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「美少女戦士セーラームーン」1〜10話レポート

映画『美少女戦士セーラームーン Eternal』の公開を記念して、セーラームーンのアニメシリーズがYouTube公式チャンネルで無料配信されはじめた。

「美少女戦士セーラームーン」(1992〜)
「美少女戦士セーラームーンR」(1993〜)
「美少女戦士セーラームーンS」(1994〜)
の順に、毎週10話ずつ配信されるとのこと。

変わりばえのない自粛生活で、毎週の楽しみができた。
ありがとうセーラームーン…本当にありがとう。

ということで、毎週血眼になってセーラームーンを見ることになった私が、10話ずつ熱い想いをレポートにしたためていく。

私とセーラームーン

セーラームーンのアニメシリーズは1992年3月7日に放送開始し、1997年2月8日にテレビアニメシリーズの放送が終了した。
私は1996年6月8日生まれなので、そう、

物心つく前にセーラームーンは終了している。

もう、おジャ魔女どれみ世代ど真ん中。
では、セーラームーンと入れ違いでこの世に生まれてきた私が、一体いつ彼女と出会ったのか。

それは忘れもしない、昨年秋の台風の日のこと。
(めちゃくちゃ最近…)

2019年の10月、大きな台風が日本列島を襲った。
私は一人暮らしを始めて間もない頃だったので、夜通しで鳴る警報にひとり怯えていた。

そんな時、アマゾンプライムビデオを漁っていてふと目に飛び込んできたのが

劇場版『美少女戦士セーラームーンR』(1993)

劇場版セーラームーンの第1作目である。
監督は「少女革命ウテナ」や「ユリ熊嵐」等でも知られる幾原邦彦監督。

60分で見やすそうだし、気晴らしに見てみるか…と軽い気持ちで再生ボタンを押したが最後、もう、私は、

セーラームーンに取り憑かれてしまった。

セーラームーンが地球を守ってくれた。
ひとりじゃないと言ってくれた。
なんて素晴らしいんだろう…。
セーラームーンを知らなかった今までの人生、一体何だったんだろう…。

結局私はこの作品の虜になるあまり、2019年のうちに5度も鑑賞し、今じゃセーラームーングッズを買い集め、プレミアムバンダイ様様だ。

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この作品の凄いところは、セーラームーンを知らない人でも最初の10分くらいでなんとなくセーラームーンのことが分かるようになっているところ。

長いアニメシリーズを見ようか渋っている人は、ひとまずこの劇場版1作目を見てみたら良いと思う。
(現在FOD、U-NEXT、アマプラ、ネトフリで見放題!)

この作品の詳細についてはまた別の機会に語るとして…(長くなるので)
そんなこんなで、23歳でセーラームーンと出会ってしまった私が、この自粛生活を機にアニメシリーズを1から見ていくことにした。

「美少女戦士セーラームーン」1〜10話あらすじ

「あたし、月野うさぎ。14歳中2。かに座のO型。誕生石は真珠。性格は人よりちょーっとおっちょこちょいで、ちょっと泣き虫ってとこかな。ある時、ヘンテコな黒猫ルナが現れて、セーラー服戦士にしてくれたんだけど、悪いやつらと戦え〜なんて言われちゃって、不安たらたら〜ってカンジ。でもま!なんとかなるか!ははは!」

2話以降の冒頭で主人公うさぎ(セーラームーン)が述べる台詞だが、1〜10話の内容は大体これに要約されている。
普通の女の子が、ある日突然セーラームーンとして戦うことになって、てんやわんやだけど、なんとかやってくか!って話。
かに座のO型ってとこが絶妙だよね。

「あなたは選ばれた戦士なの」

1話で突然現れた黒猫のルナに、うさぎが言われる言葉だ。
戦士の使命は2つ。

①敵を倒すこと。
②仲間と一緒に私たちのプリンセスを探し出すこと。

敵とは?仲間とは?プリンセスとは???
ツッコミどころは多いが、とにかくうさぎは「ムーンプリズムパワーメイクアップ!」と叫び、たちまちセーラー服美少女戦士・セーラームーンに変身する。

「月にかわっておしおきよ!」

この決め台詞、いいよね…改めて。
この地球の平和を本気で願ってるって感じがする。

8話からは第2の戦士セーラーマーキュリー(水野亜美)、10話からは第3の戦士セーラーマーズ(火野レイ)も加わり、物語が始まっていくぞという感じ。
黒猫のルナやタキシード仮面も1話から大活躍。
親友のなるちゃんや、ガリ勉の海野、担任の春菜先生、弟の進悟など、うさぎの日常を取り巻く登場人物たちも賑やかだ。

驚いたのは中2という設定。
すらっとして短いスカート履いてるし、高校生くらいだと思ってた…。

それから、舞台設定。
セーラームーンの舞台はほとんど東京都港区麻布十番に実在するスポットをモデルに設定されている。
麻布十番商店街が出てきたり、氷川神社をもじった火川神社だったり、遊びに行く場所が原宿だったり…
めちゃくちゃシティガール!
ファッションや音楽やラジオの趣味なんかもオシャレで、当時の感覚わからないけど、全国の女の子の憧れを凝縮させたような存在だったんだろうな。

