見出し画像

ビジネスとしてのeスポーツとシージの問題点

どうも、おふとんです。

もうご存じの方も多いかと思いますが、最近魚群というチームに入りまして、再びコーチとして活動を始めました。
直近の大会では負けてしまいましたが、自分自身コーチとして学ぶことも多い大会期間だったので、これを糧に次の大会でいい成績を選手が残せるようにサポートしていけたらと思っています。

さて、今回の記事ではeスポーツをビジネスとして成立させるにはどういう考え方が必要なのかと、(少なくとも日本において)eスポーツとしてのシージの問題点のようなものについて書いていきたいと思います。



1.eスポーツ顧客への理解を深める

eスポーツをビジネスの視点で考えるにあたり、まずは顧客について理解する必要があります。どんな人がお金を落としてくれるかがわからないと、ビジネスのコンセプトを考えることが出来ないからです。

1-1.eスポーツ顧客の分類

顧客の分類としては大きく以下の図1の形になります。
上に行けば行くほど、エンゲージメント(ゲームタイトルへの愛着心のようなイメージ)が大きくなり、人口も減ってくるような感じです。
上から競技コアファン、競技ライトファン、カジュアルプレイヤー/視聴者、認知層、非認知層という風に今回は名付けて、分類しました。

図1:eスポーツ顧客のピラミッド

1-2.eスポーツ顧客の行動特性

次に各顧客分類がどのような行動特性を持っているかを図2の表で整理しました。
このときに重要な観点として、ゲームという視点で見れば、①~③が直接的な顧客となりますが、eスポーツに限った場合は③は対象外となり、①と②のみが直接的な顧客となります。

図2:eスポーツの顧客分類別の行動特性

2.eスポーツの売上を増やす方法を考える

第一章ではeスポーツの顧客はどのような層で分類され、それぞれの顧客分類における行動特性はどのようなものかについて考えました。
これを踏まえて、eスポーツの売上を増やすには何をすればよいのか考えていきます。

直感的に考えると、あるゲームタイトルをプレイしたり、その配信を視聴する人々が増えさえすれば、顧客数の増加に付随してeスポーツの売上も増加すると考えてしまいがちであり、売上増加策としてゲームタイトルのマスプロモーションや人気配信者にプレイしてもらう等の施策を打てば十分であるとなってしまいます。

しかしながら、これらの施策は⑤や④にいる顧客を③に押し上げる施策としては有効であるものの、③にいる顧客を②や①に押し上げる施策としては必ずしも有効ではありません。
すなわち、ゲームタイトルのファンベースを広げる施策とそのタイトルのeスポーツのファンベースを広げる施策はイコールではないわけです。

もっと言えば、各分類に属する顧客を一つ上の分類に押し上げるための施策はそれぞれ異なります。
つまり、⑤→④のための施策、④→③のための施策、・・・、②→①のための施策はすべて異なるということです。(図3参照)

図3:各分類に属する顧客を一つ上の分類に押し上げるための施策はすべて異なる

もう一つ重要な観点として、各顧客分類に属する顧客のeスポーツ売上に対する貢献度も異なることです。

③~⑤に属する顧客はそもそもeスポーツのファンベースに含まれないので、当然売上は0になります。
さらに①と②の売上貢献度も大きく違います。マーケティングの世界では、パレートの法則(詳細はリンク先を参照)として有名ですが、一般的に売上の80%は上位20%の優良顧客によって占められているそうです。これに基づくと、(少し飛躍はありますが)①が売上の約80%を占めており、②が残りの20%、③~⑤は売上には全く貢献していないと言えそうです。(図4参照)

ここまでの内容を踏まえると、eスポーツの売上を増やすには如何に①の人数を増やすために有効な施策を打つことができるかが最も重要な課題であるということになります。

図4:eスポーツ顧客と売上の関係

3.eスポーツの売上増加策とシージの問題点

今回の記事では、2章までの内容を踏まえ「eスポーツの売上増加策」を「顧客を②から①に押し上げる施策」と定義します。

もちろん①を増やすには前提として、②、③、④を増やすことも必要です。しかしながら今回の記事で「②→①」以外の施策についても触れていくと、論文レベルのとんでもない長さの記事になってしまうので、一旦「②→①」だけにさせてください。

3-1.eスポーツの売上増加策の具体例

まず②→①の施策を考える前に、①&②の定義を確認していきます。

①競技コアファン
・eスポーツイベントの配信を積極的に視聴する
・配信等の好きな選手のコンテンツを視聴する
・オフラインeスポーツイベントに参加する

②競技ライトファン
・ゲームタイトルの大会等のeスポーツイベントが配信されている場合は視聴する

これらを踏まえると、②の顧客を①に押し上げる、すなわち顧客のエンゲージメントを高めるには、顧客のエンゲージメントを以下の2つの方向性で高めることで考えられます。
・eスポーツそのものに対するエンゲージメントの向上
・チーム/選手に対するエンゲージメントの向上

