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NFT.NYCでタランティーノ監督が語ったNFTとコンテンツの秘匿性の話

コロナ禍の中で、気軽に海外も行けなくなってしまった反面、Google I/Oや、WWDCなどをはじめ、仕事の合間に、オンラインで様々なTECHイベントに参加できるのは非常に今の時代の楽しみとも言えるかもしれません。さて、そんな中、NFT関連のカンファレンスとしては、10月開催のFLOWFESTと、11月に開催されたNFT.NYCが注目されており、私も非常に楽しみにしておりました。今回は、NFT.NYCのセッションの中でも、気になったタランティーノ監督が発表したNFTをテーマとしたコンテンツについてご紹介しようと思います。

NFT.NYCにおけるタランティーノ監督の発表

NFT.NYCは2019年から開催されているイベントで、数百名が参加する小さなイベントが今年は熱狂的なNFTブームによって600名を超える登壇者と6つの会場で開かれるほどのイベントになったそうです。

このイベントの最も注目されたものは、タイムズスクウェアをハックしたNFTの展示。これはTwitterのスレッドでも多くの人がシェアしていました。

さて、もう一つ非常に注目を集めたのがタランティーノ監督が発表したNFTについてのリリースです。タランティーノ監督は、オリジナルの手書きの台本と、彼自身の独占オーディオコメンタリーを含む、「パルプフィクション」の7つのノーカットシーンを、シークレットネットワーク(SCRT)上に構築された非代替トークン(NFT)として、OpenSeaNFTマーケットプレイス上でオークションにかけると発表しました。NFTの所有者だけが、タランティーノ監督が手掛けた独自のコンテンツにアクセスできるとのことで、非常に大きな注目を集めました。

Secret Networkとは何か

さて、私が非常に気になったのは、これらの発表の中で基盤となっているSecret Network(シークレットネットワーク)という仕組みについてです。シークレットネットワークは、本家ページによるとプライバシーを保護するスマートコントラクトを備えた最初のブロックチェーンであると説明されています。これまでEthereumなどをはじめとするPublicなブロックチェーンでは、すべてのNFTはパブリックに面したメタデータを持っており、コレクターのNFTウォレット内に掲載されている画像や、全てのパラメーターは、NFTの保有有無に関わらず、すべての人に表示されることが一般的です。一方で、Secret Networkを使ったトランザクションは暗号化することによって、NFTの中で、パブリックメタデータとプライベートメタデータを個別に管理することができるようになっているとのこと。

そもそも、ブロックチェーンの仕組みは、元帳の管理が主であるため、仮にブロックチェーン内の実際のコンテンツを何らかの方法でエンコードしたとしても、コンテンツは必然的にブロックチェーンの管理外であるため、別途、デジタル著作権管理(DRM)テクノロジーライクな技術と絡めた検証が急務であるという現状があります。とは言え、DRMの歴史は、1998年のSecure Digital Music Initiative(SDMI)にも遡り、多くの労力にも関わらず、しばしばそのメカニズムはクラッカーによって、これまでも回避され続けてきたという経緯もあります。そういったDRMテクノロジーとクラッカーとの戦いや、そもそも権利を持つ人でもその取り扱いの不自由さから、Appleは過去にiTunesStoreでのコンテンツについてDRMの使用をやめるなどの措置を行ったこともあります。

このように、コンテンツ保護については、DRM化は万能ではないわけです。そういった中で、こういったSecretNetworkのようにトランザクションのメタ情報を暗号化する試みも、権利保護のアプローチとしては非常に興味深いものになっています。

Why A Blockchain-based DRM Has Always Been A Terrible Idea
https://www.techdirt.com/articles/20181019/17490840878/why-blockchain-based-drm-has-always-been-terrible-idea.shtml

