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書籍「Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生」読了


◎タイトル:Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生
◎著者:スベン・カールソン、ヨーナス・レイヨンフーフブッド、池上明子(訳)
◎出版社:ダイヤモンド社


Spotify創業から上場までの物語。スウェーデンのイチ企業が、どうやってこの巨大帝国を築いたか?
その類まれな才能を持っていたのが、創業CEOのダニエル・エク氏。
子供の頃からのエピソードを見ると、まさに天才。
若きダニエルのアイディアを聞き、その才能を見抜き、彼に一発張ろうとしたもう一人の天才が、マルティ・ロレンツォン。
この2人が共同CEOであるが、物語は基本的にダニエル・エクを中心に動いていく。
AIベンチャーの成功物語にしては、泥臭い人間ドラマの部分が感じられなかった。
作者がその辺をあまり描こうとしなかっただけなのかもしれない。
ダニエルは、若い時期に鬱になったり、金持ちになって散財したりとあったらしいが、本書で記載されているのは、その辺りはほんのわずか。
物語は、ダニエルがすでに全力を注いでSpotifyを創業するところから始まる。
マイナスだった部分をどう乗り越えて、Spotifyに向き合ったのか?
それらが詳細に書かれていない点が、実は少々物足りなく感じてしまった。
レコード会社との交渉の難しさや、Apple側の嫌がらせも本書には書かれているが、意外にもスルっとそれらの壁を乗り越えていく。
実はもっとドラマチックなエピソードがありそうなものだが、それらは明かせない秘密だったのかもしれない。
如何に困難を乗り越えていくのか。
どういう仲間たちと困難を克服していくのか。
もしくは何を間違って、仲間との確執を作ってしまったのか。
そういう部分をもっと描いてほしかったと思う点だ。
もっと濃密な人間物語を期待していたら、案外と社史のように淡泊な内容だった。
淡々と事実が述べられていて、それらを乗り越えて今があるという、ものすごく単純な物語。
おそらく小説の切り口がそうなってしまったからだが、それでも本書で勉強になるのは、株式を使っての会社拡大の方法についてだ。
資金は必要だが、ロシアマネーを入れるべきなのか?
Facebookとの提携は、どういう駆け引きと目算で進んだのか?
レコード会社との契約も、株式の持合いになったりしたが、ここもどういう戦略だったのか?
その辺のビジネス部分については、意外にも詳細な情報が書かれていた。
これは著者の取材力の賜物だと思う。
Spotifyについては、画期的なテクノロジーや、ビジネスモデルの発想も確かにあるのだと思うが、意外とそれらも細かく語られていない。
画期的なプレイリストの発明がSpotifyの収益を支えたという点はサラッと記載されている。
ダニエルが肝入りでスタートさせたSpotify TVについても、「失敗して終わり」というぐらいアッサリとしか書かれていない。
サブスクモデルの勝利の方程式は、とにかく拡大路線を敷いて市場でトップに立つことだ。
そのため、利益よりも規模拡大という戦略ゆえに、常に資金難になっていた。
増資と融資の連続でこの危機を乗り越え拡大を続けていく。
会社が行き詰りそうになりながらも、そこはダニエルの行動力なのだろうか、運もあるのか。
読んでいても、ダニエルのサイコパスぶりは感じられる。
これでは部下も働くのが大変だっただろう。
それでも「この会社が世界を変えるかもしれない」という夢を持って、仕事に臨む姿勢はある意味で羨ましくも感じてしまう。
「働け働け働け!」とは、ダニエルの口癖だそうだ。
今風に言えば、まさにブラック企業と言える。
しかし、成長を目指すベンチャー企業なんてこんなものだろう。
Spotifyのビジネスモデルはシンプルだ。
音楽業界を救っているような部分もあるが、既存のマーケットを破壊した部分もある。
結局AppleがCD市場からiTunesで音楽業界をほぼ寡占したように、次はSpotifyがその座を狙っているということだ。
巨大企業Appleの資本を持ってすれば、新興のSpotifyを駆逐できたはずであるが、そこはCEOダニエルの力なのだろう。
技術だけがズバ抜けていたとは到底思えない。(もちろん技術力を持っている前提だが)
ここは交渉力や、マーケティングの妙なのか?
結局会社を大きくしていくためには、株式の知識も必要であるし、会社運営について熟知しておく必要がある。
サラリーマン経営者は会社運営のことを詳しく知らなかったりするから、そこは見習うべきところだろう。
ダニエルは本書を読むと元々技術者としても天才であったが、ビジネスの世界でも天才だったという訳だ。
そういう点では、海外にはそういう輩がなぜか生まれてくる。
圧倒的にアメリカ発だが、こうしてスウェーデンからも輩出されているのだから、日本でも「天才プログラマーであり天才起業家」という人が出てきてもよさそうだ。
(ホリエモンやひろゆき氏はそれに該当するかも)
これだけ世の中に起業の物語がありながら、一つとして同じ会社はない。
それぞれ真似できそうな部分もあるが、結局は自分の会社を運営するのは社長一人だけなのである。
危機をどう乗り越えて成長したのかは参考になるから、その辺を読み解くか。
「自室アパートの押し入れに押し込んだサーバーが熱を発し、うだる中で仕事をした」
そんな所からスタートできるベンチャーCEOは本当にスゴイと思う。
会社が大きく成長し、上場し株価が何兆円企業になってしまうことよりも、そんな未来を信じて身一つで飛び込む勇気こそが必要なのだろう。
今の日本人にそれが出来るだろうか?
ここまで満たされつつも、停滞した日本の中で、挑戦者は生まれるのだろうか?
それでは自分は挑戦者になれるのか?
やはり本書を読みながら、そんなことを感じたのだ。
(2023/4/23)


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