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心の島 小笠原(2)呆れるほど夕日を見た

2009年から2010年、1年と4ヶ月ぐらい母島に住民票を移して住んでいた。
取材し続けていても1年通さないと島のことがよくわからないと思って、当時、運良く小金があったので、思い切って移り住んでみた。
名目は取材だったけど、立場としてはプータロー。無職。自由。
この日々で定期的にやったことといえば、日没の時間を調べて、それに合わせて出かけて写真を撮ることだった。
電動アシスト自転車で、2ヶ所ある夕日の名所のどっちかへ行って、一眼レフで写真を撮っていた。
そんなに夕日が好きだったのかと言うと、まあ、そうだったけれど、これはなんというか、自分に課していたルーティンだったのだ。
時間が決まっている自然のイベントに合わせて逆算して自転車でたどり着く時間を計算して出かける。美しい海とそこに沈む夕日を見る。
移住して最初の頃は全く何もしていなかったので、これが唯一の仕事のようなものだったのかもしれない。
毎日見ていても毎日違う夕日が沈んでいった。
1回だけだが、グリーンフラッシュも見た。
夕日をバックにザトウクジラがジャンプするのも見た。
その度に、テンションを上げながら写真を撮ったけど、私が撮った写真なんて、まあ、大した写真じゃない。でもどんなに腕があっても、本物には敵わない。
無限に近いほど手元にある夕日の写真を見返すと、島にいたときの空気はリアルに感じられる。
思い出すのは、とても楽しかったことよりも、どちらかというと孤独感とか不安とかの方だ。なんでかわからないけど。

2020年に公開された豊田利晃監督の「PLANETIST」をプレ上映会で見た。小笠原が舞台の、素晴らしい映画。物語の合間合間に夕日の映像がたっぷりすぎるほど差し込まれていて、島にいたときのことを思い出した。映画は知り合いが主演だったし、ガイドブックとか旅番組とかでは伝えられない、昔から通底している小笠原のヒッピーカルチャーのような空気がリアルに切り取られていて、とても良かった。小笠原の昔から変わらない一面をしっかり捉えていたけど、夕日の映像は、やっぱり本物には敵わないなと、生意気なことを考えながら見ていた。
そして、夕日の映像が始まると、懐かしさと、自分も見たわ〜、ほんと毎日……という気持ちで、その間はすやすや眠っていたのだった。

※保存した写真が外付けHDDの不具合で取り出せず、わずかにクラウドにあげてあった写真を何点か載せてみた。HDDが開けられたら、このページにうんざりするほど夕日の写真を追加したいと思う。

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