甘く香るブラックメルヘンの絵本に迷い込んでみる? ~ミュージカル「チャーリーとチョコレート工場」の魔法
はじめに
・筆者は堂本光一さんのファンです。
・本稿はレビューではなく、作品を鑑賞する前後も含めた観劇体験を書き留めたものです。
・「観る人に解釈を委ねる」座長のポリシーにおおいに甘えています!
諸事情から直前のキャンセルも視野にあったので、まさにゴールデンチケットでの観劇でした。
日経エンタテインメント「エンタテイナーの条件」での「引退も覚悟しています」という見出しが話題になっていた時期でもありました。10年越しの封切となる本作、ともすればこれが最後かもしれないけれど、ご本人の選択ならば尊重できると思えたので、さほど動揺はなかった記憶があります。優先順位を間違えることなく、各方面への配慮を示しながら発信される姿に安堵を覚えました。
個人的な印象ですが、光一さんを尊敬する方は、その仕事論、ものづくりの姿勢、組織内外での立ち回りに惚れ込み、参考にされている方も多いのではないでしょうか。
粉砂糖とチョコレートの絵本の中へ
この記事からもチョコレートの香りがするように設定できたらいいのに。想像すれば見えてくる。ピュア・イマジネーション!なんちゃって…😛
観劇に当たって、『エンタテイナーの条件』をはじめインタビューを読み込んで行きました。ブロードウェイでは、劇場に足を踏み入れた瞬間から作品の世界が始まる。ロビーに設置された大道具・小道具の仕掛けが没入感を生んでいると。
8扉から入場すれば、そこはまさにバケット一家が暮らす町。
紗幕には、粉砂糖のようにふわりふわりと舞う雪。左右の控え目な花道にも、ひっくり返したままのおもちゃ箱の中身のような、少し色褪せて見えるオブジェ。決して煌びやかではないけれど、優しさを持ち寄って暮らす町。
客席には小さなお子さんからご高齢の方まで、笑い声や優しい話し声が溢れます。街にクリスマスキャロルが流れて、子どもたちは一年に一度の願い事をし、大人たちもサンタになるために走り回るような、あの優しいファンタジーで満たされる12月の喧騒に似ていました。
二幕、ウォンカが子供たちを工場内に招き入れると、甘い甘いチョコレートやストロベリーの香りが客席を包みます。シアター4DXや、ライド型アトラクションなどにおいては、平面的な世界に奥行きを与える印象的な演出です。しかし、説得力のある大道具、躍動する人間の身体を目の当たりにする劇場という空間では、まるで扉から内側がまるごと作品世界にスリップしてしまうような錯覚を覚えました。
タイトルにもした通り、まるで絵本の中に迷い込んでしまったよう。
そんな幻想的なセットのお写真は、ぜひ『音楽と人』の記事や、アートディレクターである増田セバスチャンさんのInstagramで…(だいたいのお話の筋も)。
ロッキンを踊るドS座長、観れるって思ってた‥訳ない!
