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防弾少年団がいる街に引越した私の波瀾万丈恋物語

(以前Twitter垢でやったバンタン妄想を記録のためにここに再掲載。当時私はまず妄想画像を披露し、その後何を思ったか画像の設定を元に悲劇的なお話を書いたところ、フォロワー様方に「どうか救いのお話を」とコメントいただき、ハッピーエンドストーリーを書き足した...という経緯でした。私は失恋ストーリー好きだけど、世間はあまり好きじゃないんだなと学ぶきっかけとなりました)

隣の住人

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忙しい毎日、家に帰る時に必ず思い出すのはイケメンの隣人...今日は会えるかな?でもここ2週間ずっと会えてない(T-T)

そんなある夜の停電騒ぎ。
何もすることなくベランダに出て空を見ていたら隣の部屋の窓が開く音。プシュゥと缶ビールを開ける音も。

「あ、どうも」
ベランダ越しに言葉を交わす。
「いいですね、ビール」
「あ、飲みますか?」
「えっ?」
「冷蔵庫の、飲みきりたいからもし良ければ」
「あ、ありがとうございます」

ベランダ越しに缶ビールを貰い、お互い空を眺めながらビールを飲む。

「なんか、変ですね」
「この板が邪魔ですよね」
「これ、1回壊してみたいんすよねw」

つまらない世間話をして部屋に戻った。ついに、ついにお隣さんとお喋りできた満足感で興奮して眠れない。

その週末の朝、何やら隣が騒がしい。寝ぼけ眼で外を見たらパンダの絵のトラックが。ま、まさか...。

イケメンは引っ越してしまった。

・・・・・・・

隣のイケメンが引越ししてもうかなりの月日が経った。
ベランダ越しにちょっと言葉を交わしただけなのに、私は彼を引きずっていた。

よく「あの店にイケメンいるよね」「今度来る上司すごいイケメンだって」などという話題が上がるが、彼を超える人に出会ったためしがない。
だから、前任者の「xx商事の北海道支社の人、めちゃくちゃイケメンだよ」も話半分で聞いていた。

札幌に出張へ行き驚いた。そのイケメンは、私のイケメンだったのだ。

あからさまにおかしな反応をした私に、彼は不思議そうな顔をした。
もう失うものは何もない。私はベランダ越しにビールを飲んだ隣人だと打ち明けた。少し寂しんだことも付け加えて。彼は優しく微笑んでくれた。

私の想像の中の彼よりも、本物の彼はよく冗談を言ったりして人間らしかった。
「確かよく釣りに行ってましたよね」
「よく知ってますね!」
「はい、すみません、ストーカーじゃないですよw」
「ははは、光栄です。魚は好きですか?」
「はい」
「今日は刺身の美味しいお店にお連れしますから」

今度こそ、絶対に逃さない。


マッサージ店店長

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私の心も体も癒してくれる店長に、いつのまにか私は夢中になっていた。

「だいぶ良くなってるようだけど...どの辺がつらいですか?」
「あ、あの、この辺が、今日はマシなんですけどいつも辛くて」

毎週通って私の肩こりはほぼ全快していた。嘘をついて毎週90分コースを頼む私。気付かれてそうだけど、寧ろそれならそれでいい。私のこの思いを察して欲しい。

肩こりが治まっていると薄々気付いている店長は最近スキンケア系のグッズを帰り際に勧めてくる。好きな人に勧められる女子力アップグッズを買わない女などいるか。最近肌の調子もすこぶる良い。

直球勝負が苦手な私はちょいちょい身元調査すべく施術中に質問した。お休みの日は何してるんですか?ご飯とかどうされるんですか?などなど。指輪もしてないし、全ての質問に店長はクリアしていた。

ある日、レジ脇に折り紙の人形を見つけた。

「これ可愛いですね」
「はは、うちの息子が作ったんです」

貢いで貢いで貢ぎまくって、恋は終わった。

・・・・・・・

店長が子持ちとわかりひどく傷心した私は店に行かなくなった。
ちょうど時を同じくして仕事が忙しくなり、折角良くなった肩凝りがまた悪化しつつあった。

その日も残業で、駅を降りると人はまばらだった。片手で肩を揉みながら歩いていると、帰宅途中の店長にばったり会った。

「あっ」
「こんばんは!お久しぶりですね」
「あ、はい」
「お忙しそうですね...」
と彼は顔をしかめた。
「そうなんです。ずっと残業続きで。折角良くなったのに」
「もし良ければ、ちょっとだけ、診ますよ」
「いや、もう遅いし」
「僕は大丈夫ですよ。ほら、早く」

