![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/167127774/rectangle_large_type_2_c4414148c8505578dec01f959a61965d.jpeg?width=1200)
書店を開業してすぐの強烈な思い出
2021年5月24日に「冒険研究所書店」を開設してから、3年7ヶ月。
なぜ冒険家が書店を始めたのか?という、百万回くらい尋ねられたその質問への回答は「書店と冒険」というZINEにまとめたので、気になる方はそちらをご一読願いたい。
もともと、事務所として使っていたフロアを書店に改装してスタートした冒険研究所書店。
私自身、書店経験もまるでない中から、2021年1月30日に「そうだ、書店を始めればいいんだ」と思いつき、知識も経験もゼロの状態から情報を集め、4ヶ月後の5月24日には書店として開店していた。
3年半以上、書店をやっていると色々なことがあった。
オープン時は、古本8割、新刊2割くらいの比率で始めたが、この期間で新刊が増えていき、今では古本4割、新刊6割くらいになっている。総冊数は5000〜6000冊というところ。
開業するにあたり、新刊を自分なりに選書して発注する。「書店」としてある程度の機能を持たせるためには、自分の興味の範囲の外側にも目を向けて、街の人が必要とする本がなるべく揃うようにも心がけて選書をした。
古本、新刊の書棚が完成し「我ながら良い書棚ができたなぁ」などと、一人悦に入る。そりゃそうだ、私が自分で選んだ本が書棚に並べば、それは「我ながら」良い書棚になるに決まっている。
オープン最初期に、今でも忘れられない出来事があった。
書店には、私の冒険の裏方も務めてくれている、幼馴染の栗原が店番として常駐しており、私は営業日の7割くらいは店にいる。その日、私も店にいてお客さんに対応しながら仕事をしていた。
やや年配の女性が店に入ってきた。女性は店内をぐるりと見て回ると、私のところにやって来て言った。
「編み物の本って、ありますか?」
その瞬間、私は衝撃を受けた。
「編み物の本!!!」
もちろん、置いていなかった。
「ごめんなさい、編み物の本、置いてなかったです。でも、あの、注文すれば入りますよ!」
「そうですか、分かりました」
そう言って、女性は店を出て行った。
私が何に衝撃を受けたか。本を選書して店に並べる段階で、自分なりにいろいろなジャンルの本について考えていた。しかし、大型書店でもないのでもちろん書棚のスペースには限りがある。何でもかんでも揃えることはできない。
が、この時の私の頭の中には、そもそもの話として「編み物」というキーワードは、書店を発想したときから振り返っても1ミリも頭に思い浮かんでいなかった。
「編み物の本ありますか?」
そう尋ねられて、私の頭の中では「編み物の本!!あるよね!!世の中には、編み物の本って!!」という衝撃だったのだ。
書店員経験が長い人であれば、肌感覚として書店の書棚のジャンルやコーナーが身についているだろう。小説、漫画、実用書、人文書、ノンフィクション、絵本、などなど大雑把なジャンル分けがあり、そこから細分化されたコーナーがある。実用書には、旅行のガイドブックもあれば園芸の本も、編み物の本もあるな、と感覚が身についているはずだ。
私の問題は「編み物の本を置かなかった」ことではなく、そもそも「編み物」というキーワードすら頭に浮かんでいなかったことだ。
「編み物の本を置くかどうか」を考えた上で、判断の末に「置かない」であればそこには私の意思がある。
人は、自分自身が「何に興味があるのか」を知るのは簡単だ。
しかし「何に興味がないのか」を知るのは難しい。
興味がないということは、そもそもそこに目が向いていない、意識を払うこともないので、存在にすら気づいていない。
女性からの「編み物の本ありますか?」の一言は、私にとって自分が何を見ていないかという事実を、強烈に突きつけてくる一言だった。
書店をやっていると、日々がこんな連続だ。
正直、経営として考えると、書店はやらない方が良い。
が、それを補って余りある面白さと難しさ、そして書店を必要としてくれる人たちに対する始めた手前の責任感もある。