工場見学に招待される子供たちは、親御さんも含め個性いっぱい! そしてそれぞれの親子が、「だってこうでもしなきゃ今の時代やってられないもん」とでも言いたげな、非常に強迫的なデザインをされているところが現代的だなと感じました。
彼らが工場内で非礼を働こうものなら、ウォンカが容赦ないお仕置きを喰らわせますが、一方で、そのように振舞うことを避けられない切実さも、暗に語られます。なんだか憎めず、映画と違って全員大好きになってしまいました。
食べることで頭がいっぱいのオーガスタス(一般的にアウグスティヌスにちなむ名前だそう)、過保護な肉屋の母親。
あれが欲しい!これが欲しい!女王様然としたベルーカ、その言いなりになって何でも叶えようとする父親。
SNS映えがすべてのインフルエンサー・バイオレット、ステージパパな父親。
ガジェットジャンキーなマイク、そして私が記憶している限りですが、社会の教師をしていた過去を持ち(ウォンカがウンパルンパとの出会いを語るくだりで、地理について指摘する)、アル中で、処方薬依存?と、非常に設定が手厚いティービー夫人(一番好きです)。
それぞれが自己紹介しながら歌い踊るシーケンスでは、ウォンカは「まったく下品でうるさい親子ですね…」とでも言いたげな顔をしながら、ハウス、ファンク、ジャズ、そしてなんと『エンタテイナーの条件』で俺に似合わないからやらないと仰ったロッキンまで、ゴリゴリに踊りまくるのです。YOSHIEさん、松田尚子さんの鉄壁のコレオ。
そして、華奢なのに力強い光一さんの身体を包む、小西翔さんの絶妙な衣装と、妖艶で毒のあるウォンカのスイッチを入れてしまうSAKIEさんのウィッグ・ヘアメイク。
普段のステージでは、やや無性的な印象の光一さんですが、ウォンカ様の姿になると、長い巻髪、きつめのリップ、ウェストが絞られたジャケット、細い蛍光色のパンツ、5cmはありそうなヒール……なのに声はド低音……なのに少女のように煽り立てる残酷な笑い声……なのに……と、紛れもなく両性のいいところ取りでした。
ちなみに、ウォンカ様は頭が熱くないのかしらとガン見したところ、ハットにかかったチョコレートの上部に、通気口のような穴を見つけました。笑
また、両手の黒いマニキュアは日々光一さん自身が塗っていらっしゃったそうで、役を離れても手つきがウォンカになってしまったり(小指が立ったりするのかしら)、視界に入った自分の黒い爪が虫に見えたりといったエピソードもありましたね。
チャーリー役・小野桜介さんの涙と、メリーバッドエンド
物語の主人公であるチャーリー・バケットはトリプルキャスト。私が観劇したのは小野桜介さんの回でした。
小野さん、心からの親しみを込めて「おーちゃん」としましょう、まっすぐで純真なチャーリー、亡くなったお父さんを想って声を震わせるチャーリー、ゴールデンチケットが当たって涙声のチャーリー、貧しい暮らしに耐えて、大好きなジョーじいちゃんと共にウォンカに会えて喜ぶチャーリー……おーちゃんのよく通る声と、愛らしさそのものの振舞いに、何度も涙がこぼれました。
ウォンカだけでなく光一さんに対しても、大好きな気持ちを体いっぱいに表現していたおーちゃん。いつか、大きくなったおーちゃんがウォンカ、光一さんがジョーじいちゃんなんて座組も見てみたいですが……気が早いでしょうか。
おーちゃんがこんなにも印象に残っているのは、光一さんがact guideでご自身の作品の解釈を披露したときに、なんであんなに可愛いキャストたちが務めるチャーリーという役を、そんな風に捉えるんだろうか?なーんて反応してしまった自分がいたから。光一さんの趣味に通じている方であればピンとくるかもしれません。
今では、小さな年齢のキャストさんに対しても、光一さんにとっては作品を作り上げる対等な役者であるという意識があるからこそ言える(そうでなければ言えない)言葉なのではないかと思っています(観月さんや小堺さんが絶句する程度には…。)。
ちなみに私の解釈では、すべてはウォンカ=チャーリーが「ウォンカのとびきりめちゃうまチョコ」を売るために作り上げたおはなしで、本でも出して一儲けして、舞台になって尾ひれがついて、よかった不幸な子どもは一人もいなかったんや……ということだと信じています。ねえそうだと言ってよウォンカさん。
魔法にかけられて
そんなこんなで、ウォンカ様の船に乗り込んでチョコレートの海を揺られること3時間。帝劇の正面玄関を出た私は、シアターダンスのクラスに電話をかけていました。
自分はやっぱり観る側の人間でいなければと思ったこともあり、経験はあれど、今更レッスンを受けるという発想がそもそもありませんでした。ですが、チョコレート工場の魔法にかけられてしまったんでしょうか。
通い始めたクラスで、ちょっとした奇跡に見舞われるのは、また別のお話です。
またいつの日か、気まぐれなウォンカ様が目を覚まし、チョコレート工場に招待して下さる日が来ることを願ってやみません!🍫🏭
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