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このオナニー野郎

欲しいものはほとんど手に入った。仕事は全て順調だったし女の子にもモテた。高額機材も一括で買えたし会いたいと言ってくれる女の子との食事でカレンダーは埋まっていた。イケメンでは無いけれど平均値並ではあり高身長の筋肉質な体つき、教養だってそこそこあった。

だけど今思うと別に楽しくはなくて、本当に満たされていたとは思えなかった。

そんな自分とお別れしたきっかけは一人の女性だった。






お前つまんねーな



目の前の女性から発せられた言葉に頭の中が真っ白になった。


どこで間違えたのだろう。女の子が喜びそうなオシャレなお店を選んだし、話題だっていつもウケる鉄板の会話デッキだった。女子ウケのいい香水に自信溢れる堂々とした所作、最適な答えを選択し続けたはずだった。


固まる私を前に彼女は続けた。


お前のはオナニーなんだよ。店も会話も全部そう、私を楽しませたいじゃなくてセンスある自分ってのを見せつけたいだけ。それでチヤホヤしてくれんのはバカかお前を利用したい奴だけだからな。


何も反論できない私に彼女は続ける


好きでもない流行りの音楽聞いてファッションで紅茶とかコーヒーとか囓って、SNSに載せるためだけに興味の無いカフェに行く、そんなんだろ。


全くもってその通りだった。顔から火が出そうになった。


それ楽しい?楽しいんなら別にいいけど。
そんなわけで、私はガッツリしたもの食べ直したいわけなんだけど、どうする?ラーメンでも食いたいな


「この辺に壱角家っていうラーメン屋があって!家系ラーメンっていうジャンク的な美味さなんですけど!ベタですけど食べごたえもあってライスもすごく合うスープで!……あっ、すみません」


「いいじゃん、それでいいんだよ」


今思うと多分、彼女はラーメン屋に行きたかったわけではないんだと思う。慈悲深い彼女なりの優しさだったのだろう。

おどけるように笑う彼女を見て、私はたしかに赦された気がした。そうか、これでいいのか。
ラーメンの味は分からなかったけど多分いつもより美味しかったと思う。


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