【連載第2回 みんなの公園】横浜公園をつくったお雇い外国人

居留地が外国文化を吸収

 東洋経済オンラインに寄稿した“野球と役所の街、「関内」駅が直面する転換点”では、横浜・関内駅が発展する前段階として、ベースボールの接点を描いた。

 関内駅の”関内”とは、江戸期から開拓された吉田新田開港場とを区切る関門の内側を意味する。

 その関門内には、外国人の居住エリア「居留地」も造成された。もともと、埋立地だった関内には遊郭がつくられていた。

 現代でも言えることだが、性風俗を生業とする店が並ぶのは地域住民にとって好ましいことではないらしい。遊郭は地域経済に大きな貢献するが、その一方で住民からは忌避された。そのため、無人の埋立地に開設される。

 しかし、幕末に横浜が開港地に選ばれると、関内の埋立地は一変。大火で遊郭などが焼失したこともあり、ここを居留地にあてることにした。

 大火後の再建計画を任されたのは、スコットランドから来日していたお雇い外国人のリチャード・ヘンリー・ブラントンだった。

 ブラントンは、遊郭を含む埋立地一帯を公園として整備した。日本で、制度上、はっきりと公園整備が打ち出されたのは、1873年。

 明治新政府の太政官布達によって、東京に五大公園が出現する。江戸時代まで、土地に関しては私有という概念はなかった。つまり、公有という概念もなかった。すべての土地が公有であることが当たり前だったからだ。

 ゆえに、明治新政府はに寺社の境内を公園に転換して、オープンスペースとする。1873年に日本初の公園として誕生したのは、上野公園浅草公園芝公園深川公園飛鳥山公園の5つ。

 江戸期に花見の行楽地として整備された飛鳥山を除く4つの公園は、すべて寺社の境内を転換したものだった。

ゼロからつくられた横浜の公園

 ブラントンの公園整備計画は、そうした明治新政府の寺社境内の転換とは違う形で進められた。ゼロから公園をつくったという意味では画期的な計画だった。

 他方、当時の日本人にしてみれば、「公園とは何ぞや?」といった疑問が沸いたに違いない。

 人々が集まる、憩うためにつくられる空間として誰もが集まれる場所。身分社会だった江戸時代、身分の違いを超えて人々が集まるということは想像できない話だった。

 実際には、下級武士や農民・商人といった町人たちとの交流はあった。しかし、公の場で語り合う、憩うといった交流はあり得ない。

 ブラントンの公園計画は斬新だった。それは、異文化が流入してくる最先端の国際都市・横浜ゆえに可能だったのかもしれない。

 ブラントンが設計図を描いた公園は、彼我公園と名づけられる。スコットランド出身のブラントンは野球に馴染みがなく、今の横浜公園のように野球場をつくることは想定していなかった。

横浜公園内にあるブラントンの胸像

下水道の整備計画で、新技術を導入。横浜発展の礎に

 また、ブラントンは公園プランナーではなく、下水道に造詣の深い都市計画家だった。そのため、遊郭焼失後の再建計画では公園づくりに力を入れたというよりも、力点は関内の下水道整備にあった。

 ブラントンの関内整備計画とは別に、明治初年頃から横浜では道路下の有効活用を模索する動きが出てきていた。1872年には、ガス会社がガス管を埋設。ガス管の埋設後、相次いで水道管下水道管が埋設されている。

 その後も、横浜の中心地区では道路下の地下空間を有効活用する機運が強くなる。都市を支える重要なインフラの埋設計画が次々と立てられていった。

 しかし、地下空間を有効活用するのには障壁があった。当時の道路は舗装技術が未発達だったため、強い雨が降ると道路はすぐに冠水してしまう。


 ほかの河川から水が溢れてしまうこともある。水害は道路インフラを容赦なく損壊した。地下空間を有効活用するには、水害を防止するしかない。未然に水害を防ぐ手段として、排水管・下水管を強化することが求められた。

 もちろん、排水管・下水管の整備は水害を大きく軽減する効果を発揮する。しかし、ブラントンは排水管・下水管の整備だけではなく、水害対策として道路舗装に着目した。

 ブラントンは雨を地中に通しにくく、水はけもよいマカダム舗装と呼ばれる最新鋭の工法を採用。マカダム舗装によって道路整備を進めることで地下空間の有効活用を実現させる。

 関内の整備計画は順調に進められる一方、横浜・関内からスコットランド人が引っ越ししていた。スコットランド人に替わり、新たに関内に引っ越ししてきた多くはアメリカ人だった。

 関内の再建計画が完了する頃、彼我公園ではベースボールを楽しむ外国人が目立つようになっていた。こうした背景から、横浜では野球が盛んになっていく。

 

 

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