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イヤートレーニング

前回記事ではイヤトレの効果についてご紹介しましたが、今回は、実際にイヤトレを行う方法を書いていきたいと思います。

「耳コピをしたい」「うまくソロを取れるようになりたい」など、イヤトレに興味を持っている方は多いと思いますが、市販の教材を使ってトレーニングを行なっても、自力で音感を身につけることは難しいのが現実です。

教本やネット記事、YouTubeのレッスン動画でも、イヤトレ関連の教材は簡単に手に入りますが、実際に効果を実感できた、という方は少ないのではないでしょうか?
どの教材も一定の効果は期待できるのに、自力で取り組んでもなかなか効果を実感できない原因は、イヤトレを「継続する」ことの難しさにあります。

教材に書かれた練習法を実践して、何かハッとするような発見があったとしても、そこからメニューを組んで練習を継続し、実際に音感を身につけていく事はまた別のプロセスです。
特に未経験者にとっては取っ付きにくい印象を持たれるイヤトレですが、練習内容が難解でハードルが高いのではなく、練習を「継続する」ことが難しいのです。


・短期集中トレーニングで音感は身につかない

イヤトレは短期間で集中的に取り組んでも、すぐ効果が実感できるものではありません。
たとえば一日数時間のイヤトレに一ヶ月間取り組んだとしても、大きな効果は得られず、途中で挫折してしまう可能性が高いです。読譜をして、ソルフェージュや聴音を繰り返す事で、時間をかけてじっくりと音感を鍛える事が必要となります。

・イヤトレの特殊性

イヤトレの練習内容は決して難しくありません。しかし、イヤトレを継続するためには、2つの大きな壁を越えなくてはなりません。

ひとつめの壁は、その内容の〈地味さ〉です。
曲の練習、アドリブの練習のように演奏の実感がある練習に比べて、運指練習やメトロノームを使ったストローク練習は、単調で地味な内容になりがちです。

イヤトレも同じように、ドレミを歌ったり、聴こえた音を譜面に書き取ったり、どうしても単調で地味な内容になるため、上達している実感が得づらく、続けるためにはかなりの根気が必要です。

そして、最大の壁となるのが〈練習の目的と内容のずれ〉です。

イヤトレでは「楽器演奏の上達」という目的に対して、「楽器を持たない練習」を行う必要があります。

たとえば運指練習やメトロノームを使ったストローク練習は、実際に楽器を手にとって練習するので、「楽器演奏の上達」という目的と「楽器を弾く」という手段が分かりやすく一致しています。

そのため、内容が地味でも、練習を継続するモチベーションが保ちやすいのです。

しかし、イヤトレの場合はソルフェージュや聴音など「楽器を持たずに行う練習」が続きます。
その結果、練習の目的と手段にずれが生まれるため、通常の基礎練習などに比べて、モチベーションを保つのが難しいのです。

イヤトレは最終的には楽器の演奏能力を大きくレベルアップさせるものですが、音感を習得するためには、かなりの根気が必要です。

では、イヤトレを自力で継続して、確実に音感を身につけるためには何が必要なのでしょうか?

必要なのは高いモチベーションを保つ事でも、特別な才能でもありません。

音感を身につけるために最も重要なのは、モチベーションに頼らずにイヤトレを〈習慣化〉することです。

皆さんは〈習慣〉という言葉を聞いて、どのようなイメージを持ちますか?

「つらそう」「時間がかかりそう」「我慢が必要」「いやいや強制されるもの」といった、ネガティブなイメージを持つ方も多いと思います。

しかし、いくつかのポイントを抑えれば〈習慣〉は「楽に」「無理なく」続けることができ、大きな効果を発揮するものとなります。

短期集中では効果が実感できず、じっくりと時間をかける必要があるイヤトレは〈習慣化〉する事と非常に相性が良いです。

はじめは一日10秒で構いません。自分の生活に合ったメニューを組んで、イヤトレを〈習慣化〉する事で、音感は着実に向上していきます。
小さな枠として練習時間を確保しておけば、たとえば仕事を始める前に、楽器の練習の合間に、無理なく練習を重ねていくことができます。

新しい習慣は定着させるまでが大変ですが、いちど軌道に乗せてしまえば、あとは力をかけなくても、生活の中でスムーズに回り始めます。
前述したとおり、通常の基礎練に比べてイヤトレは少し特殊な練習であるため、自力で練習の取っ掛かりを見つけるのはなかなか難しいと思います。