ふたりで暗い店内に入り、エントランスのソファに座らされた。彼の手が肩に触れただけで固まった筋肉がほぐれた気がした。

「ご家族も待ってるだろうに、すみません」
「ん?」
「いや、息子さんはもう寝てるでしょうけど」
肩を揉む手が止まる。
「もしかして...いや、あの、僕恥ずかしながらバツイチで。今は独身です。月に1回息子には会ってますけど」
「えっ?そうなんですかっ!」

思わず明るい大きな声を出してしまった。振り返ると店長は恥ずかしそうに笑っていた。


八百屋の双子(兄)

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帰宅途中に八百屋を通れば赤髪の双子弟が必ず「おかえり!」と声をかけてくれる。今晩はチンご飯に納豆でいいや、な気分でも弟は新鮮な野菜を勧める。女子がみんな家でサラダ食べてると思ったら大間違いだぜ、と言いたい気持ちを抑え、きゅうりを買った。だって、遠くの双子兄がこっちを見ていたから。私はあの無愛想な兄のことがずっと気になっている。

兄と話したい。でもいつも弟が邪魔。この際弟と親しくなって兄との恋路を助けてもらおうか。作戦を考えたいが、彼らが八百屋であること以外、彼らについて何も知らない。私はあくまでもただの客。それでまずは野菜が大好きな女子と見せかける作戦で行くことにした。

毎日野菜を買った。野菜のレシピ本も買った。がしかし、続かない。私は疲れ切っているのだ、できれば吉野家で済ませたいのだ。

ある日の朝、食べきれなかった野菜を燃えるゴミに出しに行ったらそこに双子兄がいた。嬉しくて挨拶したが、兄の視線はゴミ袋からかすかに見える萎れた野菜に集中していた。しまった...この恋は実らないな...

・・・・・・・

双子兄からゴミ袋に注がれた冷たい視線は完全に私のトラウマになった。駅から家に帰る道、八百屋の前を通るときはそそくさと逃げるように早歩きした。それでも赤髪弟は明るく挨拶してくれたりして、その度にいたたまれない思いをした。

ある日、俯いて八百屋の前を過ぎようとすると「ちょっと待って!」と普段寡黙な双子兄が大きな声で私を呼び止めた。

「これ、先週オープンした僕のお店なんですけど」
そう言ってオシャレなカードを渡す。
「この間、ゴミ出しの時にお会いしたじゃないですか。あの時、残った野菜を捨ててるの見て、いい案を思いついたんです。忙しい、お客さんみたいな人に喜んでもらえるお店になったと思うので、是非、来てください」

カードから視線を上げると双子兄は見たことのない爽やかな笑顔だった。
キューーン♡

「兄ちゃん!」
奥から双子弟がこちらへ走ってくる。
「何話してるの?」
「なんでもないよ」
「なんでもないわけないだろ!抜けがけはズルいぞ!」
「え?抜けがけって?」
「俺たち双子だから女の人の趣味も似てるんだ」
「おい、バカッ!」

私は一気に舞い上がった


喫茶店の常連客

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ほぼ毎週同じ喫茶店で本を読んでいるのだ。
お互いに目が合えば会釈するくらいの仲にはなった。ただ、彼があまりにも本に集中しているため、声をかけてお喋りして、という雰囲気は全く生まれなかった。寧ろ、本を読んでいる体で彼のことばかり考える自分に喝を入れたい気持ちになった。

ある日、彼はコーヒーを豪快にこぼした。コーヒーの飛沫は隣の私にまで届き、私の服と本に茶色いシミができた。
「ごめんなさい!本当にすみません!」
と彼は大袈裟すぎるくらいに謝った。
「大丈夫です、気にしないでください」
「いや、クリーニング代...」
「ほんと、大丈夫ですから」
「じゃあ、ここのお代は僕が...」
ということで落ち着いた。

シミのついた私の本を見て、
「それ、僕も好きです」
「私も、今読んでらっしゃる本、読みました。好きです」
という会話をして場が和んだ。

いい雰囲気だ。好きな作家や書店の話などもした。まさかの事件でかなり進展した。別れ際もずっと申し訳なさそうにする彼にさらに好感を持った。

よっぽど気まずかったのだろうか。翌週以降、彼は行く店を変えたようだ。

・・・・・・・

彼は来なくなったが、それでも私は毎週同じ喫茶店で本を読んだ。彼が来ないからと言って店を変えるのは私らしくない。そういう女として彼を追いたくなかった。

季節が変わる頃、喫茶店に入るとマスターが意味ありげに目配せした。奥の席に彼がいる。「あっ」思わず声が出てしまった。その声に反応した彼が視線を上げ、私と目が合うと、エクボを凹ませた。

