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最強のカロリーメイトマトは何味なのか

 皆さんは「カロリーメイトマト」なるものをご存知だろうか。

 恐らく初めて聞いたという方がほとんどだろう。当然だ、僕しか使っていない。むしろ知っているお前は何者だ。

 カロリーメイトマト(略称:メイトマト)とはその名の通りカロリーメイト+トマトのことであり、僕の中では「小粋な料理を作った気分になれる一人暮らし限界メシ」の頂点に君臨する、料理まで二歩ぐらい足りない食べ物である。

 僕はそれなりに自炊をする。だからアパートの冷蔵庫には、たいてい何かしらの食材が入っている。しかしある日、冷蔵庫を開けたらそこには種々の調味料とトマトしか入っていなかった。かといって今からわざわざ外出するのも億劫だった僕は、何か夕飯と成り得るものはないかと横の備蓄ゾーンを漁った。その時出てきたのが、カロリーメイトだった。

 かくして緒賀の食卓には、お馴染みの黄色い箱とカットしごま油と塩を振りかけたトマトのマリネみたいな何かが並んだ。一人暮らしここにあり、といった様相である。

 早速カロリーメイトを食べる。贔屓のプレーン味の素朴な甘さが口の中に広がり、俺は今栄養を摂取しているという実感が溢れてくる。しかし此奴の短所としてモストポピュラーであるところの乾きが、僕の口内の水分を容赦無く奪っていった。

 水分――そう思い僕がカロリーメイトの残る口に頬張ったのがトマトだった。そしてこの時、僕は思ったのだ。

 あれ、案外合う。と。

 トマトの水分と適度な酸味と甘さが、カロリーメイトと組み合わさるとあたかも最初からそのような商品だったかのような顔をする。トマトとカロリーメイト……ともに単体で美味しいように作られたそれらだから当然かもしれないが、僕にとってこれは衝撃だった。何より、栄養バランスがいい。バランス栄養食と、赤くなれば医者が青くなる果菜類のタッグだ。最早敵無し。かくして、休日の何もしたくない日のメニューにカロリーメイトマト(以下メイトマト)なる一品が追加された。

 時は流れ今日、僕は昼過ぎに目を覚ました。出掛ける用事もあるというのに、お腹はしっかり減っている。今のご時世だと外食もできるだけ控えたいという気持ちもある。ならばどうするか……そう、メイトマトである。

 僕はお椀を用意し、そこに一口大に切ったトマトと袋の中で粉々にしたカロリーメイト(プレーン)を投入した。そしてスプーンで食べる。うむ、適度に美味い。

 しかし今回のトマトは少し完熟気味で、そのトマトの風味が必要以上に強くなっていた。これでは素朴さで戦うプレーンの味が負けている。何かを足せばいいのかもしれない。そう思った僕は、冷蔵庫からいけそうな調味料を探した。そしてとりあえず、メープルシロップをかけて食べてみたのだ。

 これが割といける。トマトが微かな酸味と水分、そして食感要員であることに徹し、メープルシロップが砕かれたカロリーメイトに絡んで全体の味がまとまっていたのだ。僕は満足げに頷く。しかしその瞬間、僕は気付いてしまったのだ。

「最初からメープル味で食べれば良かったのでは?」

 それは青天の霹靂だった。今まで僕は「メイトマトのカロリーメイト=プレーン味」という認識でいた。他の味ならばどうかということを、一度も試していないことに気が付いたのだ。こうしちゃいられない、全ての味で確かめ、最強のメイトマトを探さねばならない。そこには使命感があった。


(床に並べたずぼらクオリティな画像)

 というわけで帰りにスーパーで追加のトマト、そしてカロリーメイト5種類を購入してきた。本当は2本入りの半分のサイズが欲しかったのだが、生憎入荷していなかった。コンビニで良かったかもしれない。

