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マツコ・デラックス『デラックスじゃない』を読んで

マツコ・デラックスが好きだ。
どのくらい好きかというと、「月曜から夜更かし」と「マツコの知らない世界」は毎週録画して欠かさず観るくらい好きだ。

日本のゲイ文化が知りたくて、著名なゲイ(オカマ)の著書を読もうと思ったとき、頭に浮かんだのは美輪明宏とマツコ・デラックスだった。
三島由紀夫と交友があった生ける伝説美輪明宏はともかく、マツコ。そのくらいマツコの存在は大きく、かつ身近なものに思えるのだけれど、よくよく考えると彼と私には共通点はほとんどない。性別も体格も年齢も違う。なのになぜ?と思いつつ読んでみたら、はあなるほどなと勝手に納得する内容だった。

『デラックスじゃない』(双葉社、2014)は語り起しで、つまりマツコがしゃべるままに文章になっている。果たしてテレビでマツコが喋る感じそのままで、うちのリビングにマツコがいて空を見ながら話しているかのようにスーッと頭に入ってきた。

はじめのエピソードはこうだ。
住んでいるマンション下のコンビニで、同じアイスを気に入ったからと14個買う。なるほど、もう面白い。さらにマツコは、こんなにアイスが売れたことで、じゃあ同じアイスをもっと仕入れようか、それとも一人の気まぐれに左右されて良いものかと店長は葛藤したはずだ、と続ける。
こういうことに考えが及んで、うまいこと口に出したり文章にしたりできるのって、簡単なようで結構むずかしい。さすがだなと思った。

そもそもマツコはライター出身で、その目をひく見た目と着眼点、トークのうまさでCM女王にのぼりつめた人なんだからそりゃまあそうなんだけど。

本書でマツコはサラリと、「オカマ」で「デブ」で「女装」している自分がなぜ世間に受け入れられたのかを語る。ものすごく的を射た内容なんだけど、あんまりサラッとなのでびっくりしてしまう。
曰く「みんな『マツコ』みたいにはなりたくないから(中略)足を引っ張りたいって思うジェラシーが、湧かない」。あんなことを言って、とイライラしたとしてもすぐ「でもあんな身体になるのは嫌だな。まあ可哀想だし、いっか」と思われるから許されるのだという。
さらにマツコは「男でも女でもない存在だから、部外者だから、関係ない人間だから何か言われてもそこまで腹が立たない」と続ける。

最近はそうでもないけど、歯に絹着せぬもの言いはここからきていたんだなと思うとともに、結果としてそういったことがよく分かった上でカメラの前でトークするマツコの姿が、誠実さを、「どちらでもない」ことによる公平さを感じさせるのだなと思った。だから好感度が高いんだねと。

でもね、こういうのって、まあ人間みんな多かれ少なかれ社会での立ち位置とか期待される役割を知った上でそれに沿って生きてるし重要なことなんだけど、マツコのそれは辛いだろうなって悲しくなってしまう。しかもそれで食ってるから、変えることも逃げることもできないじゃんか。

この本はもう10年前のものなんだけど、マツコさん、良いパートナーには出会えただろうか。とりあえず体に気をつけて、これからも関ジャニ村上くんとダラダラ話す姿を見せてほしい。

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