彼はあの直後から長期出張で海外にいたのだという。だから全部、私の取り越し苦労だった。彼は時差を埋めるかのように前回のコーヒー事件の話をした。それを聞きながら、相手に興味を持っているのは自分だけではないと確信した。

カランカランと店のドアが開き、マスターが空いている席を探している。
彼はいいですか?と軽く聞いて私のテーブルに移動し、マスターへこちらにどうぞの合図をした。これで正式に私たちは次のステップへと進んだ。

彼は美術館へ行くのも趣味だという。この都会で、本が好きで美術館が好きでまともな仕事をした見た目もカッコいい人に出会う確率って、どのくらいだろう。


コンビニ店員

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本当にこの店員は愛想がなさすぎる。しかも酷く気分屋だ。
それでも同じKpop好きということで私には若干丁寧で、そんな些細な優越感で私は彼に好感を持っていた。向かいのローソンではなくセブンを選んで通った。

深夜どうしてもハーゲンダッツが食べたくなりコンビニに行くといつも死んだような顔をしている彼がニコニコと小躍りするようにフロアをモップがけしているではないか。

「いらっしゃいませー!」
彼のいらっしゃいませを聞いたのは初めてな気がする。

「どうも」
「こんばんは!」
「なんか...良い事でもあったんですか?」
「へっへっへ...あった...んすよ。わかります?」

聞けば、韓国の大手芸能事務所の第一次選考を通ったのだとか。
「おめでとう!」
「いやぁ、マジでこれ、キテますね」
「ホントにアイドルになっちゃうの?すごいなぁ、興奮しちゃう」
そう言うと物凄いドヤ顔を見せてきた。

レジを終えレシートを渡しかけ、突然何か思いついたように「待て」のポーズ。何かと思ったらレシート裏に妙なサインを書いてくれた。

「俺のサイン、第1号っすよ」

アイス並みに熱が冷めた自分に気付いた。

・・・・・・・

オーディションのためだろうか、接客が悪すぎてクビになったのだろうか、ある日を境に彼を見ることはなくなった。

夏のある雨の日、仕事帰りにコンビニの前を通ると、吸い殻入れの横で濡れ鼠になった彼がうずくまっていた。

「どうしたの?」
声をかけるとキレイな瞳をこちらに向けた。
「お姉さん!会えた!」
「えっ?」
「めっちゃ探してたんすよ!」
「んんん?どうして?ど、どうしたの?」

聞けば、オーディションは最終予選で落ち、仕事はなく、頼る家族もなく、ここ数日は路上生活をしていたとのこと。

「友達とか、いないの?」
「いるけど、俺、部屋汚いの苦手なんすよ」
「いやいや、なんでやねん」
「お姉さん!掃除洗濯、全部するから1週間だけ!泊めてください!」

お願いのポーズをしながら甘えた表情を見せる彼。言っておくが、引っ越してから我が家に男性は一度も入れてないんだぞ。

・・・

いつの間にか彼は我が家の玄関にいた。

「ちょっと待って、タオル持ってくるから」

そう言って洗面所に行って戻ると彼は既に上半身裸だった。見事な腹筋。ヤバイ、これ、仕組まれた?心臓が踊るように脈打った。

「はい、タオル」
心臓は音を立てていたが何でもない風を装ってクールに振る舞った。
「どうも。あ、シャワー、先に借りていいっすか?」
「うん、いいよ」

シャワーの音が聞こえる。男が入っている。その事実で更に頭に血が上った。ああ、こんなんで1週間、耐えられるはずがない。冷静でいるために何をしたらいいのか、考えても考えても答えは出なかった。

シャワールームの扉が開く音がした。あれ?彼、着替えはあるのだろうか...?危惧した通り、彼はバスタオルを腰に巻いただけでリビングへやってきた。

「俺でも着れる服、ある?」

もう、やめて!理性が保てない!

好きなkpopアイドルのTシャツにイチゴ柄のパジャマを履いた彼は、私の乙女心を壮絶に刺激した。なんて可愛いの!先ほど見た完璧なボディと今の状態とのギャップに頭のネジは数本イカれてしまった。

「なんか...落ち着かないみたいっすね」
「そりゃそうだよ。こんな、変なシチュエーション、ないもん」
「こういう時にどうしたらいいか、知ってる?」
「そんな方法ある?」
「あるよ、試してみる?」
瞬時に彼は私を引き寄せ、耳元で囁いた。
「一緒にベッド行こ。絶対後悔させない、ホント」


ヨガインストラクター

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嘘みたいな口コミにつられ、4ヶ月待って噂のヨガクラスを受けた。確かに、翌日の肌艶が凄かった。ラッキーなことに来月も予約を入れられた。それにしてもカッコいい♡