しかし、いくつかのポイントを抑えれば、誰でも無理なくイヤトレを〈習慣化〉することができます。

その中で、もっとも重要なものの1つが「練習メニューの作成」です。

必要なのは、努力と根気が求められる「即効性のある練習メニュー」ではなく、無理なく日常生活へ取り入れることができる「イヤトレを続けるための練習メニュー」です。

イヤトレをしっかり継続することさえできれば、音感は必ず身につきます。

「イヤトレを続けるための練習メニュー」を作ることで、誰でもイヤトレを継続することができます。

この記事の後半では、上記の「練習メニューの作成」を含めた、イヤトレを確実に習慣化するためのポイントを具体的に解説していきます。
個人差はありますが、数ヶ月〜半年ほどイヤトレの習慣を継続すれば、曲のキーがすぐに判別できたり、耳コピができるようになったり、曲中のメロディを直感したり、様々な効果を実感できます。

・イヤトレの内容について

それでは、イヤトレの内容をご紹介していこうと思います。

トレーニングでは主に〈ソルフェージュ〉と〈聴音〉を行います。

・ソルフェージュ

ソルフェージュとは、譜面を読んで、それを声に出して歌うことで、自分の中へドレミの感覚をインプットしていくトレーニングです。

音程とドレミを結びつけることで、音感の基礎を作っていきます。

・聴音

課題音源のメロディやコードを聴き、譜面へ書き取るトレーニングです。

たとえば文字を書いて言葉を覚えるように、自分で譜面を書く事で、音程やリズムを自然に理解することができます。

〈ソルフェージュ〉と〈聴音〉はどちらもクラシックの音楽教育の伝統的な練習法であり、音感を習得するために確実な効果が期待できます。

ポップスを前提としたイヤトレ教材は、どうしても内容にばらつきがありますが、クラシックの音楽教育は長い歴史の中でしっかりと体系化されているため、それだけに教材としての信頼性も高いです。

音感を磨くためには、譜面を読んで音を出すこと、音を譜面に書き取ること、双方向のはたらきが重要となりますが、〈聴音〉にはサポートが必要な場合が多いため、この記事では〈ソルフェージュ〉を中心に扱います。

イヤトレにおいて、何より重要なのが〈ソルフェージュ〉です。

ドレミを使って音をインプットする〈ソルフェージュ〉を行うだけでも、音感の基礎を習得し、演奏や作曲の強力な武器とすることができます。

・テキストについて

子供のためのソルフェージュ1a(音楽之友社)
www.amazon.co.jp/dp/4276503019

子供のためのソルフェージュ1a(音楽之友社)をテキストとして使います。

クラシック教育の中で、すでに60年以上にわたって使用されてきた非常に完成度の高いテキストです。

子供のための、と聞くと「本当に効果があるの?」と思う方も多いと思いますが、この一冊に取り組むだけで十分な効果があります。

ギタリストにとって必要なレベルの音感は、クラシック教育における初歩の教材でその大部分をカバーできます。実際、このテキストの終盤に書かれた譜面をすらすらと歌うことができるギタリストは、ごく少数であると思います。

ギタリストにとってそれだけ「音感」は盲点となりやすい能力です。

「音感」を習得する事でl、曲やフレーズを覚えるのが格段に早くなったり、頭に浮かんだアイデアをすぐに形にすることができるようになったり、これまで体験したことのない大きなメリットを得ることができます。

・独学のために必要なこと

「子供のためのソルフェージュ」は非常に優れた教材ですが、独学で進める場合、効果を実感する前に挫折してしまう方が多いです。

それは、自分の中にドレミがインプットされていない状態で譜面を歌っても、音の「正解」が分からないためです。

正しくドレミをインプットすることも含めて、独学で〈ソルフェージュ〉を行うためには、いくつかのポイントを抑える必要があります。苦手意識を持っている方も、この記事の後半で解説するポイントを抑えることで、効果的にイヤトレを行うことができます。

そして、何より難しいのは、単調で地味になりがちなイヤトレを毎日、無理なく継続することです。

以下のパートで、ソルフェージュを効果的に行うためのポイント、そしてイヤトレを「習慣化」するための具体的な方法を解説していきます。

一日わずかな時間で行えるメソッドを活用して、イヤトレを生活の中で無理なく習慣化し、演奏や作曲の強力な武器となる音感をぜひ習得してください。

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