マルクス・ガブリエルが説く倫理資本主義
私たちは開発速度があまりに速すぎたため、人間同士の競争で地球を破壊しました。2020年に起きたことは、自然が私たちに“今のようなことを続けるな“と、最後の呼びかけをしていたのかもしれません。私たちはみな、そのお告げを聞いています。
◆提唱する“倫理資本主義”
#マルクスガブリエル 教授は経済を再構築する必要があるとしており、その経済再構築の軸となるのは彼が提唱する“ #倫理資本主義 ”です。
「たとえば今、非常に裕福な人たちがコロナ危機に乗じて稼いでいる。彼ら次第ではありますが、得た利益をパンデミックで最も苦しんでいる子どもたちや、恵まれない国の人々に分け与えるべきです。
大勢の幸せを優先することは経済成長を緩やかにしますが、今とは違った方法でお金を稼ぐことができます。ガブリエル氏はこれを“倫理資本主義”と呼び、ポストパンデミックの産物になり得ると考えています。
「富とは単にお金を稼ぐことではなく、善いことをする可能性だと考えるべきです。たとえば、ある程度稼げば人はお金持ちになりますよね。そうなった場合、自分が持つ資源、権力、お金、人脈を投資に回すべきです。
最初は近隣住民、次は自国、次は州、さらに大きな地域へ。理想は、豊かではない他の地域や国への投資です。富とは、富を共有する可能性であり、他者のために善いことをする可能性であります。増えた富を倫理観に基づき再分配することを、ゴールとして設定するべきです。それが完璧なインフラなのです。
仮にビル・ゲイツがペルーの学校のインフラ整備に3億ユーロを出資したとします。この出資でどれだけ多くの素晴らしいトイレが整備されるかを想像してみてください。3億ユーロで、ペルーの学校の衛生状態を変えることができる。これが真の慈善活動であり、将来のモデルになると思います。もし10億ドルを私にくれたら、喜んでその半分の5億を受け取って、残りをラテンアメリカの3国のトイレ修理に出資します。それでもまだ私は大金持ちでしょう?」
「たとえば日本ではいまだに受け入れがたいジェンダー問題がありますし、ドイツでも日本とは違ったかたちで問題が存在します。そこで日本はジェンダーに関してドイツから学び、ドイツは日本から健康的で持続可能な食について学ぶことができる。このように日本がドイツより優れている業種もあれば、ドイツのほうが優れている業種もあります。道徳的観点から両国の長所と短所を比較すれば共に発展できます。もし経済的剰余価値(※労働者の労働賃金を超えて生み出される価値)をこの活動と結び付ければ、道徳的に優れた完璧な制度の構築が可能になる。それが倫理的資本主義なのです」
◆持続可能か否かは「倫理的に善い行いをするかどうかで決まる」
今日では、世界で #ESG投資 (環境、社会、ガバナンスの観点を含めた投資活動)に投じられる金額は3000兆円を超えるといわれています。また #SDGs へ取り組む企業の数も増加傾向にあります。これらの動きについて、ガブリエル教授はどのように見ているのでしょうか。
倫理資本主義という考え方は、思想主義を提唱した偉大な哲学者である #エマニュエル・カント に由来しています。カントは“司法制度の機能は道徳的構造によって推進されるべきだ”と論じている。彼によると、たとえ悪魔であっても法律さえ守っていればいい。同じように企業がSDGsに従って利益を得ているのなら、SDGsに従わない企業よりはるかに善いと思います
倫理的な価値と経済的な価値の両立は可能なのか。この問いに対して、ガブリエル教授は「もちろん可能であり、それがサステナビリティのかたちです」と断言しています。
