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ステアリングララバイ

飲み干すその姿に思わず時が止まる。
目が離せなかったのは、いつぞやの私がそこに転がっていたから。
カウンター上に散らかる、軽く無機質なプラスチック音が更に彼の表情に渇きをひりつかせる。

痺れるほどの甘いそれを原液で流し込む
涙を流す気になれず、飲み込んだ瞬間もジンジン疼く胸の内はあっという間に渇きを訴え…余計に孤独が痛い。
甘さなんかじゃ誤魔化せない。
やるせない隣の不在。
どうして?と話し合うには遅すぎて。
行かないでと叫ぶには、もう隣は見知らぬ香りの誰かで埋まっていた。

言葉をかけようと急く気持ちを抑え、氷をグラスになるべく静かに積み上げた。
最初に頼んだモヒート。
私の渇きを癒して…なんて言葉をもつこのカクテルに何故か途中からガムシロップありますかと声をかけてきたのが心に留まったのだ。
1個、また1個と空けてはグラスに流し込む。
相当の甘党か?よほど疲れてるのか?と訝しんでいたら…ガラガラと勢いよくグラスの中を騒がしく混ぜ喉へ流し込む。
苦い顔をして、泣きそうな動作で。
そして件のガムシロップをまま喉へと運んでいったその瞬間なのである。

バースプーンをロンググラスへ刺し氷に引っかかりを作ってステアする。
音が鳴らないようにと思っても、昔の転がり出た自分に手はもつれカランと音を立てグラスを冷やしていった。
滴る水気を一旦切る。
ポタポタと思い出の中の切なさが排水口へ落ちてった。
レモンを搾る。
持て余す程の爽やかな香りが鼻へ抜ける。
あれから私は反抗期ならぬ、反恋期だ。
トキメキも、切なさも、斜向かいに座るお客様達のさえずりでお腹いっぱい胸やけ気味。
グラスへ落とし込んだあと、ミネラルウォーターとガムシロップを追加しレモネードを作る。
ステアリング。ステアリング。よく混ぜて。
静かに記憶を全てをないまぜにして、氷がレモネードの中で溶ける。
消えてしまえば楽なのに…なんて思ってたのに気付けば年が明けてまた暮れるを繰り返したな。
ステアする氷の数だけ、自身の中に思いも混ぜこんで来たのかしら…ふと件の彼を斜に見る。
赤ワインを静かにフロートするように乗せる
アメリカンレモネード…最後の赤が今日は少しだけカサブタに痛い。
忘れない…忘れない…でもきっと飲み込んだ想いの分だけ君自身のララバイが出来上がるよ。
私は私に聞かせるこの歌を静かに反芻しながら彼へ出来たてのカクテルを差し出す。
小皿に3つだけ、追加のガムシロップをオマケに添えて
【終】
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あとがき
こちらの作品は、stand.fmにて書かれた1曲の歌とその歌詞に惚れてしまった私が、その曲を聴きながら脳内で派生してきた景色を書き留めたくなった欲望を詰め込んだ作品です。
言わば読書感想文のような、はたまた同空間で同時に展開するオムニバスのような…そんな空気感を文字で楽しんで頂けたら嬉しいです。

この作品の元になった曲
ガムシロップをロックで(よーへいさんの歌)
(作詞:おだ 作曲:よーへい)

https://stand.fm/episodes/666851f3b408144a50609ee8

歌詞を書いたおださん

https://stand.fm/channels/64f073f981469ca10da30f1f/announcements/66758d12d21820a7765eb410

お耳に、目に、周りに見える風景と、昔のあなたの記憶の何かしらに…乾杯。

ふみづき










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