前者は、顧客がゲームタイトルの競技性自体に魅力を感じることで、eスポーツイベントの配信の積極的な視聴やオフラインeスポーツイベントへの参加へとつなげていく形になります。
この方向性で顧客のエンゲージメントを高めるには、競技性の奥深さを伝える解説系のコンテンツを提供することが最も代表的な手段として考えられます。

後者は、顧客が大会でプレイする選手に魅力を感じることで、選手個人の配信の積極的な視聴や、選手の活躍を見るためのeスポーツイベント配信の視聴やオフラインeスポーツイベントへの参加へとつなげていく形になります。
この方向性で顧客のエンゲージメントを高めるには、選手個人が配信や動画投稿などを行い、自身の魅力を顧客に知ってもらうことのできるコンテンツを提供することが最も代表的な手段として考えられます。

3-2.売上増加策を踏まえたシージの問題点

3章1節で、顧客を②から①へ押し上げる2つの方向性とそれに対応する具体的な施策として以下を紹介しました。
・eスポーツそのものに対するエンゲージメントの向上
 →解説系コンテンツの提供
・チーム/選手に対するエンゲージメントの向上
 →選手個人での配信や動画投稿によるコンテンツの提供

前者については、シージのコミュニティとして十分な解説系コンテンツが提供されている訳ではないですが、ヴァロラント等の成功しているゲームタイトルにおいてもまだまだコンテンツの提供量に課題がある部分であり、一概にシージのコミュニティだけの問題とは言えないので、今回の記事においては一旦触れないでおきます。
SmashlogTV等の解説系コンテンツは今回②→①というよりも③→②のためのコンテンツと分類したので、ヴァロラントにおいてもコンテンツ提供量で課題があるとしています。

続いて後者についてです。
こちらに関してはヴァロラントと比較した時にシージのコミュニティとして大きな問題があると言える部分です。

今回はヴァロラントとシージにおける選手からのコンテンツ提供量について、おそらく各シーンの人気トップチームであるZETA DIVISIONとCAGについて比較していきたいと思います。

表1は2022年10月10日~23日の2週間の間におけるTwitchおよびYouTubeにおけるコンテンツ提供量を比較したものです。(集計方法の詳細は記事の一番最後に載せています)

TwitchおよびYouTubeにおけるコンテンツ提供量

表1を見れば一目瞭然ですが、ZETAのヴァロラント部門はCAGシージ部門の約3倍もの時間をTwitchで配信しており、CAGと比較してもかなり高い割合を自身の所属する部門のゲームの配信に費やしています。
YouTubeにおける動画投稿に関してはさらに差が大きく、ZETAの動画投稿数31本に対し、CAGの動画投稿数1本のみでした。
(※ちなみにCAGの選手から唯一投稿されていた動画はヴァロラントの動画でした…)
さらにこうしたコンテンツ提供量の差に比例して、切り抜き動画数にも大きな差がついており、選手に興味を持った競技ライトファンが配信・動画等の選手のコンテンツを見ようと思っても十分なコンテンツ量がないというのがシージの今の大きな問題点であると言えるでしょう。

これは別にCAGの選手だけを批判したいといわけではありません。
CAGの選手がシージ関連のコンテンツを提供しない背景には、シージのランクマッチにはチーターが非常に多く高ランクのプロ選手が楽しみづらかったり、シージのコンテンツを配信・動画投稿しても伸びづらい等の点があるかと思いますし、それ自体は理解ができます。
またコンテンツ提供量が少ないという問題はCAGの選手だけの話ではなく、日本のシージのプロ選手コミュニティ全体に言えることだと思います。

しかしながらそのゲームのeスポーツの第一線で活躍する選手たちがプレイしているゲームのコンテンツをまともに提供しなければ、競技ライトファンは選手の魅力を感じることができないだけでなく、そのゲームのeスポーツの魅力すら十分に感じることはできません。
そしてそれがコミュニティの衰退につながってしまいます。

こうした現状に危機感を持って、シージのコミュニティが少しでも存続するように選手たちが自分たちのできる範囲で行動を起こしていくことが今後のシージのためにも重要なのではないかなと思う次第です。


個人的にはeスポーツはビジネス的な視点というよりも、競技的な視点で見ることの方が100倍くらい好きですが、ビジネス的な部分で一定程度成立していないと、そもそも競技としても成立しえないので、今回はこんな記事を書いてみました。

個人的には少しでも長く競技シーンが続いてほしいので、この記事がちょっとでもシージの未来について考えるきっかけになればうれしいです。

それではまた。


注)表1の数値の集計方法について
集計期間はすべて2022年10月10日~23日の2週間です。

【Twitch】
総配信時間
集計期間中の各チームの選手5人の配信時間の合計
所属部門ゲーム配信時間
集計期間中の各チームの選手5人の所属部門ゲーム(ヴァロラント部門であればヴァロラント、シージ部門であればシージ)の配信時間の合計
所属部門ゲーム配信割合
所属部門ゲーム配信時間/総配信時間(%表記)

【YouTube】
投稿動画数
集計期間中に各チームの選手5人が自身のメインチャンネルにて投稿した動画数の合計
切り抜き動画数
集計期間中に各チームの選手5人の公認切り抜きチャンネルにて投稿された動画数の合計


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?