 カロリーメイトマトの黄金比は、普通サイズのトマト:カロリーメイト=1個:2本 とされている(個人の感想です)。しかし今回購入したトマトは少し追熟が進んでいるため、風味の強さからカロリーメイトを倍にしても検証には影響が無いと判断した。よって今回はカロリーメイトとトマトの比を、カロリーメイト:トマト=2本:普通サイズの半分 としてテイスティングしていくことにする。はたして、どのカロリーメイトが一番トマトに合うのだろうか。いざ実食に入ろう。

No.1 チーズ味

 メイトマトの見た目はこんな感じである。概ねアメリカ人が家で食ってそうだなと、僕は偏見の眼差しを向けて食べている。

 さて、世にはカプレーゼなる料理が存在する。あれはモッツァレラチーズだが、トマトとの相性としてはチーズはかなり良いカードだといえる。そう思いながら最初の一口を食べた。

 うーむ……何というか、チーズらしさがもう少し欲しいかもしれない。カロリーメイトは本来単体で食べるのでチーズ風味という具合で丁度いいのかもしれないが、トマトと合わせると倍量であってもインパクトに欠けている。もう少し料理としての“らしさ”が必要なのかもしれない。

 そう思い、追加でオリーブオイルと塩をかけてみることにした。おお、これなら案外料理っぽい。インパクトの薄さが、塩の尖りとオリーブオイルの香りによってしっかりと演出されている。オリーブオイルを吸ったカロリーメイトもまた口当たりが柔らかくなっていて、全体としての完成度は上がったと言えるだろう。単体では微妙だが、アレンジ次第ではさらに化けそうな可能性を感じた。

No.2 チョコレート味

 負け戦――見た目の時点でそんな言葉が脳裏をよぎる。世の中にチョコレートとトマトの組み合わせが無いわけではないが、両者もこのような出会いは想定していないだろう。

 しかし、食べる前からその可能性を否定するのはよくないことだ。世の中で新しい一歩を踏み出してきた人間は、その背中に少なからずの心ない言葉をかけられたことだろう。だからせめても、僕は彼らの可能性を信じてやらなねばなるまい。そう思い一口目を食べた。

 ……ん?

 もう一口食べる。

 これは……まさかチーズ(無補正)よりまとまっている?

 チョコレートの雰囲気はトマトによって相殺されているが、鼻に抜けるココアのような風味がわりかし悪くない。というか、メイトマトの場合甘い方がトマトに合うのかもしれない。トマトのみずみずしい食感に、粉状になったカロリーメイトが食感に差を付けてきて面白い。味としては最初にトマトの香りと酸味がやって来るが、噛んでいる内にカロリーメイトが全体を覆い、やがて味を支配する。そして最後にココアの感じが鼻から抜け、それがさっと消えるのだ。

 僕自身、カロリーメイトのチョコレート味は正直あまり好きではない。何故かというと口の中の水分を奪ってかさかさにしてくるクセに、粉っぽいチョコレートの味だけが残り続けるのが嫌だったからだ。しかしメイトマトにしてみると、僕の抱くチョコレート味へのマイナスポイントが全て解消されている。水気があるから口の中でくどく残らず、仄かに風味を感じさせて去っていく。味こそ薄くなり物足りなさを感じるが、単体としての調和ではチーズ味よりもまとまっている。

 頭ごなしに否定してはいけない……そのことを僕はこのチョコレート味で改めて感じた。

No.3 フルーツ味

 チーズ味の時点で思ってはいたことだが、チョコレート味以外の見た目に差がなさ過ぎてイマイチ面白みがない。まぁそれは些末な問題であり、問うべきは味だ。僕自身フルーツ味は嫌いではないが、このグレープフルーツのような香りと苦味がトマトと組み合わせた時にどうなるのか、皆目見当が付かない。早速食べてみよう。

 まず口に入れた瞬間に思うのが、「爽やか」だ。上記の二つでは粉としての野暮ったさみたいなものがトマトの味が来る前に訪れるのだが、他の味よりも強いフレーバーが、その第一印象を塗り替えてしまっている。それから後追いでトマトが現れ、そして最後にカロリーメイトが陽気にやってくる。トマトの食感にフルーツ味だとよもやただのフルーツに感じるのでは……と思ってもう一口食べたが、カロリーメイトの粉っぽさがある以上そこまではいかないようだ。