IPFSが目指す分散化された世界とコンテンツの秘匿化

データを秘匿化するというテクノロジーがある一方で、データを永続化するという議論があります。例えば、芸術作品など将来の世代に残すことは人類の文化的資産を守る上で極めて重要な取り組みであると言われており、P2Pのストレージ技術は、IPFSやSwarmなど研究が進んでいます。米Protocol Labsが開発したプロトコルであるIPFS(Inter Planetary File System)を使えば、通常使われるHTTPがファイルのロケーションをURLで示すのに対して、IPFSではコンテンツはネットワーク上に分散したストレージにバラバラに保存された“断片”をつなぎ合わせることで復元されます。単一障害点を持たず、コンテンツを復元できる様は、後の世に残すための芸術作品など人類にとって大きなテクノロジーとも言えます。Filecoinでは選ばれた特定の人(現時点で全世界で14人いるとのこと)によって、保存する価値があると認められればデータの永続性が保証されるなど、人類共有のデジタル資産という位置づけの基盤も登場しています。

https://filecoin.io/blog/posts/filecoin-plus-aligning-participants-with-useful-storage/

一方でSoftware Engineer Warns NFTs are Built on a “House of Cards”というように現在の管理方法に対して、疑問を抱く声もあります。Jonty Wareingが実施した調査によると、2つの有名なNFTのブロックチェーンデータを調べ、それらがURLアドレスまたはIPFSハッシュのいずれかで構成されていることをTwitter上で発信しました。本来であれば、分散化されているはずのデータがマーケットプレイスの売り手に依存するような状況をHouse of Cardsと言い換えています。特に現在IPFSのプロトコルはBraveなど一部ブラウザでしか準拠していないことから、IPFS Gatewayと言われるHTTPを経由したデータ取得の必要性があるわけですが、様々な課題があります。(ブロックチェーンのネットワークが全てInfura経由であるのと同じような議論です)

HENの突然死におけるIPFSの重要性

HEN(正式名称 Hic Et Nunc https://www.hicetnunc.xyz/ )はTezosチェーンで最大級の取引量のNFTを発行する人気のマーケットでしたが、11月12日、突然のHENの終了が宣言されました。肝心のNFT自体は、Tezosブロックチェーン上に存在しているため、もちろんNFTが失われたわけではありませんが、多くの人の関心は、IPFSに管理されているファイル群にあります。IPFSはコンテンツを維持するためにpinを保持し続ける必要があるのですが、運営者がいなくなってしまった場合このpinを管理する人がいなくなるため、コンテンツは失われてしまうわけです。そこで、HENの保持する50万点以上のHENのNFTのコンテンツを全てpin留代行することをClubNFTが発表しています。

Some people are running clones of the HEN website to give collectors the ability to adjust their swaps, and other marketplaces already support buying and selling HEN NFTs. Now, with this reassurance regarding the hosting of the NFT media, we are confident the HEN community will not just survive, but continue to thrive.

ここに書かれているように、pin留意外にも、HENはクローンサイト(https://hen.teztools.io/)を運営する人や、売買をサポートするマーケットなど様々な人々の協力によって再びサービスを再開させようとしています。通常の中央集権的なサイトであれば、クローズしてしまった場合は、手の施しようがないわけですが、こう言ったパブリックチェーンで管理されているコンテンツは、協力者の元、息を吹き返すことができるのも非常に魅力的な部分ではないかと思います。

Conclusion

中央集権モデルから、分散化へのモデルの以降は、様々な業界で行われており、映画などのコンテンツ業界も同じであると言えます。かつて、VODの台頭によって、過去には、海賊版との戦いに躍起になっていたコンテンツプロバイダーなど事業者は、昨今のYoutubeや、NETFLIXなどをはじめとするVOD業界の台頭によって、いかにインターネットを使ったプロモーションにつなげるかという方向に舵を切っています。同様にして、今躍進を遂げているNFTによって、デジタルコンテンツそのものも、ユーザーが保有するといったことや、メタバース化という波の中で、どのように整理していくかについては各社の戦略が現れるところではないかと思います。

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