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ゴールデンカムイにおける銃メタファー

(ネタバレです。最新刊まで一周読んだ方向けです。)

本日発売のヤングジャンプに掲載されているゴールデンカムイ第293話の中で、戦闘中に高揚した鶴見中尉が銃を男性器に見立てて自慰のジェスチャーをしていました。それを見てこの作品は銃を男性器のメタファーとして取り扱っているということをおっしゃる方がいて、色々考えてみたら思い当たることがいくつかありました。

ちなみに、他のキャラクターでは、直接的な表現ではなく、男性性や父性の象徴として銃が描かれていたりします。また、キャラクターと銃との関係を見ると、意外と性格や考え方に即していることに気づきましたので、メモ的に書いておきたいと思います。

 鶴見の場合

武器を力の象徴、美しいと捉えており、使用時に性的興奮と絶頂をもたらす様子が何度も描かれています。上記の描写も含めて露骨に男性器を表しています。

二瓶の銃

脱走囚人で猟師の二瓶鉄造は戦死した息子の銃を愛用しており、二瓶から猟師の心を教わったマタギの谷垣が二瓶の死後その銃を引き継ぎます。そして、谷垣が我が子のように可愛がっていたチカパシが谷垣から自立する際にチカパシに引き継がれます。猟師(マタギ)の魂を受け継ぐ際に勃起という言葉が多用されることから直接的に男性器の象徴としても描かれています。猟師の魂が脈々と受け継がれる象徴として擬似的父子の間で手渡されており、父性の象徴でもあるようです。

銃の使用法にこだわらない杉元

主人公である杉元の場合、接近戦が得意で射撃が苦手なので、銃は主に銃剣を装着した状態で刺したり、銃床で殴ったりして使います。銃弾を発するという最も力を発揮する(男性的な)使い方にこだわっていません。杉元は戦闘能力が極めて高くいかにも男性的なのに、性格は男らしさにこだわらず優しくフラットで乙女な部分があります。こういったキャラクターにぴったりマッチした銃との関係性だと感じます。

銃にこだわらない宇佐美

宇佐美にとって銃はただの道具で、ほとんどこだわりを見せません。平気で放り出して立ち去ることもあります(ビール工場での牛山との戦闘時)。銃が象徴する父性より大切なものがあることの暗示と見ることができます。すなわち実の父への執着はなく、鶴見に対して恋愛感情にも似た強い執着がある宇佐美の心にマッチした銃との関係性です。

尾形にとっての銃

作中で最も銃に拘る人物といえば尾形です。常に身につけており、一緒に眠り、風呂にも持ち込む徹底ぶりです。見たことのない銃を手にすると仏頂面が緩むほど銃が好きな様子。

尾形は子供の頃から祖父より手ほどきを受けて銃を使い慣れていました。幼い尾形が撃った鳥にまつわる悲しいエピソードもありますね。入隊後は射撃の能力で頭角を現します。後に銃の腕前とは無関係な重要任務に抜擢されていますが、入隊直後は隊内での地位(居場所)を確かなものにする重要な要素だったと思われます。それゆえ銃に対する愛着や信頼が強まったのでしょう。

◆男性性へのこだわり

尾形は、中性的な見た目にもかかわらず(だからこそより一層?)、登場人物の中でもことさら男っぽい態度や言葉遣いを見せています。

そして男性性の最たるものである軍隊文化へのこだわりで

・十代から所属しており年齢の割に所属年数が長い

・戦時に徴兵や白米目当てに集まってきた者と違い日露前から所属している生え抜きの軍人

・鶴見中尉など敵対者であっても上の者には階級をつけて呼ぶ

・退役者にも退役前の階級をつけて呼ぶことがある(特に威嚇時)

・目下の軍隊経験者には上官ムーブを見せる

・逆に年上でも軍関係者以外の土方などは「ジジイ」呼ばわり

・死体からムイムイしてでも軍服を着続ける

どうも尾形は一般社会で経験を積む前に軍隊入り、どっぷりホモソーシャルの中で育ち、過剰なまでに適応しているような気がします。

◆父性へのこだわり

父母両方から放置されたにもかかわらず、なぜか母ではなく父の愛に強い執着を見せます。そのこだわりゆえに道を踏み外し苦しみ抜くことになるほどです。

以上より、銃に異常にこだわる尾形は、男性性や父性にも異常にこだわっており、他の登場人物同様きれいな対応関係が見て取れます。

ちなみに、尾形は銃を持ち続けることには異様にこだわりますが、特定の銃へのこだわりはありません。新式が手に入ればサクッと交換し、壊れたら捨てて別のに取り替えています。

特定の銃への拘りはない事から、父そのものでなく別の形の父性でも満足できる可能性もあるのでは?そこに祝福と救済があるのか?などと想像の翼を広げています。


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