 他の味に求められるのが“調和”であるのに対して、この組み合わせは強みが似ているからか互いが互いのままぶつかってきて、それが案外悪くない。チョコレート味が社交ダンスの男女だとすれば、フルーツ味は路上でのダンスバトルといった様相だ。

 味がハッキリとしていて、印象の強さはここまでの3つではピカイチ。ただ肝心の良し悪しについては、僕がメイトマトに求めている美味しさではなかったと言わざるを得ない。トマトがより水気役としての役割に徹してそのなりを潜めているいるので、元々フルーツ味が一番好きという人だったら一番気に入るメイトマトであることは確かだろう。

No.4 メープル味

 今回こんな検証をやろうと思った元凶である。ここまでトマト1個半とカロリーメイト1箱半をレビューを書きながらゆっくり食べてきたため、それなりに満腹中枢が刺激されている。そんな状況で香るメープルの匂いには中々キツいものがあるわけだが、残り2つだから頑張っていくことにした。

 口に入れると、まずカロリーメイトが「メープル!」とその甘さを主張してくる。ああお前か、とその味に向き合っていると、「おうおう俺っちもいるんだぜ兄さんよぉ」とトマトが肩を怒らせてやってくる。彼らにどう対応すればいいのかとしどろもどろに噛んでいると、そこにトマトとはまた異なる食感があることに気が付く。「俺、オレンジだぜ!」と名乗りを上げたそいつは印象的な食感を寄越しつつ、揚々とメープル・トマト戦線にカンキツの香りを引き連れて参戦するのだった。

 ――何だろう、よく分からない。

 ここまでで一番ぼんやりとしている。たとえばチーズ味はそのチーズがちゃんと柱として存在しているから、オリーブオイル&塩という補正策が思い浮かんだ。しかしこのメープル味は、メープルVSトマトという戦いに、微弱ながらもオレンジが主張してくることによって現状打破の道すら消してしまう、という救いようのない状態になっている。各々が主張するも、決して交わろうとしない――青春のもどかしさに似たそれは、けれどフルーツ味ほどにも甘酸っぱくなれない、残念なメイトマトと化していた。

 敗因としては、やはりオレンジ要素だ。オレンジ×メープルとオレンジ×トマトが良かったとしても、3つ合わせてはいけない。プレーンにメープルシロップをかけた時はそれなりだったのに、こうも異なるものとなるとは。驚くと同時、「料理とは引き算である。余計な物をそぎ落とせ」という言葉を思い知らせた一品だった。

No.5 プレーン

 思わず「ただいま」という声が漏れる。僕にとってのデフォルトであり、メイトマト=これという存在だ。もはや食べるまでもないが、画像が欲しかったので泣く泣く作った。

 プレーンの風味が、一番トマトの邪魔をしない。昔のトマトは今ほど甘くなかったから砂糖をかけて食べていたという話があるが、現代においてはプレーンがその砂糖の役割を果たせるといえるかもしれない。トマトを尊重しながら、そこに純粋な甘味と食感をプラスしてくれる名脇役としての存在。これこそが僕の求めているメイトマトに違いなかった。メープルのように風味での争いが起こらないのが何よりもありがたい。間違いなく、一番素直に美味しいメイトマトだ。

【結論】

 やはりカロリーメイトマトはプレーンに限るということを再認識する結果となった。とはいえこれは一人暮らし限界メシであり、栄養バランスが崩れそうな時の救世主であることを忘れてはいけない。その辺のスーパーで鶏肉を買ってきて、テキトーに塩胡椒で焼いた方が美味いのは当たり前の話だ。

 だけどこうしてメイトマトに出会ってしまった以上、一度は通るべき道だったと僕は思うし、後悔はしていない。

 料理はしたくない、けれどカロリーメイトだけは何か足りない……そんな場面はこの先の人生で幾度と待っている。そういう時にメイトマトにするために、僕はこれからもプレーンを贔屓にしていくことを決めたのだった。

 (了)

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