンプ台の上から滑り降りていけば、遠くに飛んだ。もちろん、自分が選手ならそれでいいのだ。自分の感覚で、自分のカラダの使い方で、それができるならなにも問題ない。しかし、なぜ遠くに飛べるのかを人に伝えるには、言葉が大きな意味を持つ。そもそも、飛べる理屈を自分でよく理解しておかなければならない。航空力学とかバイオメカニクスの専門家でなかったとしても、物体が遠くへ飛ぶために求められる条件くらいは押さえる必要はあるだろう。そして、それを子どもたちに伝えるのだ。オリンピックを闘っていた頃には気づかなかったこと。それは自分の技術を言語化するということだった。しかも、子供たちにキャッチなコピーを連発しなければならない。

みんな、集まれ!

全国の子どもたち、スキージャンプをやってみようよ!スキー場の初心者コースをひとりで滑り降りてこられるなら、スキージャンプにだってチャレンジできるよ。上級者コースをガンガン攻められるキミならすぐにもジャンプができるでしょう。みんなでチャレンジすれば、こわいことなんてないさ。キミたちを応援する人はここにいるから、みんな、集まれ!待ってるよ!

荻原健司の「みんなでスキージャンプ!無料体験会」詳細はこちら↓


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群馬県出身。スキーノルディック複合の選手として世界を舞台に活躍。冬季五輪団体戦で2大会連続の金メダル獲得。W杯では個人総合3連覇を含め通算19勝を収める。引退後は参議院議員を務めた。スキー指導者転身後は五輪メダリストを排出。現在、ジュニア選手の育成に尽力。長野県教育委員も務める。

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