そして何よりも感心してしまったのが、
一瞬たりともかわいくない画が存在しないこと。
ちょっとした風景や物まで、画面がずーーーっとかわいい!
それだけで一生見てられる…。
本当に世界を救うのは、権力でも武力でもなく「かわいさ」なんじゃないかと思えてくる。

メイクアップは乙女の鎧

「ムーンプリズムパワー、メイクアップ!」

月野うさぎがセーラームーンに変身する際の呪文だ。
セーラームーンにおける変身は、メイクアップなのである。

実際、変身によって目元がぱっちりしたり、ネイルが塗られたり、かわいいコスチュームになったり、ティアラをつけたりと、全身にメイクが施されていく。

仮面ライダーのように仮面をまとったり、スーパーサイヤ人のように筋肉が盛り上がったりするわけではなく、あくまでありのままの自分の姿は保ったまま、より美しく輝かしく自分を装飾する。
自分そのものを大きく変える必要はない。
少しの工夫で良いのだ。

メイクアップをしただけで、敵に立ち向かう勇気がみなぎり、普段はできない魔法だってかけられる。
まるで、自分を輝かせることはこの世の荒波を生き抜く術だと、セーラームーンが言っているかのようだ。

確かに、私もやる気が起きない時はネイルを塗ってからPC作業に取り掛かるし、最近浮かないなって時には髪を切って気分転換をする。
ちょっとしたことでも、メイクアップは日常を鮮やかにする。

家庭に、学校に、会社に、そして己の内に、
私たちの生きる世界にも、敵はいたるところに存在する。
そんな敵と立ち向かい前向きに生きるヒントを、ムーンプリズムパワーは教えてくれているのかもしれない。

ムーンパワーと90年代乙女の夢

「ムーンパワー、〇〇になあれ!」

これはセーラームーンが魔法のペンで、なりたいものに変装する際の呪文だ。

「ムーンパワー、美人アナウンサーになあれ!」
「ムーンパワー、かっこいい大人のミュージシャンになあれ!」
「ムーンパワー、かっこいいスチュワーデスさんになあれ!」

1〜10話の変装内容を見るだけでも、90年代の乙女たちがどんな職業を夢見ていたのか想像できる。
「スチュワーデス」という呼び方は死語で、今では「客室乗務員」「キャビンアテンダント」と呼ぶのが通常であるから、ここにも時代を感じる。
もし、今の時代でセーラームーンが変装するならば、「ユーチューバーになあれ!」なんて言うのかもしれない。

ここで注目したいのは、変装するための道具がペンである点だ。
グッズ化しやすいという大人の事情もあるのかもしれないが、女の子が何かになろうとするのに、金でも力でもなくたった1本のペンを使うというところに希望を感じる。

2013年、パキスタンの16歳のマララさんが国連本部のスピーチで述べた「One child, one teacher, one book and one pen can change the world.」にも通ずる、ムーンパワー。
道を切り開くのは1本のペンだ。

おバカな女の子、かしこい男の子。

主人公というのは男女を問わず何かと欠点を持っているものだが、セーラームーンの主人公・月野うさぎはとにかく「おっちょこちょいで泣き虫」の押し出し方がすごい。

テストは赤点、ちょっとしたことで泣き、ちょっとしたことで浮かれ、すぐにこける。
学校では

「ひどーい、か弱い女の子を廊下に立たせるなんて!」

と嘆き、友達からは

「女の子のくせに早弁なんてさ」

と呆れられる。
「か弱い女の子」とか「女の子のくせに」とか、今じゃ中々使われない表現だろうな…。

とにかく何をやってもちょっとおバカなうさぎだが、対して男の子はというと、

「まあテストなんてゲームですよ」

と98点の答案用紙を見せびらかすクラスメイトの海野や、

「もっと勉強しろ、おだんご頭」

とからかう衛(実はタキシード仮面)など、
とにかく賢くてやたらと上から物を言う。

そういう表現がけっこう頻繁にさらっと出てくるから、90年代のジェンダー意識ってそれが普通だったんだろうなと思う。
他にもスカートめくりをされて「お嫁にいけない」と泣いたり、男の子の発言を気にして無理なダイエットをしたり…今ではアウトな描写が出てくる出てくる。

女の子はちょっぴりおバカで能天気、男の子はいつだってスマートで理性的。
それが今や、男の子もプリキュアになれる時代!
週末ヒロインは時代を映す鏡だ。

セーラームーンと家族観

男女雇用機会均等法が制定されたのが1985年。
男女共同参画社会基本法が制定されたのが1999年。
セーラームーンのアニメシリーズが放送開始したのは1992年。
90年代前半のセーラームーンは、まだまだ「男は外、女は内」の世界線を地で行ってる感じだった。

