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ゴールデンカムイ 尾形百之助は罪悪感を感じない…のか?

(ネタバレです。最新刊まで一周読んだ方向けです。絵はトレス)

Twitterなどで尾形について書かれているのを見ると

・尾形は罪悪感を感じていない
・尾形に罪悪感を感じたがっているが元々持って無いから感じられない
・尾形はサイコパスだ

などと言われています。

私も初めて読んだ時は何がなんだか分からなくて、「何考えてるんだ!悪辣な事をする酷い人間だ」と感じました。しかし、何周か読むうちに全く違う情景が見えてきました。

「尾形は罪悪感を感じていない」

本当にそうなのか少し検討してみましょう。

真性サイコパスは思い悩まない

私個人としては尾形に罪悪感があるか否かについては、もはや議論の余地は無いと思っていまして

・道理とか言い訳ばかり考えてる
・罪悪感の象徴である勇作を夢に見て、しまいに幻影まで背負ってる
・無いならあんなにこだわらねぇよ(尾形風)

尾形は無表情(虚無顔)でどんどん人をあやめていくので、一見サイコパスのように見えます。しかも母親の死に関してはサイコパスの発想として有名な例を引いているので「ああ、これは『この人物はサイコパスですよ』という描写なんだな」という結論に飛びつきたくなります。ちなみにこの投稿のヘッダー画像は典型的な尾形の虚無顔です(トレス)

しかしながら、落ち着いて読むと罪悪感や罪穢れに苦しむ描写がこれでもかこれでもかと出てくるので、作者のミスリードにまんまと嵌められていたことに気づきます。悔しいけど上手い!

尾形を見えにくくする2つの不一致

尾形を把握するのが難しいのは


1 尾形の発言と尾形が事実だと考えているものが一致しない(意図的な嘘や虚勢)
2 尾形が事実だと感じているものと真実が一致しない(尾形内部の認知のゆがみ)

この2つの不一致が混在するためです。

例えばここで取り上げる罪悪感に関しては

尾形の発言:罪悪感など感じない
尾形が事実だと感じているもの:罪悪感など感じない
真実:罪悪感と罪穢れに苦しみ抜いている(無意識の内面)

この場合尾形内部の認知のゆがみによって、真実とかけ離れた情報が提供されることになり、発言や行動、尾形のモノローグだけを捉えると真実と逆の結論になってしまいます。

あと、これは尾形に限らずゴールデンカムイ全般に言えることですが、作者の野田先生は一筋縄ではいかない方で、「ぱっと見Aのように見えるが、1周読んで戻って来たら全く違ってBという意味だった」という発見がたくさんあります。何周か読み丁寧に謎を解いていくと、同じコマ同じセリフなのに全く違った風景が見えてきて、まるでだまし絵を見せられているようです。

ゴカムはお宝探しや冒険などのメインストーリーの背後に、親殺しと自立、罪穢れや罪悪感、など複数のテーマが存在し、尾形の罪悪感はそちらの流れのメインテーマです。最終章を通じてこの謎が解明されるのを見守っていきたいと思います。

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