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OJT担当

 私は、キャバクラで怒らないことにしている。灰皿が吸い殻でいっぱいになっても、グラスの酒が無くなっても、水割りをこぼされても、ほとんどのことでは怒らない。新人の子が気が付かないのは、ある意味当たり前だと思っているし、ある程度キャリアのある子でこういった基本動作ができない子は、怒ってみたところで直らないし、そういう子なら指名や場内をしないだけだ。
 キャバクラで飲むにあたって、キャストに場を作らせるというのは難しいものである。初めて客や多少癖のある客相手でも、場を作れるキャストというのは少ない。逆に言えばそういう子は、大概ナンバークラスである。新人やキャリアの浅いキャストは、初めての客やヘルプの客などに対し、場を作るのでなく場をつなぐために、どうしても通り一遍の「質問」から入らざるを得ない。
「今日は、ここで何軒目ですか?」
「晩ご飯、何、食べました?」
みたいな質問から入る。「とにかく何か話さなければ」という気持ちだけ先行しているせいだ。たまにキャラクターだけで引っ張れる子もいるが、こういった子は、大概売れっ子になっている。
 私は、初めての店や指名がいない店、またはヘルプがついたときは、自分で場を作るようにしている。自虐ギャグをいくつも重ね、笑わせて場を作る。これは「みんなに喜んでもらう」などという奉仕の精神でなく、計算なのだ。こうやって「安吾さんのテーブルはおもしろい」と思ってもらえれば、私のテーブルに付くことが「楽しい」とまでいかなくても、イヤではなくなる。そうすると、そういう豊かな気持ちで接客してもらえ、その余裕からキャストが自分で場を作れるので、結果的に私も楽しく過ごせるのだ。
 こういった「おこらない安吾さん」「おもしろい安吾さん」という情報が男子スタッフに浸透している店では、私はOJT担当となる。つまり、お水デビューの子やキャリアの浅い子の入店初日などにラッキーされるのである。「安吾さんにつけときゃ、とりあえずよかろう」というラッキーの計算である。私としてもそこまで見込まれれば、一肌脱がなくてはと思ってしまい(相変わらず、お調子者だ)、「お水って、こんなにおもしろいんだよ」という話と自虐ギャグで、緊張を解くようにしてる。場合によっては、「水割りを作り方」「火の付け方」「名刺の渡し方」までその場で教える(担当か、私は)。
 顔がこわばってたお水デビューの子が、私のテーブルについて15分かそこらで、笑顔で抜かれていくのをみると「いい仕事した」とつい自己陶酔してしまう(ほんと、アホだね)。
 その代わりといってはなんだが、実はこれも計算なのだ。こうやって男子スタッフに貸しを作ることで、多少の悪さは目をつぶってもらうようにしている(なんの悪さだ。当然、店外でのあれしかないのだが)。
 肝心の指名嬢に対してだが、これも基本は私が場を作るようにしている。指名嬢のタイプにもよるが、私は飲みに来てテンションあがっているが、仕事している指名嬢は、必ずしもギアが直ぐ入るとは限らない。そこで、私が地均しをするのだ。これも当然、私が楽しく飲みたいがための行動である。指名嬢に対しては、「店内で寝る」など甘えているところもあるので、最初ぐらいは、私ががんばりたい。

 こうやって書いてみると、私は計算高くて、イヤなヤツだなぁ、、、、、

※ 2006年1月記述

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