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おららの村にはこれがある。第3話


第3話 使い続けるということ。


おららの炭小屋のじいが、一本のノコギリを見せてくれた。刃の幅が細く、普通のノコギリでは切れない曲線でも綺麗に切れる。

「このノコギリでしかできないことがある」と、じいは得意そうに笑った。

しかし、このノコギリは最初から曲線を切るために細かったわけではない。
普通の幅のノコギリを目立てし、使い続けることですこしづつ細くなり結果的に曲線が切れるようになったのだという。
それにどれほどの時間が費やされたのか、すぐには想像できなかった。

次にじいは鹿の角で作ったケースに収められた
小指の先ほどの小刀を見せてくれた。

「この小刀はもともとヤスリだった」と、教えてくれた。

ノコギリとヤスリは、互いに使い使われることで磨り減りカタチを変え、機能を変え、用途を変え、その時々で新しい命を吹き込まれながら、いまなお現役でじいの仕事を支えている。

そしてそうして使い続けられたものは、
そのカタチに「なるべくしてなった」からだろうか、堂々としていて、とても美しいフォルムをしている。

「使えなくなれば捨てる」という考え方がすべての基準のように動いている世の中で、じいの細くなったノコギリと小刀に道具と人の関係の本質を見たような気がした。

 #木頭  #智慧  #道具  #おららの村にはこれがある 

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