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エピローグ
村崎アミ(=あなた)は、綺麗な月を見て7人のうちの誰かを思い出しました。それは誰ですか?あなたの脳裏に浮かんだ人を目次から選んで読んでください。(もちろん、全員読んでも構いません♡)
1. ソクジン先輩
綺麗な月を見て、大学2年のあの夏の日も満月だったと思い出した。それですぐに、彼に電話をかけた。
「もしもし、先輩?」
「おっ。なんだ。何かあったか」
「ううん、何もないんだけどね、月が綺麗だったから電話したの」
「はーっ、なんだ突然に」
「あのね、先輩。私、先輩に話したいことがあるの。私ね、先輩がいつも私たちのこと気にかけてくれるの、すごい感謝してる。それに私、大学の時、先輩のこと好きだったんだよ。だけど私間違っちゃって、こんな風になっちゃって、でも、やっぱり私...」
「やー!!ちょっと待て!ちょっと待ってろ!」
そう言って電話は切れた。
数十分後、玄関のチャイムが鳴った。先輩が息を切らせ、膝に手を当てて立っている。
「やー!そういうことは、電話で言うことじゃ、ないだろ!それに、まずは、俺に言わせろ」
玄関で先輩は少し辛そうに身体を起こした。そしてほんの2、3秒、私たちは無言で見つめ合った。ふっと先輩は照れたように笑い、私の手を引き、その大きな身体に引き寄せ私をすっぽりと抱き締めた。先輩の大きなトレーナー越しに先輩の鼓動と体温を感じる。先輩は私の髪を優しく撫でた。私たちは長い遭難からやっと救出された。
2. ミン部長
綺麗な月を見ていたら、何故だかボソボソとしゃべる低い声が脳内に響いた。
翌日、私はミン部長とアポイントがあった。会議室に入るなり、彼は「はあーぁ」と大きな溜息をわざと聞こえるように吐いた。
「村崎さん、今日は残念なお知らせがあります。いや、いいお知らせなのか?実はですね、僕、来月から異動することになりまして。なので、次回、後任の者を紹介しますから、この案件についてはしばらく待っていただけますか」
「はっ、そうなんですね。次はどちらに...」
「んー、経営の方に回ることになりまして」
「それは、おめでとうございます」
「はは、まあ、ありがとうございます」
準備した資料は不要になった。持参したペライチの書類をミン部長は丁寧に二つ折りにして手帳の上に重ねている。これで終わりは寂しすぎる。私はミン部長の海にダイブしようと心を決めた。
「ミン部長、最後に私からのお願い、聞いていただけますか?」
「なんですか、こわいなぁ」
「今度、仕事と関係なく、外でお会いできませんか?」
「...........」
沈黙の後、ミン部長は俯いてクスッと笑う。
「お安い御用ですよ」
そう言って革製の手帳を開き、何か走り書きしてそのページを破った。
「これ、私の番号ですから。いつでも連絡ください。美味しい店にお連れしますよ」
会議室は照れ臭さと幸せな気分とで充満した。席を立つとき彼が、「やっぱり、大人の男がいいでしょう?」と冗談を言い、私は笑った。ああ、ミン部長とのデートが楽しみでならない。
3. ホソク先生
綺麗な月を見ていたら、ホソク先生と過ごした静かで落ち着いた時間を思い出し、どうしても声が聞きたくなった。
「もしもし、アミさん?シュウくん、何かありました?」
「いえ。シュウは寝てます。なんとなく、電話してみました」
「はは、そうですか」
ホソク先生の笑顔が見えた気がした。
「月が綺麗なんです。空、見てみてください」
電話の向こう側で窓を開ける音が聞こえる。
「ほんとですね。今日は満月かぁ。いいですね」
「月が綺麗ですね」
「アミさん、酔ってますか?」
「いえ、1滴も飲んでませんよ」
「そうですか?...もし良かったら、今から一緒に飲みませんか?」
ほどなくして、ホソク先生は多種多様なお酒が入った大きな袋を抱えて我が家にやってきた。
「先生、買いすぎ」
「いやぁ、何がアミさんの好みかわからないから、取り敢えず色々買ってみました。何にしますか?アミさん、選んでください」
「んー、じゃあ、ワインで、いいですか?」
「はい」
