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バンタンと夢の国妄想〜クサズ編

ディズニーに行きたい。特にシー。夜のシーを歩きたい。
前回、SINで妄想して十分に幸せを得た私。ただ、強い薬を摂取するとすぐに中毒のような状態になって次を欲するのね。
というわけで、今回は私がバンタンで最も愛するクサズとシーにトリップします。

【ホソクと】

私は今、大学時代から付き合っている彼と遠距離恋愛中だ。製薬会社に入社した私は地方都市に配属され、東京にいる彼と離れ離れになってもう2年近くが過ぎた。今日は有休を使い、かなり久しぶりに彼に会う。

朝一の飛行機で羽田へ飛び、リムジンバスでディズニーシーへ。だから彼とは現地集合だ。

エントランスにある大きな地球儀の方へ向かうと笑顔で大きく手を振る彼がいる。彼は笑顔のまま私の肩を軽く抱き寄せた。

「おつかれ〜」
「う〜ん、ホソギもおつかれ。待った?」
「さっき来たよ」
「は〜、やっと会えたぁ」
「ね。今日は仕事のこと忘れて楽しも!」
「うん♡」

彼と最後にディズニーシーに来たのは付き合い始めた頃だからもう5年前だ。ディズニーに行くカップルは別れるなんて話をよく聞くけど、私はディズニーで彼のことをもっと好きになった。長時間並ぶのも明るい彼と一緒ならストレスがなかったし、食事を摂るタイミングや移動するタイミングは絶妙でしっかりリードしてくれるし、お買い物も一緒に楽しんでくれる。社会人になって色んな男性に会ったけど、私は彼が最高の男だと自信を持って言える。

ディズニーで見つかる彼の欠点はひとつだけ。

「ねぇ、今日もホソギルール適用?」
「え?あはは、そりゃあ適用だよー」

ホソギルールとは身長制限のついたアトラクションには乗らない、という前回彼が作ったルールだ。身長制限90cmなら流石に大丈夫だろうと乗ったニモのシーライダーで彼が思い切り酔ったことが原因だ。

「私、ホントはあれに乗りたいんだよなぁ」
「どれ?」
「タワーオブテラー」
「…」
「ふふふ、うそうそ。あれはホソギには絶対無理だもん」
「…もし乗れたら、どうする?」
「うーん、そうだなぁ。何でも、言うこと一つ聞いてあげる」

ホソクはわざと苦々しい顔をして私を笑わせ、タワーオブテラーのファストパスを取った。

「いーか、約束だからな。よし、じゃあまずはウォーミングアップにあそこに行こう」

ホソクの好きなアトラクション、それは、アクアトピアだ。彼にとっての絶叫系。あのくらいの乗り物が一番健やかにスカッと興奮できるらしい。それから、シンドバッド。乗り終えると必ず「人生は冒険だ〜地図はないけれど〜」と歌い「いい歌詞だなぁ」としみじみするのだ。

ずっと笑顔で久々のシーを楽しみ、いよいよファストパスの時間が来た。

タワーオブテラーの中の小部屋でこのホテルにまつわる奇妙な話を聞き、呪いの偶像が怪しい笑みを見せると部屋が暗転した。次の部屋に移動する時に隣を見たら異常に怯えた表情の彼がいて、私は思わず吹き出した。

アトラクションの後、通路に掲示された瞬間写真を見たらホソクが1年分笑えるくらい面白い顔をしていた。でも彼には笑い事じゃなかったみたいで、私はこっそり、その画面を写真に撮った。

「大丈夫?」
「もう乗らない。あの変な人形みたいなのが怖すぎた」
「あはは。おつかれさま。その代わりちゃんとお願い事聞いてあげるよ」

さっきまで口をへの字に曲げて青ざめていたホソクは、それを聞いた途端何か企んだように微笑み、私の手を引っ張り人混みを抜けディズニーシーの外に出た。

「荷物どこにいれた?」
「あっちだけど…もう帰るの?」

ホソクはロッカーから私のボストンバッグを取り出し、今度はミラコスタのエントランスに私を引っ張って行った。

「え?」
「今日ね、ここに部屋取ったんだよね」
「うそ!」
「へへへ、びっくりした?」
「うん!」
「部屋行ったらもっとびっくりするよ」

彼が予約したのは、ハーバーを見渡せるバルコニー付きの部屋だった。夕焼けの名残が少し残る空は橙から青へのグラデーションがとても綺麗で、私はディズニープリンセスにでもなった気分でバルコニーに体を預け夕風に当たった。