「10年後の世界において、フェイスブックはまったく重要視されないと予想していますが、もし同社が今後、自由や人道の解放に貢献するなら持続可能な企業になるでしょう。10年スパンの短期的な急成長ではなく、数十年生き残る会社を目指すなら、確実に持続可能性が必要です。そして持続可能か否かは、倫理的に善い行いをするかどうかで決まる。倫理的に善い行いが結果的に利益を生み出すことを理解する必要があるでしょう。その持続可能性を見極めるためには、会社の中に倫理チームが必要です。私は、倫理学者は税理士のようなものだと考えています。どの会社にも税理士がいるのに、倫理学者や哲学者がいないのは完全に間違いだと思います」
◆今こそ、民主主義は知識を共有しなければならない
政府と国民が互いに説明責任を果たすことこそが、民主主義の根幹です。しかし、ガブリエル教授は著書で、世界はそれとは真逆の方向に進んでいっていると指摘しています。
「普遍的な倫理に基づいて行動するために人類はもっと連携すべきですが、残念ながら現在、人類は連携が不十分で多くの分断が生まれています」「WHOがパンデミック宣言を行った1ヶ月後の国連安全保障理事会では、アメリカと中国が対立しました」(『つながり過ぎた世界の先に』(著:マルクス・ガブリエル インタビュー・編:大野和基 訳:髙田亜樹 PHP研究所))
◆コロナをきっかけとした新しい波「倫理や哲学が勝つ」
コロナ禍で混沌とする世界で、マルクス・ガブリエル教授が見る未来とは――。
「私は啓蒙思想、つまり倫理や哲学が勝つと思っています。私たちは近代化の新時代に入ったばかりです。コロナをきっかけとした近代化の新しい波です。倫理は私たちに、人間らしくいなさいと求めています。たとえば、子どもが溺れていたら救わなければなりません。その子どもがアフリカやインド、アルゼンチン出身かどうかは関係ありません。この感受性を育てれば、他者が何を必要としているのかが理解できる。日本レベルの心を読む術が必要になるかもしれませんが(笑)。でも、そうすることで私たちはより敏感になり、より親切になる。より感謝して、近代社会で健康に生きる私たちが、恵まれていない人々を助けることができることにも感謝できるようになります」
しかし現実には、毎日を生き抜くだけで精一杯である人々も少なくありません。倫理や哲学よりも、目の前のお金が大切だと考える人に対して、どのように語りかけるべきなのでしょうか。
「彼らが怠けているから貧困であるのではなく、原因は制度にあります。彼らは、単に悪いことが起こり貧困に苦しんでいる人たちであって、制度的な貧困層なのです。つまり、私たちは単にラッキーだっただけです。私は20世紀にドイツ人家族のもとで生まれて幸運でした。そして私たちはその幸運に恵まれなかった人に借りがあると理解すべきでしょう。彼らが幸せになるための環境を、私たちは提供すべきです。同時に、彼らも私たちを助ける必要があります。つまり一緒に達成するのです。極度な貧困層にいる人々も潜在的な友人です。これが道徳的思考なのです」
最後に、若い世代に向けて伝えたいことが興味深いです。
「若い世代には“会社や家族、民主的なリーダーに、善いことをするように”と頼んでほしいです。若い世代の人たちと話すとき、私は必ず“投票権を得るべきだ”と伝えます。そもそも子どもに投票権がないのは人道的な恥だと考えているのです。これは女性を選挙から排除するようなもので、私たちは子どもたちを選挙から排除しています。
これがとんでもないことだということに気づいていません。まず若い世代は政治に参加させてくれとお願いし、自分たちの洞察力によって政治を選ぶべきです。実際、若い世代のおかげで、環境意識が高まってきました。若者は将来のために戦わないと、未来の多くが失われます。そして私たちも若い世代に感謝しなければいけない。世代を超えた平和を実現するためには、若者が声を上げて大人たちに善い行いをするよう訴えなければなりません。そして権力者に若者の善行、関心事、そして洞察力を抑圧させてはいけないのです」
最後までご覧いただきありがとうございます。皆様からいただいたサポートは今後のエコ活動に役立てさせていただきます。