ワインオープナーをホソク先生に渡し、私は簡単なおつまみを用意する。ブスッ、という鈍い音がしたので振り返ると、コルクが途中で折れてしまったようである。驚いて目を見開いている先生を見て私は笑い、先生も笑った。一緒に四苦八苦しながら残りのコルクもなんとか抜く。
「先生、もしかして、あまりお酒飲まない?」
「はは〜、バレちゃいましたか。弱いんです、実は。すぐ赤くなります」
「ふふふ。ならそう言ってくれればいいのに」
「いえ、アミさんとお酒飲んでみたかったので」
「私は...お酒の力を借りようかな、って思ってたんですけど。ふふふ」
おつまみを作り終え振り返ると、ホソク先生がすぐそこに立っている。見たことのない、真剣な表情で。
「先生?」
先生はいきなり私を持ち上げキッチンの作業台に載せた。ふたりの目線はほぼ同じ高さになった。
「いい?」
私は頷き、彼は顔を近づけ、唇が重なる。私の全身は痺れ、渦に飲み込まれる感覚がした。ああ、溺れる。
4. ナム君
綺麗な月を見ながら、私はひとり呟いた ー 月が綺麗ですね ー そして、その一文だけをナム君の会社用メールに送信した。
翌朝、オフィスでメールチェックをしていると、いつもの社内チャットの通知音がした。
<ソンベ、昨日のメール、何?>
<月が綺麗ですね。そのままだよ>
<漱石?www>
<ダメ?>
<え?どういうこと?>
<ナム君に言いたくなったの。月が綺麗ですね、って。ダメ?>
数分後、肩で息をしながらナム君が私のデスクにやってきた。
「びっくりした!どしたの?そんな汗かいて」
「いや、ソンベが変なこと言うから。どーゆーこと?」
「え?だからそのままだって」
「漱石の?」
「うん」
するとナム君は困ったように笑い、
「は〜ぁ、この先輩は、まったく」
ふふふと私が笑うと、彼は私の目の前にキレイに包まれた薄い箱を置いた。
「これ、ソンベに。ちょっと前に買ったけど、渡せてなかった」
開けると、中にはキレイなピンク色のスカーフ。
「わっ、可愛い!」
ナム君は満足そうにエクボを引っ込めている。
「今日お昼、出られますか?」
「うん、大丈夫」
正午。オフィスビルを出て、いつものようにふたり並んで坂道を歩いた。ここは人通りも多い。
「ソンベ、遠回りしましょうか」
そう言って、ナム君は私の手を引っ張り、人の少ない路地に入った。確かにここでなら手を繋げる。手と手を合わせただけで私の心臓は高鳴り、体が火照った。背の高いナム君を見上げる。ナム君はエクボを引っ込め私に微笑む。この大きな手をずっと離したくないと思った。
5. ジミン君
綺麗な月を見ていたら、ジミン君のキラキラした瞳を思い出した。それで、ジミン君にLINEを送った。
<次のデートはいつ誘ってもらえますか?>
少し待つと既読がついた。返事が来る前に私はもう一文送った。
<私、もう決心つきました♡>
送信と同時に既読がつく。でもいくら待っても返事は来なかった。
風が気持ちいいのでそのままベランダでビールを開けて飲んでいた。すると通りの先から走ってくる人がいる。ジミン君だ。私のマンションの近くでキョロキョロしているので、「ジミンくーん!」と叫ぶと、やっと私に気が付いて「何号室ですかー?」と笑顔で返事が来た。
私は玄関のドアを開けてジミン君が来るのを待つ。エレベーターが開き、頬を上気させたジミン君が現れた。
「びっくりしたよ。走ってきたの?」
ジミン君はハアハアと息を荒くして言葉が出ないようだ。すぐに部屋に招き入れ水を入れたグラスを渡す。
「アミさん、僕と、付き合ってくれるって、こと、だよね?」
「はい。まだ間に合いますか?」
と言った瞬間、ジミン君は私を抱き寄せた。
「やったーーーっ!」
「もー、ホントに大袈裟だね。喜びに来たの?」
ジミン君は私を一旦離し、キラキラした瞳でこう言った。
「良い子で待ってたご褒美、貰いに来た」
またまた、と軽くかわそうとすると、ジミン君はもう雄の顔になって私を壁に追い詰めた。ジミン君にまで聞こえてしまうと焦るほど、私の心臓は大きな音を立てた。ついに味わえた柔らかい唇の感触とともに、これから始まる遊園地のような恋を予感した。
6. キムテヒョン
綺麗な月を見ていたら、昼間のあの唇の感触を思い出し、体にまだ残っていた電気をビリっと感じた。