「どう?」
「さいこ〜ぅ!」
「へへへ」
「あれ?待って。結局お願い事って、なに?」

するとホソクは私の横に跪き、真剣な顔で私を見上げた。突然のことに私は驚き、言葉も出ない。

彼はポケットから小さな箱を取り出し、その蓋を開けた。中には綺麗なダイヤが輝いている

「僕と結婚してくれますか?」
「……!」

溢れ出てきた涙を両手で押さえて何度も頷いた私を見ると、さっきまでの真剣な顔が太陽みたいな笑顔に変わり、彼は私の左手に指輪をはめた。

「仕事もあるから今すぐじゃなくてもいいけど、今僕、結婚のファストパス申請したからね」

仕事も何もかも捨てて、すぐにでも彼のものになりたかった。私は最高の幸福に酔いしれた。

ミラコスタのバルコニーにて


【ナムジュンと】

彼と出会ったのは村上春樹のノーベル文学賞受賞をカウントダウンするイベントだった。私も彼もハルキスト、そしてその夜も春樹は受賞を逃した。テレビ局の取材がなくなる頃にはどのテーブルもお酒が進み、場は変な盛り上がりを見せ、私は隣席の長身の男と意気投合した。彼は「春樹の小説があるからディズニーには行かない」という私の発言に激しく同意し、一気に距離感を縮めて来た。

「でもさ、ホントにディズニー行ったことないの?」
「いや、ランドは行ったことある。でもシーは行ったことない」
「俺も!でもさ、シーって、あれでしょ、大人向けなんでしょ」
「うん、お酒も飲めるんだよね」
「マジ?」
「らしいよ」
「あのさ、ディズニーいらないとは言っても、俺は敵陣について知っておくのも重要だと思うんだよね」
「ははは」
「だからさ、今度、一緒に行ってみない?シーの方に」

時折エクボを凹ませながら恥ずかしそうに誘う様が慣れてない雰囲気でとても可愛く、私はうんうんとOKした。

デート当日、舞浜駅で待ち合わせ。長身で小顔の彼は遠くからでもすごく目立って私はドキドキした。初めてのデート、しかもシラフで会うのが初めてなのに行き先がディズニーシーとはちょっと難易度が高い。でも彼が一生懸命話題を振ってくれたから助かった。それに、どの話題も知性が溢れセンスも良く、私はどんどん彼に惹かれた。

エントランスをくぐった先の景色に私たちは立ち止まり言葉を失った。すごい…敵陣は思っていた以上に素晴らしかった。彼は完成度の高すぎる建物を見上げながらどんどん前へ進んだ。長い行列ができていて、予習もしてこなかった私たちは取り敢えずその列に並ぶことにした。ソアリンという新しいアトラクションだった。

ソアリンを出た私たちは、お互いを見つめながら感動に体を震わせた。

「すげぇ、すげえよ!」
「嘘みたい、やばすぎる!」

私たちは完全に語彙力を失った。そして一瞬で敵の偉大さにひれ伏した。

ぐるっと一回りする頃には、私も彼もディズニー大好きっ子と化していた。そして、やはりなにも考えずに大きな船の船尾にあるアトラクションへ入った。そこにはお喋りができるウミガメがいて、人間の質問に答えてくれるという。

驚いたことに、彼は、真っ先にウミガメに当てられた。会場を沸かせる上手なスモールトークを終え、ウミガメは本題に入った。

「ナムジュン、お前、俺に何か聞きたいことはあるかい?」
「…幸せとは、何ですか?」

ウミガメは驚いた表情で沈黙した後「おいナムジュン、深いな。俺はそんなお前が好きだぜ」と言った。隣をふと見ると、ど直球な質問をした彼の顔はすごく真剣で、私は心臓に矢が刺さったかの如く、瞬間で、恋に落ちた。真剣な彼とぼーっとする私の前で、ウミガメはこうまとめた。

「幸せっていうのは感じるものなんじゃないかなぁ。身の回りには大きい幸せも小さい幸せも沢山ある。一番大事なのはそれを感じられるかどうかだ」

会場は拍手喝采。再び隣を見ると、彼は目を輝かせていて、私の視線に気付くとこちらを見てエクボを凹ませた。

外に出て、開口一番彼は言った。

「レジェンドだ…あのカメが言ってたのはまさに小確幸なんだ…」

彼はその後5回連続でウミガメに会いに行った。さすがにウミガメも気づいたのか、もう二度と彼を当てることはなかった。それでも、彼はずっと幸せそうだった。

帰り道、彼はずっと敵陣の素晴らしさについて語っていた。私はと言えば、敵陣よりも彼の魅力にノックアウトされていた。

JRに乗り換え東京へ近付いていくうちにディズニーの魔法がどんどん消えていく感覚がして、私と彼にかけられた魔法も消えてこれで夢の時間は終わりなのだろうかと寂しくなった。八丁堀駅で電車のドアが閉まった時、彼がぼそっと呟いた。

「ランドも行ってみたいな」
「ふふふ、もう完全に白旗だね」
「うん」
「ランドもきっと夢の世界なんだろうな」
「あの…さ、また一緒に行こうよ。今日、君と一緒だったからこんなに楽しかったんだと思う。だって俺、今もまだ幸せが抜けない」

彼の言葉とエクボは私に永遠に解けない恋の魔法をかけた。

マンマビスコッティーズベーカリーにて



あ〜、妄想幸せ♡

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