例えば、第2話「おしおきよ!占いハウスは妖魔の館」で、放課後に寄り道をしていたうさぎが買い物帰りのパパと出くわすシーン。

うさぎ「パパ!買い物?」
パパ「ああ、珍しく早く帰ったらママに捕まっちゃってね。」
うさぎ「パパって優しいのね。」
パパ「家のことはママに任せっぱなしだからね。これくらいはしないと。」
うさぎ「きっと、元基お兄さんもパパみたいなんだろうなぁ…」

元基お兄さんとは、パパの経営するゲームセンターでアルバイトをしている青年で、うさぎがお兄さんのように慕っている人物だ。

今の私の感覚でいったら、ちょっと買い物してる姿を見かけたくらいじゃ「パパって優しいのね」なんて思わないし、「家のことはママに任せっぱなし」なんて堂々と言われたら「ちょっとは手伝いなよ」って言いたくなっちゃう。
でも、この時代のうさぎからしたら買い物手伝ってるだけで最高のパパだし、そんなパパみたいな人を夢見るわけだ。

他にも、第3話「謎のねむり病、守れ乙女の恋する心」で、謎の睡眠病が流行っているという記事を読みながら朝食を待っているパパと、そこに朝食を運んでくるママの会話。

パパ「へえ、寝たら起きない睡眠病か。僕もこんなのにかかって、しばらく休みたいなあ。」
ママ「何言ってるんですか!パパにはまだまだ頑張ってもらわないと。」
パパ「じょ、冗談だよ。眠ってたらママの美味しい料理が食べられないじゃないか。」
ママ「パパったらお上手ね、あーん!」

起きてるだけで自動的に美味しい料理が降りてくると思っているパパ。
ママもママで、家計の全責任をパパに預け、自分は当然のごとく下手に出る。
良し悪しとかではなく、これが一般的な家庭の姿として、毎週放映されていたんだな〜と、今見ると思う。

セーラームーン放送終了以降の作品を見てみると、「おジャ魔女どれみ」のあいこちゃんは父子家庭だし、「明日のナージャ」のナージャは孤児院育ち。
プリキュアシリーズに至っては、母親と団地で2人暮らしだったり、共働きで両親が家に不在のことが多かったりと、アニメにおける家庭のあり方も変容している。

タキシード仮面

彼に関しては思うことがたくさんあるが、10話までの段階では謎めいた部分が多すぎるので、引き続き慎重に考察していきたいと思う。

なぜ、月野うさぎは選ばれたのか 〜セーラームーンという不条理〜

「どうして私がこんな目に合わなきゃいけないの!お家に帰る!」
「そんなの困る!だいたいよ、その敵っていうのはなんなのよ!」
「もうこんな生活やだ〜!」

うさぎが嘆くのも無理はない。
普通に日常を送っていたただの中学生が、ある日一方的に「選ばれた戦士だ」と告げられ、得体の知れない悪と戦わなければいけないのだから。
しかも、際どい長さのスカートを着て、時に身を傷つけながら…。

1〜10話の成り行きを見て、セーラー服戦士とは女の子に襲いかかるあらゆる不条理の象徴なのではないかと思えてきた。

敵はあらゆる人間の欲望を利用し、エナジーを奪う。
そこにセーラー服という無防備な格好で、ただ愛と正義を持ってして戦いを挑む。
そんなの怖いに決まってる。

それでも月野うさぎは自分の生まれついた星を受け入れて、

「私は恋する者の味方!正義の味方なのです!」

と明るく言い放ち、次々と妖魔を倒す。
セーラームーン・月野うさぎという存在そのものが、女の子が不条理に立ち向かい戦い抜くためのエールだ。

第8話「天才少女は妖魔なの?恐怖の洗脳塾」では、天才少女を利用しようとする悪に向かって、セーラームンはこう言う。

「天才は、世界の平和に役立ってこそ価値がある!」

これなんて、2019年に上野千鶴子さんが東京大学入学式の祝辞で述べた内容とほとんど同じではないか。
なんて中学生だ。

それではなぜ、月野うさぎという普通の中学生が、突然セーラー服戦士に選ばれたのか。
それはきっと、月野うさぎがたまたまそこにいて、たまたま女の子だったからということに尽きるのだと思う。
不条理とはそういうものだ。

たまたま寝坊した日の通学路で、たまたま黒猫のルナと出会い、たまたま関わりを持ってしまった。
もし、ルナと出会ったのが別の女の子だったら、その子がセーラームーンになっていたにちがいない。

私たちにも、いつどんな不条理が襲いかかるかわからない。
現に、新型コロナウイルスは世界中の人を思わぬタイミングで、思わぬ混乱に陥れている。
私たちは今ひとりひとりが、選ばれてしまったセーラー服戦士なのかもしれない。
何を持って戦うべきかは、きっとセーラームーンが教えてくれる。

「月の光は、愛のメッセージ」

そう囁いて、セーラームーンは次週も私を励まし前向きにしてくれるだろう。
今夜も月は高く昇り、変わらず街を照らしている。

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