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アーサー・ビナード『日本語ぽこぽこり』を読んで

『はらぺこあおむし』で有名なエリック・カールの絵本に『えをかくかく』(偕成社)というものがある。
図書館で借りてきたとき息子は12か月くらいだったので、色鮮やかで大胆な絵にしか興味をもたなかったが、声に出して読んでいる親の方は文章のうまさに驚いてしまった。
なんだろう、すごくうまい。絵本という縛りの中で、これまた絵本の自由さをうまく生かしている。リズムもよくて、次のページへの繋ぎかたもすごくスムーズだ。とにかくすごいぞ、なんだこれ。
で訳者を見てみたら「アーサー・ビナード」とあって、えっ外国人なの!?とまた驚いて、気付いたらアマゾンでビナード氏のエッセイを注文していた。

アーサー・ビナード氏は1967年にミシガン州に生まれ、大学を卒業後に来日して以来詩人や翻訳家として活躍している。なんと日本語に触れたのは22歳のときで、幼少期から親しんでいた第二言語というわけでもないらしい。

『日本語ぽこりぽこり』(小学館、2005)の多くはWEB上で連載された短いエッセイから成っているため一編一編はとても短い。しかし筆者はその短い文の中で、豊かな知識を基に、柿から戦争、はたまた国際宇宙ステーションまで、さまざまな物事について分かりやすく親しみやすい文章で思いを綴る。
そしてたまに落語のようなオチがついて、とても非日本語母語話者とは思えない日本・日本語に関する造詣の深さに頭が混乱してしまう。

特に翻訳の部分が面白い。街中の変な英語って、笑っちゃうしちょっと恥ずかしいんだけど、努力の跡が見られるとなんかほっこりするんだよな。
あとやたらに「一期一会」の意味を教えたがる日本人とかね。いるいる。

タイトルは夏目漱石の俳句からきている。
吹井戸や ぽこりぽこりと 真桑瓜
と記憶していたものが、別な文献では「ぼこりぼこり」となっていたことにビナード氏の頭はいっぱいになってしまって、夜行バスで車酔いしかける。

なるほど、ぽこりぽこりだったら、ほとんど動きのない井戸の水面でいくつものウリが上下しながら呑気に浮いているさまを思い浮かべるけれど、これがぼこりぼこりとなると、噴き上がる水に揺られて、ウリ同士が勢いよくぶつかり合ったり井戸の側面にぶつかる様子になって風情が全く異なってしまう。

私ももう30年近く英語を学んでいるけれど、英語でこんなふうに感じ取れるだろうか。天才っているよねと思うと同時に、そういう言葉で逃げずにもっと勉強しないとなと奮起させられた。
私にしては珍しく詩集も買ったので、これから読むのが楽しみだ。

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