ある日、スタジオ近くのコンビニに先生を見つけ自分も店内に入り目で追った。カフェラテSをひとつ買い、誤ってLボタンを押したようでアタフタしていたので店員さんを呼び助けてあげた。私たちは顔見知りとなった。

次のクラスで瞑想の時間に薄目を開けると彼が私を見ているではないか。胸が高鳴った。
「心を無にして呼吸に意識を向けて...」という美声を聞きながら、私の頭の中は次の一手をどうするかという煩悩でいっぱいだった。

クラスが終わるとスタジオに集まった女たちが先生の周りに更に密な空間を作った。私は着替えて先生の出待ちを狙うことにした。

先生はスタジオを出るとすぐに先日のコンビニに入った。外から様子を伺っていると、先生はまたコーヒーマシンで同じ失敗をしているではないか。
なんて可愛らしいんだと思ったも束の間、先日の店員が笑顔で先生の汚れた服を拭いている。なんとも良い雰囲気のふたり。それを見る私は人魚姫の気分だ。

・・・・・・・

彼が歩けば皆彼を追う。彼が笑えば皆笑顔を返す。彼が困れば我先にと皆助けに行く。彼の周りにはいつも頬を上気させた女たちが集い、さながら花畑のような空間が生まれる。私もつい最近まではその中の一輪だったが、人魚姫体験をしてから全く逆の感情が生まれた。激しいファンが激しいアンチに変わるように「やってらんないわ」な感情。私はスタジオに唯一存在する冷めた目の女となった。

ある日、駅の券売機前でアタフタしている彼を見つけた。この時代に券売機前に立つのはお上りさんと老人だけなのに。彼は切符を買えない幼稚園児のようだった。

「先生、どうしました?」
「あ、これ、xx駅までなんだけど、どう買えば...」

代わりに切符を買ってあげて渡すと彼は目をウルウルさせている。

「この間も助けてもらいましたよね。しっかりされてるんですね」
「先生は、機械弱いですね」
「はい...僕、全然ダメです」

その瞬間、携帯の呼び出し音が鳴った。彼が鞄から取り出したのはボロボロのガラケーだった。しかも変なストラップがついている。ピンクの矢が私のハートにグサグサ刺さった。ダメだ、私この人すんごい好き♡


通勤電車でよく会う学生さん?

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ある夜、通勤電車でよく会う学生さんとのけしからん夢を見た。
朝、そんなダメな自分に自己嫌悪しつつ、頭で何度もリピート再生した。
自分のヤバい部分が抑えきれなくなり、あの学生さんが何者なのか、どうしても知りたくなった。それで、有休まで使って彼を尾行することにした。

学生さんはやはり大学生らしく、有名私大のある駅で下車した。さすがに人気者らしくキャンパスに近づくほど彼の周りに人が集まった。やはり私の彼は特別だ、なんて思いながら、キャンパス正門に近い喫茶店の窓側に張り込みのごとく長時間居座った。

だいぶ経って彼が急いだ様子で大学から出てきた。私も急いで追った。多分バイトか何かであろう。バイト先を知れば、そこに偶然のように行って話しかけてみればいいんじゃないか?よく同じ電車に乗ってますよね?と。そんなことを考えながら走っていくと、彼は公園へ入り炊き出しボランティアに加わった。彼は思った通りの心清き素晴らしい青年だった。それに比べ自分の穢れよう...

この美しき青年のことは遠くから愛で応援するだけにしようと自分自身に固く誓った。

・・・・・・・

穢れきった私は、この清く美しい学生さんに影響され、社会問題について学んだり、寄付したり、ボランティアに参加したりするようになった。
すると「ああ、彼氏が欲しい」「ああ、結婚いつできんだろ」という煩悩は消えて無くなり、私の心も清く美しくなった感覚がした。すぅ〜っと心が軽くなる気がして、これぞ私の生きる道!と思えた。

そんなある日、ボランティア活動中に学生さんとバッタリ会った。お互いに「あっ!」と反応した。

「いつもxx線で会いますよね!」
「そうですよね。朝ね。奇遇ですね」

真正面から見る、しかも私に注がれる彼の笑顔は太陽のように眩しかった。

その日以来、私たちは毎日車内で待ち合わせする恋人のごとくに電車で朝の挨拶を交わし、一緒に乗り合わせる数駅の間、環境問題やら政治問題やらの話題で盛り上がった。
不思議なことに、私の心はすでに清く、やましい考えは一切起きなかった。

一緒に参加したボランティア活動の後、夜道を歩いている時、彼は突然、世に言う「壁ドン」を私にした。

「ごめんなさい、俺、我慢できなくて」

私は思った。
にんげんだもの。

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