「もっと自分を甘やかして。Love Yourself...」低い美声がこだまする。
思い切って、私は甘美なあの紙切れに書かれた番号に電話した。
「はい」
その一言でそれがキムテヒョンだとわかった。
「村崎です。xx編集部の」
「こんばんは。電話、してくれたんだね」
「はい。月が、綺麗だったので」
「ふふ。ありがとう」
一瞬の沈黙。
「テヒョンさんに、私、会えますか?」
「今なら大丈夫だよ。〇〇ホテルにいる」
「あ、今は...子供がいるので出られません」
「そう...僕、明日からまた海外なんだ。パリで撮影があって。1ヶ月近く戻らないかもね」
「そう...ですよね...」
スーパースターの海にダイブすることの現実に直面していると、キムテヒョンはその心落ち着く低い声で歌を歌ってくれた。ほんの一節だったが、その歌声は私の心に染み渡った。
「きっと会えるよ。会ったら今日の続き、しようね。おやすみ」
そうして、電話は切れた。
その夜も翌日もずっとキムテヒョンのことで頭がいっぱいだった。強く惹かれるけど、惹かれてはならない人だったのではないか...喜びと後悔を行き来しては悶々とした。
数日後、オフィス宛に封書が届いた。キムテヒョンの事務所からだ。封を開けるとそこにはパリ行きのオープンチケットが2人分、入っていた。私は今まで想像も及ばなかった甘美な世界に、足を踏み入れたのかもしれない。
7. グク先生
綺麗な月を見ていたら、満月にうさぎが見えた。
あの運動会の一件で、グク先生はいつもの元気を失うのではないかと心配していた。しかし、彼は強かった。
運動会翌日に保育園に行くと、珍しく誰もいない入り口にグク先生がいた。
「先生、昨日は、大丈夫でしたか?」
ちょっとふくれっ面のグク先生は、こちらを見ると、
「大丈夫じゃないです。ここが」
と、イタズラっぽい顔で胸に手を当てた。言葉がなく苦笑いだけする私に、「はいこれ、持っててください」と連絡先が書かれたメモを差し出し、躊躇する私の手の中に押し込めた。
あの時のメモは、確かお財布に入れたはずだ。満月を見ながら、あの頑張り屋の可愛いうさぎを放ってはおけない、そんな気持ちで私は電話をかけた。
「はぃ」
低くやる気のない声が聞こえる。
「もしもし。xx保育園の村崎シュウの母です」
一瞬の沈黙の後、
「シュウくんのお母さん?え?マジで?」
という飾りゼロの声が聞こえた。
私たちはデートの約束をした。デートの時には預かると約束してくれたユキにシュウを頼んだ。ユキに「銀行員?医者?またMr.キューティ?」と聞かれて「保育園の先生」と答えると呆れられた。そして「歳下はね、色々ヤバイから。頑張ってね」と言われ送り出された。
待ち合わせ場所に行くといつもと服の感じが違うグク先生が見えた。異常に、カッコ良かった。事実、若い女の子たちが少し距離を置いて彼をキャッキャと鑑賞しているではないか。そして彼はそうされることに慣れている様子なのだ。スゴイのとデートすることになった、と私は武者震いした。
グク君(デート始めに先生と呼ばないでと言われた)はとにかく、力が強かった。変な感想だが、それが印象的だった。私の腕を引っ張る時、人波にのまれそうな私を体に寄せて守るよう歩いてくれた時、なかなか開けられないドアを軽々と開けた時、道端に倒れた男性をひょいっと持ち上げた時などなど。それに、いつもより薄着のグク君を間近で見ると、筋肉が凄いのがよくわかった。うさぎのように可愛い笑顔と、黒豹のように強そうでカッコいいカリスマに、私は目眩がしてきた。
グク君は歳上の私とデートするために一生懸命事前準備したようだった。行く場所、店、食べるもの...でも慣れないことをしているのははっきりとわかった。そんなところが愛しくも思えた。それで私は彼が普段行ったりやったりすることが見たいとリクエストした。行った先はバッティングセンターだった。
慣れた感じでバットを振り回し、次々と速いスピードの球を打つグク君を見ていて、デートというプロセスを早くスキップしてしまいたい衝動がこみ上げた。彼は多分、すごい当たりくじだ。
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